第87話 作っちゃった(鞘を)
またまた5000字をオーバーしてしまった。
もうこれからずっとこれで行こうかな。
今日、またアリスが倒れた。これで九回目だ。二回目の時は自己申告で十五分程度で目を覚ますと言ってその通りだった。しかしその次は違った。王都に近づくにつれて犠牲者の数は膨れ上がっていき、同じようにアリスが使う蘇生魔法の規模も広く強くなった。
そして今回訪れているのは王都の次に大きいと言われている街。その死者数、平民兵士貴族合わせ凡そ二万五千人。最初の村のような小規模な魔法では到底範囲が足りず、移動しながら十数回に分けて蘇生することになった。
それだけならまだ良かったのだが、生き返ったエルフ達がアリスをまるで女神のように崇めどこに行っても着いてくる。それは移動と蘇生の妨げになり、結果アリスの変化――アリスが自分でつけた名前ではトランス状態と言うらしい――する時間は長くなってしまい、反動で眠りにつく時間も大幅に増えることになった。皮肉ながら本人の見立て通りトランス中の数十倍の睡眠時間が復帰のために必要、という仮説は当たってしまった形になる。
この規模の人間を一気に蘇生魔法の対象にしてしまうと、戦争に関係なく一年以内に死んだ者を無差別に蘇らせたり、記憶の混乱や物資の不足により暴動の可能性があるとして、交易都市を丸ごと包んだような巨大な範囲での蘇生は出来ない。
民は居てもそれを守る兵士が各地に散っているので治安の維持が不可能であるとティナが言っていた。実際あの魔法を使うと長くて一日程度周囲で魔法が使えない状態になり、襲撃や事故が起きた際に対応が難しくなる。
今まで一番数が多かった交易都市の魔法不能時間はその程度で済んだが、この街の犠牲者を全員一気に蘇生するとなると再び魔法が使えるようになるまでどれだけの時間が必要になるか、想像もつかない。それはアリスを危険に晒すのと同じであり、せっかく蘇った人達がまた死んでしまうと蘇生するのに時間が必要になる。つまり、アリスが無茶をする回数が増えるってわけだ。それだけは避けなければならないんだけどねぇ⋯⋯。
「これを御使様へ奉納したいのです。なんとか御拝謁願えませんか?」
「無理だ、あの子は今も寝てる。代わりに渡しておくからそれで勘弁してくれないか」
「しかし、私共は直接お礼を言いたいのです。どうか⋯⋯」
「だーから無理だって!あの魔法は反動で数時間は寝込むんだよ!分かったら帰ってくれ!」
とまあ、こんな感じだね。礼を言いに来るだけでも仰々しいったらありゃしない。礼を言うだけならまだしも、ウチの子供がまだ蘇っていないだの、予定を繰り上げて早めにやってくれないか、なんて言いに来る連中もいる。そういう手合いは護衛の兵士と一緒に説得してお帰り願っているが、とても妹に聞かせられる台詞じゃない。下手をすると、本当にやってしまいかねないからだ。
実際に三回目の睡眠が起こった村でも犠牲者が多く、数回に分けてやる予定だったが、その村で最初に生き返った連中の言葉で予定が変わった。自分達だけ先に蘇るのが申し訳ないだとか、早く家族に会いたいと泣く子供の願いを聞き、直ぐ様追加で蘇生魔法を使うことになってトランスの解除に数分遅れが生じた。
その結果、二回目と同じ十五分程度の睡眠のはずが半日寝込むことになってしまった。最もその村ではその後、自分達のせいで御使様に多大な負担を押し付けることになってしまった、と村民全員が青い顔をして謝罪をしてきたのだが。
そのくらいの時間なら魔法が使えなくても問題ないように周囲に兵を散開させ、見張りを増やし、脅威があっても時間を稼げばなんとかなるよう調整はしてある。だが何事もイレギュラーがある。それも思わぬ要救助者からが一番多いのが最近の状況というわけさ。
ユグディシア国民の蘇生はリスクを承知で行っていることではあるが、最近は私の力不足も目立つ。魔法が使えなければ戦えないのは当たり前だが、それに甘んじていてはいけない。本人は望んでいなかっただろうけど妹はあの一件で強くなった。
しかし、こういう時こそ姉である私が守らなくてはいけないんだ。女王様が先に行かずに一緒に居てくれていれば民の統制は出来ただろうが、前線で指揮をして一刻も早く王都奪還をしなければならないのが歯痒い。でなければこの国は来年の春までには崩壊してしまうだろうが。
⋯⋯だがアリスが矢面に立つことを選んだ以上、私はこれまで以上に裏でも支えてあげないといけない。魔法が使えないなら、何かしら技術を身につけるか別の手段を取るしか無い。しかし、どうするか。私はあまり頭が良くないから思いつかないな。⋯⋯こういう時は頼れる相棒に相談してみるか。
「ってことなんだけどさぁ」
「なんだけどさぁ、って言われても私だって知らないわよそんなの⋯⋯」
「むー、ティナが知らないんじゃどうしようもないか。お前等はどうだい?」
今も寝ているアリスを警護するため部屋に詰めているエルフの兵士に話を振る。
「申し訳ありません。我々も基本的な練兵は修めているのですが、魔法が使えない場合での戦闘訓練はあまり。用兵というのは主に人海戦術ですから、魔力が尽きる前に撤退致しますし⋯⋯」
「だよなぁ」
「っていうかそういう時の戦い方ってアンタ以外まともに考えたこと無いんじゃないの?魔法が使えるようになったのだってつい最近なんだしさ~」
「それもそうか。あの時は金が無くて買えなかった魔道具でもあれば楽だったんだ⋯⋯けど⋯⋯⋯」
魔道具⋯‥魔道具?待てよ?そういえばゴブリンエンペラーも高い身体能力はしていたが魔法自体は使っていなかった。あの魔法の剣や篭手の力で補っていたようだけど、そっち方面で攻めるのもアリか。今なら多少無理すれば買えるだろうし。
「そういえばファイアブランドはどうなっちまったんだろうなぁ」
「アリスちゃんの魔術で他の装備と一緒に消し飛んだみたいよ。なんだっけ、原子破壊光線?の威力が高すぎたんだって~」
「あーやっぱりかー。あの魔術も恐ろしいよな、アリスから聞いたんだけどさぁ、この世の中の物は粒の集まりが形を成して全てができてて、その繋がりを分断して塵にするってじゃないか」
「だから何も残らないって話だったわね。昔の人の最大級の技⋯⋯そんな物が開発されるなんてどんな世界だったのかしら」
「きっと血で血を洗う、地獄の方がマシなトコだろうよ」
とまぁ、よく分からないことを堂々巡りで話し妹の目覚めを待っていた。しばらくそうしていると、妹が寝ているベッドから衣擦れの音が鳴りそちらに目を向ける。どうやら話し声が少々大きくなっていたようで目が覚めてしまったらしい。
「うるさぁぃ⋯⋯」
「あ~ごめんね~?起こしちゃったのねぇ~」
「おはよう。調子はどうだ?」
「ふつーかなぁ。お腹空いた⋯⋯」
アリスは優しいから、こういう時に周りを安心させるために嘘を吐いているのが分かる。最近は蘇生とその後の気絶するような睡眠の繰り返しで不規則な生活習慣を送っているため、体調が崩れ前より顔色が悪いのだ。空腹も訴えているが、食欲の割に実際に口にする量は以前より減ってきている。ほぼ寝たきりの生活のせいだろう。
私が移動の補助を行うことも多いから、確実に体重が減って筋肉も弱っているというのも分かってしまう。本人は隠しているつもりなんだろうけど、妹は毎回蘇生魔法を使う毎に力不足を悔いるような顔をしている。⋯⋯蘇生なんて言うバカみたいな奇跡を行使して尚足りないと感じる感性はどうかと思うが、それでもエルフを救うことに必死な妹を誇りに思う。
同じように勘付いているティナがいつでも診てくれる態勢が整っているが、早めに解決するためには、やはり纏めての蘇生魔法の行使が必要だ。その後の空白の状態の不安材料を消すため私の強化も同じく必須なのだが⋯⋯。
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あーくっそ腹が減って体がだるい。寒くて動く気がしないから別にいいんだけど運動不足で血行も悪くなってるっぽいしな。一週間意識不明だった時よりマシだけど小刻みに時間が飛ぶのがなんか気持ち悪い。最近は、起きる→食事やらをすませる→蘇生→強制入眠のループで気づいたら時間がすぎてるんだよなぁ。具体的には一日の活動時間が二、三時間程度になってる。
そりゃ体もガタガタになるわな。でもこれを姉達に教えるとな~、やっぱやめようとか絶対言うからな~!俺が言い出した手前それはちょっとどうなのって感じ。頭の中ではエルフ救済RTAのチャートは出来上がってるけど、肝心の俺の性能が悪くて良いタイムが出せそうにない⋯⋯くやしいっ!(ビクンビクン)
「お、おいっ大丈夫か」
ビクンビクンしてるとこを見られた。いかん、誤解を解かねば。
「だーいじょぶだって!ちょっと気になることがあっただけ!それより早くご飯食べて魔法つかいにいこう?」
「⋯⋯本当に平気なのか?体調が悪いならすぐに言ってくれよ。で、飯を食いながらでいいからちょっと相談があるんだけどな、アリスは世界樹の知識のおかげでかなり賢かったよな?ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「え?何?」
兵士と姉達が軽食――時間の感覚が曖昧すぎてこれが体的に何時食べる物なのかは定かではないが――の用意をしてくれて俺の前に並べられた。この後の予定も詰まっているので、手早くおかゆと弱った体でも噛み切れるようくたくたに煮込んだ消化に良い野菜スープをいただく。肉はな、寝てる間に消化不良で便秘になるからしばらく食ってないのよ。
蘇生作業を始めた最初の頃に、二日間大きい方出してないって言ったらえらい心配されてしまったからな⋯⋯。ちなみに寝てる間は勿論おむつ穿いてて下の世話もしてもらってる。起きたら出せるけど、作業中になんかあったら予定が延びて長時間気絶するのでたまにオネショするのだ。尊厳ェ⋯⋯。
まーた思考が逸れた。で、聞きたいこととは?
「実はな、魔道具で魔法の代わりになるようなのを探してるんだよ」
ふむ⋯⋯?もっと詳しく聞かないとどういう使い方がしたいのか分からないね。ということで、ご飯を食べながら話してもらった詳細を噛み砕く。魔法が使えない状態でも戦闘を可能とする物、もしくは技術が必要か。確かに蘇生魔法使った後襲われたりすると危険だからな。それは俺も思ってた。そしてそんな状況にうってつけの物がある。一応魔道具作成も魔術と魔法の領域だから知識はインストールされているというわけだ。
「分かったよ、じゃあ作ろう」
「作る?」
「作るってアリスちゃん、ここには設備も何もないのよ?」
「そんな一般的なのじゃなくて、もっと凄いでんせつてきなものだよ!」
「「????」」
「ちょっとミスリルの刀貸して」
「あ?ああ、手を切るなよ」
収納から出した形見の刀を受け取る。前から思ってたんだけどなぁ、これ常に抜き身で鞘がねえんだよ。収納から出して振り回すだけなら問題ないんだけど、前世日本人からすると余りにも不格好というかモヤっとする。だからついでに魔道具として使える鞘を作るぜ!目測でサイズを測ります。よし、刀の出番終わり、お返しします。
んーっとーここの陣はこうしてー、符を五重に重ねてー、省略した詠唱式は姉だけに使えるようロックしてー、よし。基本的な部分の構築はできた。後は素材をどうするかだが、この世界じゃ俺の作り出した内部構造に耐えられるだけの物がない。じゃあどうするか?作ればいいじゃん。どこから?ゼロから!
というわけで両手の上に俺から漏れ出したマナをかき集める。そこへ化学反応を起こさせるように細工した微量の魔力を流し込んで変化を促す。すると普段は不可視なマナが見る見る固まって⋯⋯出来た。これぞ最高の魔力容量を誇る”マナメタル”だ!周囲のマナを自動で取り込んでバッテリーのような役割を持つ人工鉱物だぜ!ちなみに見た目はエアロゲルみたいな半透明。
硬度はそこまででもないが、自動で魔素をろ過する機能もつけといた。つまり妖精の下位互換って感じだな。属性を持ってるわけでもないから派手な魔法が使えるようにはならないけど。で、こいつを俺の魔力でもってコネコネして鞘の形に弄くり倒す。そうすりゃ鞘型携帯マナバッテリーMkⅠの完成!
「な、なんだこりゃぁ⋯⋯」
「偉いお手軽に作っちゃったけど体は大丈夫なの?」
「へーきへーき、これは負担にもなんにもならないから」
マナメタルの作成には技術と知識が何より重要だ。高度な魔力操作と魔力についての理解って奴が必要だけど、どちらも既に持っている俺には何の苦もない。吸水性が高い素材で粘土こねるみたいなものだしね。伊達に魔力操作Lv5じゃないんだぜ。それにまだ肝心の魔法が使えない問題がある。つまりはだな。
「で、お姉ちゃん。これ持ってると身体強化とか生活魔法なら使えるようになるけど、それだけじゃ足りないよね」
「そうだなー、出来れば防御系の魔法が使いたい所ではある」
「じゃあ魔術覚えない?魔法より便利だよ?」
「えっ」
妖精を通さない純粋な無属性の魔力が手元にあるということは、それを引き出せば理論上魔術が使えるってことだ。習得するのは大変だけど、せかいいちのまじゅちゅし(キリッ)である俺が居るからすぐ使えるようになるだろう、たぶん。




