第88話 通話しちゃった ※挿絵あり
そこそこ書いてたのに、昨今はやりのPHP問題によるメンテの一斉ログアウトでデータ消失の憂き目に遭いちょっと萎えてました
書き直しだるい!みんなはこまめに保存しよう!
姉に鞘を作ってあげて、魔術を教え始めてから数日が経った。今の所姉の学習速度は驚嘆の一語に尽きる。俺に出会うまでずっと力に飢えてた分、吸収スピードがパないのだ。そのおかげで単独で俺の護衛が出来るまでに至り、街から離れた場所に遺体を運んで、そこで安全に蘇生作業ができるようになったからかなり自由時間が出来るようになった。
まぁ教えるって言うより体の中にある魔力の捉え方と、基本的な魔術の詠唱と魔法陣の構築の仕方を教えただけなんだが。魔術ってやつは比較的に感覚が左右する魔法とは違って、頭の中で綺麗に魔法陣を描いて適切な魔力を流してやらねば発動しない。
魔法みたいに大雑把な感覚で魔力多めに!とか、節約!とかは出来ないのだ。そのためのブースター的な回路を魔法陣に組み込んで、そのように動作するものを作り上げないといけない。まぁ、基盤にパターン描いて電子回路作るのに似てるかも⋯⋯そんなのやった覚えないけど。
魔術の大切なポイントとしては、自分の中に存在する魔力たるオドをどれだけ効率的に利用するかというのにある。抜け道として鞘みたいなバッテリー魔道具を作ったり、人を集め儀式魔術なんてものをやったり色々自由度は高い。更にオリジナルの魔術を作ったり、他人の物をコピーして手を加えてアレンジするなんてのも、ある程度知識があれば出来るようになる。
だから魔術は学問寄りで、崩壊前じゃこぞって研究された分野であり、方向を間違えれば大量破壊兵器にもなるし、正しい使い方なら人類を救うクリーンなエネルギーとして利用もされた万能技術だったわけだ。その分難しかったみたいだけど。
実際俺は簡単に魔術を操れるけど、それは知識があるからそう見えるだけで、本来は積み重ねた歴史=魔術の強さみたいなもんだ。次の戦争のため数年引きこもって新しい魔術を開発⋯⋯なんてこともザラだったらしい。そう考えると、妖精さえ居ればちょっと鍛錬しただけで子供でも魔法が使えるこの世界がどんだけヤバいか。
で、実際に姉に教えた事は全ての初歩になる魔法陣の描き方。それを内向きにすれば魔法の盾になるし、外向きに固めて魔力を放出すれば攻撃用魔術の魔法の矢弾になる。オートエイムで必中の無属性魔力弾を数発飛ばすから中々使いやすいと思う。害意を察知してそこへ着弾するから、見晴らしが悪い場所での索敵代わりにもなるしね。ここまでは簡単に覚えてくれた。
次は⋯⋯何を教えようか。一度に蘇った数千人規模の護衛も、いつも一緒にいる兵士達に新たに作ったネックレス型のマナバッテリーMkⅡを渡してあるので対応できている。これなら明日には作業完了出来そうだ。ちなみに姉二号にも同じ物を渡してあるが魔術はめんどくさがってやらない。解せぬ。
「基礎は大体押さえたね。次はなに覚える?」
「そうだなぁ、どんな物があるか教えてもらってもいいか?」
「うん。攻撃系の魔術はお姉ちゃんが自分で殴りに行くからこれ以上は無しでいいでしょ?後は防御系⋯⋯はもう魔法の盾を仲間にも使えるよう改良してるんだったよね」
「アリスに教えてもらいながらだったけど」
姉は結構魔術の飲み込みが早かった。頭が良くないとか脳筋とか言ってるけど、たぶん地頭は凄く良いんじゃないかな。もしかしたら契約妖精の俺が持ってる魔術適性が影響してるのかもしれないが。
「だったね、じゃあ後は諜報魔術と防諜魔術とか⋯⋯」
「ふーん。そんなの覚えて意味あんのか?」
「この世界にあるかわからないけど、盗聴とか遠視をしてくる魔道具があったらもしかしたら頼る時が来るかも」
「遠視ねぇ、イマイチイメージが湧かないな。試しに使ってもらってもいいか?」
「うん、いいよ!」
俺は魔術を操り遠視の魔法鏡を発動させて、頭に思い描いた場所の景色を魔力で作り出した鑑へ投影する。そこには数ヶ月前に見た懐かしい光景、ガレラ村の実家が映されていた。
「ここは私ん家じゃないか⋯⋯母さんは裏の畑かな?」
「そうみたいだね。キムチの材料を採ってるっぽい⋯⋯⋯ん?」
視点を家の中に移動させると、窓の外に見える畑で白菜に似た葉野菜を収穫しているママが居る。だけど俺はそれより窓際に置かれている何かに目を奪われてしまった。あの人形なんか見覚えあるんだけど?
「あの彫り物見覚えがあるなぁ、実物より良いんじゃないか?」
「ホントねぇ~私も一つ欲しいわ」
あぁ?こっちも十分可愛いが?ここは幼女四十一の必殺技の一つ、ぶりっ子ポーズを繰り出すしかないか。
きゅるんっ!
「はいはいお前も可愛い可愛い」
「こういうトコ意外とチョロいわよね」
「(か、かわよっ!?)ゴホッゴホッ!!」
くっ、謀られたか。どうやら本気では無かったらしい。分かってたけどね?そしてそこの兵士、なにむせてんだ。横向いてプルプルしやがって笑ってんのかオラァァァン!
「シャーッ!」
「す、すいませんでした!」
「当番の人を威嚇するのはよしましょうね」
「気にするなよ、ただの照れ隠しだからさ」
「ぐぬぬ。じゃあ、魔術式はこれだよ。やってみてお姉ちゃん」
「おう、ちょっと待ってな」
姉は俺が空中に描いた魔法陣を読み取り、自分の中に収めていく。既に修得した人がいる場合こうやって受け渡しが出来るのが魔術の便利なところだな。プログラムを他人にコピーして渡すのに近い。広まりやすい技術ってのは対策もされやすいから、どう手を加えて行くかが重要だ。数行書き加えて他の魔術に偽装したりとか、色々やりようはあるのが楽しい所。っと、早速アレンジして発動してきたみたいだな。
「なにこれ」
「いや、さっきのがシンプルすぎたからさ」
「ちょっとないよこれは」
姉が発動した魔術。そのデザインは俺が使ったみたいな空中にボンヤリと鏡が浮かぶ様な無骨な物ではなかった。それは、服も髪も白い長髪のフワフワした女の子が、ニコニコしながら鏡を抱えてこっちに向けてるビジョン。こいつもどっかで見たことあるな。ふしゃー!
「似てる物に威嚇するのもよしましょうね」
「はいはいお前も可愛い可愛い。で、操作方法は⋯⋯こうか?」
姉が何かを念じると魔法で作られた鏡にどこかの景色が映り込み、それが次々と早送りで場面を飛ばすように変化していく。今まで旅をしてきた場所が映し出されて行くと、それはやがてどこかの一室で一人の黒髪の女性が机に向かって何かを書き留めている所で動きを止めた。
「あら、エレノアじゃない。なんだか久しぶりな気がするわね~」
「あっちも大変そうだったからな、一回見ておきたかったんだ。なるほどこりゃ便利だね」
「お城じゃなさそうだね。院長室かな?」
「こ、ここはグランディール王国なのですか!?その景色をこの一瞬で⋯⋯」
御付きの兵士も驚いておられる。せやろせやろ、情報はすべてを制するんやで!相手に先んじて一方的にやりこめるには一に情報、二に情報よ。三、四はなくて戦闘は最後の手段だ!ごめん適当言った、たぶん全然そんな事無い。
「ふむ?なんか熱心に書き殴ってるな。どれどれ」
「ちょっと、プライベートを覗くのは悪いわよ~」
「まぁまぁどうせ手紙かなんかだろ⋯⋯うわぁ」
エレノアの手元にズームして書いていた物を鏡に映す。アレもどっかで見た覚えあるなあ。B5サイズの原稿用紙にコマ割りされて場面場面が切り抜かれた絵だ。映像越しからでも分かるくらい発情した顔でハァハァしながら何かを呟いてソレに欲望を叩きつけている。
凄い勢いで書き上げられている謎の書物、それには禍々しいばかりの視線が向けられている。徐々に線が増えて書き上がって行く机の上の原稿用紙と思しき紙片では、盛大にネチョってる幼女と女性の二人⋯⋯どう見てもウ=ス異本です本当にありがとうございました。
「『そろそろ年末だけどゴタゴタで忘れてた。でも落とす訳にはいかない。”あの界隈”の者達へ、新たに現れた希望を余す所無く伝えねば』と申しております」
まさかこの兵士、読唇術を⋯⋯!?いや、聞きたくなかったそんな話は!あそこに書かれてる幼女がまた俺に似てる感じだし!一緒にいる時は見てくるだけで何もしてこないと思ったら、モデルにして同人誌を作るつもりだったなんて!しかも広めようとしてる!変な方向で信者獲得するからやめろ!
えーっと音魔法を発動中の魔術に紐付けしてここをこうして、こうじゃ!出来た!ついでにあっちの声も拾えるようにしておこう。
「なにやってんの!」
『ホアッ!?な、なんだ!⋯⋯誰もいない、幻聴か』
椅子から飛び跳ねんばかりに驚いて周りを見回すエレノア。しかし誰もいないのを確認すると落ち着きを取り戻して再び執筆作業に戻ろうとする。
「あたしは女神の使いです。そのようないかがわしい絵画を広めるのは人のためにならないので、即刻やめるように」
『また聞こえた!?女神だと⋯⋯アリス嬢の関係者か?』
「そのようなものです。アリスは遠く離れた地でがんばっているので、決してイメージを損なうなどしないように。いいですね?」
『はっ、はい!申し訳ありませんでした!』
うむ、分かればよろしい。
「ふふふ、その辺にしておいてやれよ」
「そうよ。でも確かにこれは便利ね、アリスちゃんの魔法と組み合わせればこんな事もできるなんて」
どんなもんじゃい。魔法と魔術の合わせ技なんて俺だけにしか出来ない芸当だろう。なお常人がやろうとすると例によって例のごとく体が爆発して死ぬ。魔力というのは割と繊細なエネルギーなのだ。
『んん⋯⋯?気のせいかクリス殿とティナ殿の声がするような』
「ああそうだよ、ちょっと実験中でね。そっちの様子を見ながら色々やってたんだ」
『なんと!ということは、さっきの舌っ足らずな声はもしや?』
うるさいよ。気を張って喋らないと難しい発音が棒読みになるんだからな。
「アリスちゃんよ~。とっても頑張ってるわよ、ちょっと目が離せないくらいにね」
『なる、ほど?ちょっと詳しく話を聞かせてもらいたいな。今時間はあるだろうか?』
というわけで、ここ数週間の近況と戦況の報告をするのだった。
『死者蘇生か⋯⋯死をも否定出来るとは、流石は常識外れのアリス嬢だな』
「私も一回死んじゃったけどおかげでこの通りよ。全く、この子がいなければ今頃世界はどうなっていたか⋯⋯」
『まさにその通りだな。アリス嬢が居なければ今頃グランディールもそちらの二の舞になっていただろう。そちらの国を救ってくれたことも含め、重ねて礼を言う。有難うアリス嬢』
「いやあ、それほどでも!」
「それ程だろ。蘇生の費用なんてのがどれほどの額になるのか分からないけど、謝礼の銅貨一枚すら貰ってないんだから」
「でも受け取っちゃうとそれを起点に何かしら軋轢を生むようになるからねぇ。貴族なんかがお金を払えば何でもしてくれるなんて勘違いしても困るし、逆にお金がないから救われないなんて思われても、ね~?」
そこなんだよな⋯⋯蘇生は完全ブルーオーシャンだから教会の生臭坊主共も今のところ何も言ってきてない部分があるし。戦争中は戦闘行為として治療が認められてたから生命復元なんかは使っても問題なかったけど、今行使すると話を知った連中が何をしてくるか。
『そうか⋯⋯う~む』
「どうしたのぉ?なんかあったのぉ?」
『む?うむ⋯⋯私も政から離れているから詳しいことはそう聞いておらんのだがな、愚弟が恩赦で解放され、更にそちらに向かうことになったと聞いてな』
「ぐてい??」
「確か以前の事件の火種になったのと、今回の叛乱の旗頭に据えられた第一王子だったわね。蟄居もさせられてないの?」
『うむ、父様はああ見えて子煩悩というか、ようやく拵えた世継ぎに甘くてな。本人が望むことなら何でもするし罪に問うことも早々無いだろう。実際、今回の謀反は周囲の者達が勝手に引き起こして、名前だけ借りていたようなものだったようだしな』
「それでも責任を取るとか色々あるんじゃないか?国の支配者ってのは責任を取るためにいるようなモンだろ?」
『私もそうは思うがな、アレだけ甘やかされて育つともはや本人ですら善悪の区別がつかんのだろう。教育係であったボロゾフを爺なんぞと呼んで親しくしていたようだしな』
あのクソ貴族を慕っていたっつーのは⋯⋯救われないな。価値観なんぞ死んでるも同然だろう。そいつがこっちに来る?ちょっとお断りしたいね。絶対絡んでくるし無茶振りしてくるだろ、そいつ。その前に隣国の女王たるあーちゃんが居る王都方面にたどり着ければなんとかなるだろうが、蘇生作業をほっぽりだして逃げるのもな⋯⋯どうなることやら。




