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TSした妖精幼女は異世界で家族が出来る  作者: えもぬえ


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第85話 引かれちゃった

「はっ!?」


 目が覚めた。仰向けだったらしく視界に入るのは木目の板、そして梁。いつもの宿屋、子熊亭ではない。あそこ安っぽい内装だからな。


「⋯⋯知らないてんじょーだ」


 ごめんいっぺん言ってみたかった。後悔はしていない。何が起こったんだっけか?ぶっ倒れたりすると毎回記憶が若干混乱するのは幼女の体故なのか。


 ああそうだ、元に戻ったら眠すぎてぶっ倒れたんだっけ。まさか結構キツめの反動かと思いきや単純に眠気だけで倒れるなんてなぁ?普段おぶってもらってる背中で寝たり最近では馬車移動中に寝てたりするから、ぶっ通しで深夜くらいまで起きるなんて初めてだったんだよなー。それでも星が見える前には完全睡眠に入ってるけど。


「んぅ~、ここどこぉ?」


 周りに誰もいねえし、俺はやたらとフカフカしたベッドの上で寝てたっぽい。この部屋に窓はあるけどベッドの上からでも外の地面が見えないから一階ではないな。寝てたベッドは小綺麗で真っ白だから病室みたいな⋯⋯っていうか病室じゃねここ?なんか枕元の台に水差しあるし。ドアなんか鍵穴が無いから内鍵じゃなくて外鍵だ、たぶん。つまりこの部屋は軟禁目的または拘束された患者のためのもの。


 そんなんされる覚えは⋯⋯まぁ覚えはあるけど。ただの暴力装置みたいに敵を跡形もなく消し飛ばしたりな?うん、普通に迫害追放案件ですね。その後の蘇生祭りでどれだけ親密度が回復したか分からんけど、俺ならそんな危ないやつ余裕で干すね。


 さて、ベッドの上から得られる情報はこんなものか⋯⋯動くとしよう。


「へぶちっ!」


 っっっいっだぁ!ベッドから落ちた!なんでや!?下まで足が届かんから慎重に片足ずつ降りたのに!いや、足に力が入らない⋯⋯だと⋯⋯?いつから俺が立てると錯覚していた?まさか、最初から⋯?ってこんな馬鹿なこと考えてる場合じゃないな。這いずってでもドアの外に出て状況を確認せねば。なんせお腹も空いてくらくらしてきましたし。


「何だ?今の音」


 部屋の外から声がして、ガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえる。あ、知らんエルフの兵士さんだ。おっすおっす、オラ幼女。いっちょやってみっか!


「お、おはようございます」


 目と目が合うー!


「おっ、おっ」


「お?」


 ん?エルフと思ったらこいつやる夫だったか?この世界にゃ某ちゃんねるどころかインターネッツすら無いはずなんだがなぁ。⋯⋯もしや俺以外の転生者か?今やチート妖精になった俺が相手になりますよー!シュッ!シュッ!ってあら、ファイティングポーズすら取れねえ。腕を持ち上げるとだるいわ。


「起きたァァァァ!姐さん、起きましたよぉぉぉ!!!」


 声デッカ!!!空腹と相まって更に頭がくらくらするわ!耳キーンしてるし、腕が持ち上げられないから耳も塞げないし、音妖精の俺に防御不能の音波攻撃とはやるなこのあんちゃん。


 ってなんか騒がしいな。廊下をバタバタ走り回る音がしてる。誰か近づいてきてんなこれ。おおう、開きかけの扉をバァン!と押し開いて誰が現れたかと思えばお姉ちゃんじゃないか。


「アリス!起きたのか、良かった、本当に⋯⋯ぐすっ」


 めっちゃ抱きしめてくるじゃん!そして泣くじゃん!割とレアな姉の泣き顔!


「おま、お前が倒れて、目を覚まさなくて、どうしようかと」


「だいじょうぶだよ、もうねむくないし」


 ちょっと寝すぎみたいな感じで頭がボーッするし空腹でふらふらするけど、あたしは元気です。ほんとか?


「アリスが倒れてすぐにティナが診てくれたんだけど、極度の衰弱状態だからこのまま眠り続けると栄養不足やらで脳に障害が残る可能性とか色々問題が発生するって言ったんだ。それから一週間も経って――」


 一週間!?そんだけ長い間意識不明なら、そりゃ腹も減るし体もガタガタになるわな。この時代、点滴もないから意識がないと栄養補給出来なくてそのまま死ぬだろうし。倒れた⋯⋯と言うより眠すぎてダイナミック入眠したんだけど、一週間も眠った原因はなんだろうか。あの状態だと人間性がガリガリ削られるから破綻しそうな精神を守るための反応かなぁ?寝ると心が安定するし。


 しかし尋常じゃない睡眠時間だな⋯⋯あの時の変化時間は数時間ほどだったはず。その数十倍の時間は体を休ませないといけないのか?もしもあの時以上の時間を使ってしまうと、待っているのは解除後の衰弱死か、それを防ぐために永遠にあの形態でいることか。案外制約があるな。


 あの時は何をしてたんだ⋯⋯っけ⋯⋯⋯そういえば、そういえば!ゴブリンエンペラー相手に盛大にイキッてたわ!そしてその場面もバッチリ見られてた!ギャアアアアアア恥ずかしーーーー!!!!うおおおおおお!俺は今貝になりたい!いや、なろう。蹲って頭を抱えればホラ、誰でも貝になれる。


「ぐっ⋯⋯がっ⋯⋯がっ⋯⋯」


「アッアリス!頭が痛いのか!?おい、治癒師を呼んでくれ!早く!」


「わっわかりました!」


 ちゃうねん。頭が痛いわけじゃなくて心が痛いねん。あの時の俺は一体何だったのかと言うほどイケイケだった。なんだよ『それではさようなら』って。馬鹿じゃねえのか⋯⋯。


「ほら、ベッドに横になって。すぐ水魔法が使える奴が来るから」


 優しく抱っこされて再び柔らかい布団の上に寝かされる。空腹もそうだけど喉も乾いてるんだよなぁ。たぶん窒息しないように口を湿らせる程度でしか飲めてなかったんだろう。


「お腹空いたぁ、喉乾いたぁ」


「ああ、水はここにある。あとなんだっけ、こういう時は消化に良い物じゃないと駄目なんだったか⋯⋯?」


 そう言いながら傍に置かれた椅子に座り収納をゴソゴソ漁っている姉。前に俺が用意したバフお粥の件を覚えていてくれたのか!ちょっと嬉しい。長いことマトモなご飯食べれなかった人は胃腸がクソ荒れるし内臓もへたれる。そして弱った所へ急に消化が難しい固形物何かがぶち込まれると、消化に必要な分のエネルギーが足りずに意識障害とか心不全が起きるんだな。リフィーディング症候群っていうらしいよ?


「うぅん、朝用意したおにぎりくらいしかないな⋯⋯そうだ、これを水に入れて」


 おにぎりと水を木製の器に入れて解した即席お茶漬け⋯⋯水漬け?を差し出してきた。ふむ、塩分も取れるしゆっくり食べる分には全然問題ないんじゃないですかね。早速スプーンを差し込んでいただくことにする。


「うまっ、おいひ、おいひっ」


 マジで体に何も残ってなかったのか、ただの塩味でも染み渡る滋味がある。転生初日の醤油味しかついてない麦粥を思い出すなぁ。アレでも十分に美味しかったのは、初めて食べるご飯だったからだろう。今も一週間寝たきりで空っぽの体に久々に入った栄養だ。全く、空腹が最高の調味料だなんて基本的なことを忘れるなんて。最近生活が安定してたからだな。


「あんまりがっついて食べるなよ。水も飲んでゆっくり口に入れな」


「うん⋯⋯そういえばみんなは?」


 ここに姉とやる夫エルフしか居ないのは気になっていた。


「ああ、周囲の村や街を解放するためにここを拠点として攻勢を仕掛けてるよ。まだ残党連中が残ってるらしくてね。この寒さだ、山に逃げ込んだ所で食うモンがないのが分かってるのかやたらと抵抗が激しいんだ」


 俺が食べ終わったのをみて、器を受け取りまた収納にしまう姉。そして椅子から立ち上がり、窓を開けて空気を入れ替えようとする。が⋯⋯


「さむいっ!?閉めて閉めて!!」


 外から入ってくる空気は肌に刺すように凍てついていた。いつの間にこんなに寒くなったんだ!?もしや寝たきりで脂肪が少なくなったから耐寒性能が下がったとか⋯⋯?


「おお、悪い。っと、雪まで降ってきたな」


 そう言われて潜り込んだ布団の中から頭を出して窓を見る。そこにはシンシンと静かに降る白い粉雪が流れ落ちていた。まぁ、十二月の中頃だしな。恐らくこれから降り続ければ田舎の畦道なんかはがっぽり埋まって人の行き来が出来なくなるんだろう。っと、また廊下がバタバタし始めた。誰か来たのか?


「アリスちゃん!目が覚めたのね!?」


「ティナお姉ちゃん!」


 姉二号が駆け込んできた。どうやら妖精や魔力なども含めて万全の状態に戻っているようで何より。⋯⋯だけどなんか俺を見ながら梅干し食べたような顔でぷるぷるしてるんだが?


「ア”リ”ズぢゃあ”あ”ん”!」


「うぎゃああああ!?」


 すっごいダミ声で抱き着いてきた。そしてお前も泣くんかい!ってか力つよ!吐く折れる潰れる!


「もう駄目かと思ったのよおおお!治癒魔法かけても起きないし、ご飯も食べれないし!」


「うぎゅうぅぅぅぅ」


「その辺りでやめとけ!アリスから出ちゃいけない音がしてる」


「あっ、ごめんね~!」


 ようやく解放された。さっき食べた物が出ていく所だった⋯。今のでかなり体力を消耗して再び布団に倒れ込んでしまった。それを見てかなり心配したのか二人共顔色を青くするけど、まぁ食べて寝てれば大丈夫だと伝える。


 それと、俺がここに居た事とか二人はどうしてたかも聞いておいた。俺がぶっ倒れてから直ぐは周囲の魔素の枯渇で魔法が使えないから、とりあえず寝かせて様子見だったらしい。その間にした診察ではなんと衰弱以外は問題なしだったそうな。


 しかしその状態でいつまで経っても目が覚めないのは明らかに異常だったので、日々回復魔法をかけつつこの交易都市の復興と俺のお世話を二人で交代しながらやっていたそうな。クリスは俺から離れられないからこの街の力仕事で、ティナは近場の護衛や治癒院にたまに来る怪我人の治療してたとか。


 俺が起きた時は偶然にも俺の体を拭いたタオルだとかを洗濯するために部屋から離れてたらしい。だから起きても体がベタついてなかったのか、ありがてぇ⋯⋯。


「もうあんな事しちゃ駄目よ?何が起こったかは聞いてるわ。無茶はしないで⋯⋯ね?」


「ごめんなさい⋯⋯だけど、この国の人達はすくってあげなきゃダメだよ。今回のことはダンジョンに行くのが遅れたあたしにも悪いところがあるし⋯⋯。だから、もうちょっとだけ無茶する」


 実際グランディールのゴタゴタに巻き込まれなきゃ、サッサと準備してイクーモノかユグディシアのダンジョンに行って今年中に二、三箇所は攻略出来ると踏んでたからな。あの国の腐敗っぷりは目を逸らしたいものがあったけど、直ぐ側で孤児や奴隷が無体に扱われたりするのを見てしまうとな⋯⋯。


「何をするつもりなんだ?」


「ん⋯⋯とりあえず、ここのダンジョンに入ってゴブリンエンペラーが発生した原因を突き止めるよ。あの時の体なら、もしかしたら他の所でおかしな動きをしてる魔素もなんとか出来るかもしれないし。そのあとは⋯⋯」


「そのあとは?」


「全部の街や村を回って、エルフの人達全員生き返らせようかな、って」


 身から出た錆、と言う訳ではないが俺に人を救える力があるのなら、それを遊ばせておくほど非情ではない。タダでさえこの世界は人口が少ないからな。今回の一件でエルフはその数を大きく減らしてしまった。下手をすれば他の国に併合される形で吸収されて散り散りになり独自の文化なども失われるだろう。


 グランディール何かは今どうなってるか分からないけど、同じ様な腐れ貴族が他の国にもいるならば容姿に優れたエルフの多くは奴隷落ちする羽目になるだろうしな。なんせ今の状況は、金無い、飯無い、土地無い、人無いの四無いだ。人が居なければダンジョンから採れる薬を交渉に出す事もできないので、売るものは生き残りの体くらいしかない。冬が越せない。


 土地と人は俺が頑張ればどうにか出来る。犠牲者を蘇生させまくって、その中に土魔法使いが居ればバフ飯食わせて家を建てれば復興は容易だと思う。飯は占領された土地からお金が回収出来れば他の国から買えるだろう。魔物連中は金の使い道が無いだろうからどっかに貯めてるだろうしな。


「待てよ!そんなことしたら世界中から目を付けられるぞ!」


「そうよ、それに体の負担が大きいんでしょう?」


「体はだいじょうぶだよ。すぐに休めばこんなに長い間寝ることはない、と思う。それに、もう力を隠して不幸な人達を救えないのは、嫌なの」


「む⋯⋯」


「⋯⋯⋯目を付けられる方はどうするの~?」


「はんどーがスゴイとか、そんな感じにしようよ。もしも手を出してくる人がいても自衛くらいならできるようになったし!」


「具体的にはどう戦えるんだ?」


「たたかうっていうか⋯⋯」


 これ言って良いのか?この世界の人相手だと軽く尊厳破壊なんだが。


「言い辛いことなの?でも私達も知っておかなきゃ何かあったら大変よ~」


 しゃあなし、言うか。


「相手の妖精さんを乗っ取るの。それで魔法を使わせたりとか、契約自体を切って取り上げたりとか⋯⋯」


「うわぁ」


「うわぁ」


「引かないでよ!」


 そうなると思ったよ!この世界の人達には妖精=人権だからな!子供も魔法が使えるようになったら訓練して親の手伝いしてたりするし。現代日本で言うなら武装した警官やら自衛隊が急に身ぐるみ剥がされてしまうみたいなもんだ。だけどこの使い方、まだ甘い方だったりする。


 ヤバい方法だと、相手の妖精の波長を狂わせて魔力が流れると同時に自爆させてダメージを与えるとか、集団で襲ってきたら全部乗っ取って直列で自分に繋ぎ魔法の火力を上げるとか。いろいろ悪さが出来る根源妖精の権能のタチの悪さよ。妖精が可哀想だからやらないけど。

最悪な使用方法だとサイコミュジャックからのファンネルミサイルみたいなことが出来ます。

全人類がファンネル持ってると考えると対抗策がない場合アリスちゃんが目の前に立った時点で詰みですね!

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