第83話 改造しちゃった(魔法を)
「あー、やり過ぎたか?イラついてたからついつい全力でぶっ放しちゃったなー」
遠くで発生した爆炎を眺めつつ、呟く。衝撃波は⋯⋯来そうにないな。
「大丈夫だと思うのじゃ。あっちは王都方面、住民は避難済みじゃし居ても魔物くらいじゃからの」
「そっか、ならよかった」
いや、ホントに。これで着弾地点に居た数万人が犠牲になりましたとかだったらちょっと笑えない。
「それより⋯⋯お主は本当にアリスちゃんか?」
ん?何言ってるんだあーちゃんは。どっからどう見てもかよわいゼロ歳児の妖精幼女だろがい。中身は年齢不詳成人済み男性だが。⋯⋯あぁ、もしや口調が違うからか?
「そうだよ、謎の呪いみたいなモンで喋り方が子供っぽかっただけで素はこっち」
呪いの解除が一時的かも知れないから今のうちにカミングアウトしておこう。またあの幼女言語を披露するハメになる前に、な!
「さっきまでの可愛らしい喋り方と随分違ってなんというかぶっきら棒というかな」
む、そんな事を言われてもこれが俺なんだから困るね。
「それは慣れてくれ⋯⋯と言いたい所だけど、今までが今までだったからなぁ」
「二人共、そんな事を言ってる場合じゃないぞ、早く戻って拠点を確保しないと犠牲者が増える一方だ」
「忘れてた!そういやそんな事言ってたわあのクソゴミカメムシ!」
「(口も悪いのう⋯⋯イメージが崩れるわい)彼ら、英雄の亡骸は、申し訳ないが今は置いておこう。運ぶにしても手が足らぬ」
「じゃあ他の魔物が手を出せないようこの辺りに魔術で進入不可の魔物用バリアを張っておくよ。対悪防御領域」
「魔術ってやつは便利だな⋯⋯。ティナ、もう少しだけ待っていてくれ。必ず故郷に埋めてやるからな」
そうして交易都市に戻ってきたのだが、そこはもう死屍累々なんて言葉が生温いほどの殺戮の現場だった。敵と味方の死体がそこら中に折り重なって、足の踏み場もないくらい。特にあたりに漂う死の匂いが、以前の俺であったら間違いなく吐くか卒倒しているくらいに濃かった。
今はリミッター解除中なので感情も希薄になってて、俯瞰視点で見てるような他人事に近い感覚なのだが、これは良くない傾向だな。これが本当の人外の視点ってやつか?そのうち目の前で知り合いが死んでもどうでもいいくらいになるかも知れない。それは俺の理念に反する。この騒動が終わったら再封印しておかないとな。魔石による瞬間的なゴリ押しで魂の格が上がったおかげでそういう事もスムーズに出来るようになったっぽいし。
「これは、勝ったのか負けたのか、どっちなんじゃ」
「母上!ご無事でしたか!」
「おお、お主も生き残っておったか⋯⋯こっちはなんとか勝利はしたが、他の生き残りはおるのか」
この都市を指揮していたディーロンさんもなんとか命だけは助かったようだ。所々怪我をしてて頭に包帯も巻かれているが、現場のトップが生きてるだけで混乱は避けられる。まだ最悪ではない。
「生き残った者達はあちらの領主館に立て籠もりなんとか魔物は撃退いたしました。中に踏み込まれたのですが、陛下の御付きであったメイド達の奮闘により、どうにか負傷者等の身動きできない者達は助かりました」
説明を受けながら建物の中に入り玄関ホールに踏み込むと、そこもまた激しい戦闘の痕跡が広がっている。あちこちの床が粉砕され、壁に穴が空き焦げ跡と折れた武器が刺さっている⋯⋯そして。中央にはこれまで見た奴らとは色が違うし角が生えている中型の魔物が一体佇んでいるが、既に力尽きている。その原因は正面に居るバトルメイドの一人だろう。
一体どれほどの死闘だったのか。そのメイドは格闘術を嗜んでいたのか片腕でそいつの心臓を穿ち、相手の斧で肩から胴体の三分の二ほどまで断ち切られ相打ちの形で絶命していた。しかしその顔は未だ闘志に燃え、動き出せば再び魔物を屠らんとする武士の面構えそのものだった。
「メイド長ミリアーナ、お前まで⋯⋯⋯。こやつはオーガキングという個体らしい、恐らく敵軍団の二番手じゃな⋯⋯」
「作戦中にいきなり後方の門が破られ現場は大混乱に陥ったのです。非戦闘員と負傷者を領事館に退避させ私もその中に居たのですが、しばらくしたら玄関扉が破られ、魔物共が攻めこんできたのです。外で応戦していた兵達を皆殺しにしたのでしょう。中の人員でしばらく対処していたのですが、恐らくこの別働隊の頭と思われる個体もここに入り込んできました。お預かりした神の恩寵賜りし戦闘メイド数名で連携を取りつつ戦っていたようです。音が止んで様子を見に出てくれば、この有様で⋯⋯」
「そうか⋯⋯⋯」
「なんとか弔って遺体を清めたいのですが、魔物の筋肉に食い込んだ腕が、一体どれほどの力で叩き込まれたのか。軽傷な者の数人で引っ張っても抜けないのですよ⋯⋯」
「クリス殿、お願いできるか」
「任せとけ」
クリスは丁寧に力を入れ魔物の胸からメイドの腕を引き抜き、次に体に食い込んだままの斧をゆっくりと外すと、遺体を床に横たえさせた。
「⋯⋯⋯ありがとうございます。ところで、ティナ殿が見当たりませんが外周に散った兵達の治療をしてくださっているのですか?」
「ティナお姉ちゃんも逝ってしまったよ。最後は俺を守るために、他の兵士達と一緒にゴブリンエンペラーに挑んで」
今の二人ではメンタルにダメージを負いすぎて辛いだろうから、まだ平静を保っている俺が代わりに返事をする。
「それは⋯⋯!申し訳ない、辛いことをお聞きしました。それにしてもあれほどの戦力を投入して生存者が僅か三名とは⋯⋯⋯」
「うん、尋常じゃない強さだった。胸に穴開けても死なないし、俺も致命傷食らっちゃった。ホラ」
胸の焼けただれた傷跡を服を捲って見せる。というか、元々ファイアブランドの熱で刺さってた部分の布は焼け落ちてボロボロだから、肌に張り付いてる生地だったものを剥がして見せたんだけど。
「おぉぉ、なんという深手を⋯⋯治療はなさらないのですか!?」
「ん、それについてなんだけどさ。まとめてやりたいから怪我人がいる所に案内してくれないかな?」
「は、はぁ?それは構いませんが⋯⋯よろしいので?」
「俺は痛みも感じないし動くのに支障はないから気にしないで良いよ」
「分かりました。こちらになります」
案内された一室は所狭しと並べられたゴザの上に横たわる人で一杯だった。恐らく数百人はくだらないだろう。足の踏み場もないのはここも同じのようだけど、その合間を縫って衛生兵達が走り回りなんとか命を繋いでいる状況だ。早めになんとかしないとな。
俺は地面に両膝をついて、胸の前で手を組み意識を集中する。この人数を一人一人治療していると時間が足りないので、魔法を改変して使うことにする。魔術なら人類の叡智の結晶なので結構応用が効くんだけど、魔法は自然現象の一部を利用する形になるので今の俺でも難しいんだな、これが。
ちなみに一般人がやろうとすると魔力を込めるか減らすかするくらいしか出来ない。他は不発に終わるか、体内で制御不能になって暴走した魔力によって体が爆散するから難しいで済むだけ全然マシだけど。
「範囲拡大、半径五km、対象複数指定、目標人類、出力極小、生命復元」
自分を中心に超巨大な魔法陣が展開し、地面を飲み込んで広がっていく。この戦場を余裕を持って覆ったそれから優しい光が溢れ出し、傷ついた人類に分類される者達を一気に選別し癒す。勿論、出力を抑えたので欠損部位を直す辺りで止めて、若返りなど余計な効果は乗せてない。
この魔法、やろうと思えば効果時間永続化で不老になっちゃうから気をつけないとな。ついでに常時体を最善に保つ為に、疲れない、眠れない、空腹にならないとか色々ヤバい事にもなる。後半は拷問かな?今の俺がそれなんだけど。
また思考が逸れた。今はこの場をなんとかするのが先だ。ま、特に心配は無かったけど魔法の改変は初めてに関わらず世界樹の魔法知識と魔術知識の応用でなんとかなったな。あと俺の胸の傷も治った。何故か服も。なんでだろう⋯⋯この服が体の一部に感じられるくらいずっと着てるからかも知れない。エネルギー体に切り替わった事でそれが本当になったのかね?自分の体なのに分からないことがあるのは相変わらずだな。
「い、今のは!?」
ディーロンさんは体の傷が無くなったことに驚いたのか、頭の包帯を外してペタペタと触って確かめている。
「Lv4水属性の治癒魔法、生命復元を広範囲で戦場にいる味方全員にかけたよ。これで負傷してるけど動けなくて撤退も出来なかった人達だってなんとかなるはず」
「ほ、本当かアリスちゃん!ありがとう、ありがとう⋯⋯!」
久々に聞いた朗報にあーちゃんが涙ぐむ。
「で、悪いんだけど治った人達を使ってやって欲しい事があるんだ」
これから大々的に女神の使いを名乗るなら、奇跡の一つや二つ起こさないとな。
⋯⋯というわけで、生き残っていた人達に心苦しいながらバフと回復魔法をしこたま重ねがけし、周囲の残敵掃討と遺体の回収をお願いした。最初はすっごい申し訳ない思いで頭を下げたんだけど、動けない重症どころか古傷や後遺症と言った過去の傷まで全快して、絶好調状態の兵士達は我先にと再び戦場に戻っていったんだな。まぁ頭を失って統率が無くなった魔物の群れ何ぞ正規軍ならどうにでもなるだろう、たぶん。特定でちょくちょく見てるけど敵の反応だけ凄い勢いで消失してるし。
「ティナ⋯⋯すまない、すまなかった。私がもっと強ければ、お前は今頃⋯⋯⋯」
遺体の回収がほぼ全て終わった頃、俺達の目の前に命を散らしてしまったティナの体が運ばれてきた。クリスはそれを目にした途端、今まで張り詰めていた物が切れてしまったようで、涙を流し遺体を抱きしめている。
「妾のせいじゃ⋯⋯もっと根回しを強固にしてグランディールからの応援を確かなものにしておけば、あそこで遅れを取ることは⋯⋯」
「誰も悪くなんか無い。死ぬ時は誰でも死ぬさ。俺も、皆も、神でさえ死ぬ。それが世の理なんだ」
実際前の世界だと神様がほぼ全て死んで⋯⋯っていうか消滅して今では女神二柱のみらしいしな。だけど、人間の命ならまだなんとかなる。流石に昔死んだ人とかは無理だけど、今の俺ならやれるという確信がある。膨大な魔力を使うので世界樹への接続状態で周囲の魔素を根こそぎ使ってしまうけど、戦争が終わりかけの今なら大丈夫だろう。
「あーちゃん、今から神聖魔法を使うから死んだ人から離れるよう通達してくれ。声は俺が届ける」
『ん、んむ?分かった。何をするんじゃ⋯⋯ってもう拡声魔法が発動しておるではないか!ええと、これより神の御使い様が魔法を行使するようじゃ。英雄達の亡骸から離れておくように』
「ありがとう。じゃあ、始めるか」
「アリス、一体何を⋯⋯」
「これから使うのは神聖魔法Lv5、神の領域に踏み込んでその理をも覆す禁呪の類さ」
「何!?」
周囲の魔素を取り込みつつ魔力に変換、容量の限界以上に溜め込み、翼から溢れるより多く留めていく。足元にこの都市が包みこまれるくらいの魔法陣を起動させると、余りの高濃度の魔力のせいなのか魔力がスパークを起こしながら周囲を満たしていく。
パチパチと音を鳴らしながら弾けていく魔力に皆が驚いている。深夜にやっているので、まるでパレードの爆竹のように周囲が点滅している。規定以上の魔力が溜まったのを確認して、詠唱を開始する。
「彼方より来たる、白き光よ。命の灯火、いまだ消えぬ者へ。肉体に血潮を、心に鼓動を、魂に帰るべき道を。終わりを退け、夜を払い、失われし時を、今ここに繋ぎ直せ。天より降りし黎明の光よ、その者の名を呼び、その魂を此岸へと導け!」
詠唱が進むにつれて白い花火がさらに激しくなる。同時にそれらは神聖さを帯びるようになり、それぞれの遺体を包み込みように形作る。そして全ての詠唱が終わり、奇跡がここに発現する。
「死者蘇生!!!」




