第82話 覚醒しちゃった ※挿絵あり
バトルパートもそろそろ終わりということで、頑張って書き上げました
最初はメチャ難しかったけどだんだん楽しくなってきた!
あと区切りが全然分からなくて数話連続2500字越えてるけど許して⋯⋯(今回は5241字)
ティナ⋯⋯死んだのか?妖精は消えちゃったし、家族の制約による位置の把握でも、もうティナからは何も感じられない。周囲にこぼれ落ちた見覚えのある私物は、全部ティナと自分達が使っていたものだ。この世界で死ぬとああなるのかな⋯⋯。俺もすぐそっちに行きそうだけど、何も持ってないから死んだかどうか直ぐには分からないんだろうな。
もう、胸の痛みも無くなってきた。息がし辛いなんて感覚も薄れてきて、体が冷えていく。腰から下はもう何も分からないけど、手や喉元の体温が下がって行ってるのは感じられる。死ぬって、こんなにつらいんだ。前世の俺はもっと酷い死に方したみたいだけど、逆に思い出せなくてよかったかも知れない。こんなの、二度と味わいたくないから。
何より、遺していく人達が気がかりだ。俺がこのままくたばったら、妖精の契約が無くなったクリスは逃げることも出来ないからそれが一番怖い。出来るだけ姉には生きてて欲しい。もう俺が居なくなるからまた魔法が使えない状態に戻るけど、辛くてもいいからさ。
あーちゃんにも悪いことをした。絶対倒すなんて大見栄切って、この体たらくなんだから。でも、まだ力を与えて手傷を負わせれるあーちゃんが居るなら勝機がある。なんとか二人だけでも逃げ切って、グランディールに戻り仇を討って欲しい。たぶん他の三国と連携しないといけないくらいになるだろうな。
あぁ、目が見えなくなってきた。さっきから息も殆ど出来ないし眠気も酷い。また女神様に会うことがあったら二人の転生先と同じ場所にしてもらおうかな―――。
「女王様!なんとかアリスだけは逃がしてくれ!私が時間を稼ぐ!」
「わ、わかった!なんとかやってみる!生きて帰るのじゃ!」
駄目だ、俺なんかに構わず二人共逃げてくれ。あいつの狙いは俺なんだから、連れて逃げたら絶対追って来るに決まってる。
「行かせると思うか?お前らは全員ここで死ぬんだよ。最初は何人か生け捕りにして繁殖に使おうと思っていたが、この力を持った存在に反旗を翻される危険があるなら今のうちに処理しておいたほうが身のためだからな」
「舐めるんじゃねえ!死んでもここは通さん!!!」
あーちゃんに担がれて移動を開始するが、すぐにティナが落とした何かに足を取られて転倒したみたいだ。もう痛みもなくなって体に衝撃だけが伝わる。転けた原因のあれは⋯⋯赤い玉?視界がボヤケて分からないけど、たぶんそうだ。アレがあれば、恐らく⋯⋯。
「うぐっ、すまんアリスちゃん!」
「ま”、ま”っで!ぞれ、取っで」
もうまともに喋ることすら難しい。でもこれだけは伝えなければいけない。
「こ、これか?これは⋯⋯魔石!?ジャイアントグリーンブロブの魔石と出とるが⋯⋯」
そんな名前だったのか、あのボススライム。これは、ダンジョンを攻略した時に俺から魔素を吸収しようとしていたあいつの魔石だ。女神様に回収されなかったし、誰が持ってるのかと思ったらティナだったのか。
「握らぜで」
「わ、わかった。これでどうにかなるのか!?はよう逃げんとクリスも長く持ちそうにないぞ!」
もはや感覚もない小さな手に魔石を握り、意識を集中する。ノールジュは俺に言った。全ては固定観念。リミッターを外すにはそうあれかしと願え。そう、耳元で囁いて帰って行った。ゴブリンエンペラーに生き物ですら無いと指摘された今なら分かる。俺は誤解していたんだ。初めにクリスが死にかけたときも、この力が発動していた。どうしようもない状況でも、俺が諦めずに願い続ければそれは叶う。
それは一種の願望器になることでもある。今までは強い感情によってしか外されない制限のおかげでそれは滅多に表に出ることはなかったし、前の俺が知っても利用されるのを恐れて封印していただろう。だが今は違う。何でもいいから使いこなして皆を救わないと、取り返しのつかないことになる。このリミッターを自分から解除して使うためには、存在としての格を上げる必要がある。そのために、この魔石を使う。
「ゔあ”あ”あ”あ”あ”!!!!」
ダンジョン一個分という凄まじい力が凝縮された魔石から、魔素を吸い上げ体に取り込む。明らかにキャパシティを越えて体が悲鳴を上げる。ただの人間なら大問題だっただろう。でも、俺はもう人間じゃなくていい。なんなら生物じゃなくてもいい。今、あそこで戦ってくれている姉を助けて世界に平和を取り戻せるなら、自分が何であろうと構わない。
そう考えていると、自分の中で【カチリ】と何かがハマるのを感じた。手に持っていた魔石から魔素を吸い上げるのも苦痛を感じていたのが、今では別に何ともない。っていうかわざわざ魔素だけ吸うなんて非効率なことせずにそのまま取り込むか⋯⋯?お、手から直接体に入った。今なら分かる。俺は自分が生きてるって思い込んでたんだ。あいつに言われた通りただのエネルギーの集合体なら、苦痛も何も感じない。だからそう願うことにした。
更には体から痛みなんてものも綺麗さっぱり消えて無くなった。立ち上がっても何も問題ないし、胸についた傷なんかもどうでもいいくらいに感じる。なんなら呼吸しなくても苦しくないから大丈夫っぽいし、生き物じゃないって自覚するだけでこうも変わるものか?
「だ、大丈夫なのか?アリスちゃん」
「ん、へーき。ちょっと生物やめちゃったけどさ」
「へ?い、いきものを?それはどういうことなんじゃ?」
「説明は後で。まずはあのクソ野郎をブチ殺す」
細かいことを言っている暇はない。既に片手を失っても戦闘を継続しているクリスが止めを刺されそうになっているからだ。そこに全力で神聖魔法を叩き込む。
「聖浄光」
俺が前に伸ばした手から生じた魔法陣が、無数の光の光線を生み出しゴブリンエンペラーに殺到していく。その一撃一撃が並の人間なら蒸発するほどの威力なんだが、さて?
「うぬぅ!?死に損ないが息を吹き返したか!だが無意味よ!今までの経験により貴様らの手の内は全て見切っている。たかが小娘一匹増えた所で―――」
ファイアブランドで防がれたか。やはり熱量を持った攻撃はこいつと相性が悪い。
「うるせーぞ、産まれてたかが数週間程度の赤ん坊のクセに傲岸不遜に囀るんじゃねえゴミが」
「な、なんだと?」
俺の口調が突然変わったから驚いてるようだな。まあ、あいつにはあんまり喋ることもない。とっとと始末するとしよう。
「アリス⋯⋯もう大丈夫なのか?」
「生きてないから死ぬこともないって、そう思うことにしたらなんとかなったよ」
「そうか⋯⋯」
クリスは安心したようにしゃがみ込むが、そのままじゃ色々不自由だな。切り札その一を切るか。
「我、始まりたる根源妖精が命じる!水の大妖精よ、顕現せよ!!」
根源妖精としての権能を使い、四属性を司る精霊に仕えている妖精を召喚することにした。普通の妖精よりかなり大きめで、今の幼女形態である俺より少し小さいくらいのサイズだな。つまり三歳児くらい?ちなみにこいつは契約してない普通の人間にも見える。存在の格が通常の妖精より上だから。更に、このままでは力だけあっても習得してない魔法は使えないのでそっちも切り札その二でどうにかする。
「世界樹への接続」
本来なら世界樹から世界に張り巡らされている龍脈。ここではその機能は失われて久しいが、俺の上がった格によってこちらからPingを打って接続をする。普段は周囲に魔素を撒き散らす世界樹だが、この瞬間だけは俺のみに指向性が向いてこの世界に存在する力を思い通りに使えるようになる。ついでに前の世界とこの世界で起こった色んな事が解るようになる。魔法の知識とかもその中にあるからそれが目的だ。所謂アカシックレコードみたいなものだな。
が、しかしこれは!
『シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロ』
頭にスッゴイ呪詛が垂れ流されてくる!!なんか世界樹さん凄い殺意高くない!?えーと、どうしてこんなことに⋯⋯?あぁ、はいはい。世界樹になる前の創造神さんの憎しみがまだ残ってんのね。これヒッドイ怨嗟の声だなぁ、常人なら発狂してんぞ?どうやら分離して力のみの存在になっても残された強い負の感情が、本来は大気中に体外魔力として存在するマナを変質させて魔素になってるみたいだな。ま、そんなことは今はどうでもいいか。
さっさとやることやってしまおう。
「生命復元」
無詠唱でクリスを癒す。失われた腕が光の輪郭を形成して、再生を始めた。その光が徐々に落ち着くとそこには寸分違わぬ綺麗な右腕がニョッキリ生えていた。魔法を極めた人の知識やらも世界樹に収められてたからお茶の子さいさいだぜ!
「お、おぉ?アリスも水属性が使えるようになったのか?」
「いや、これは俺の力じゃないよ。水の大妖精を召喚して使役してるんだ」
元々妖精のシステムは無属性の魔術がメインだった前世界では重宝されていたらしい。大気に満ちるマナを直接体に取り込み、体内魔力であるオドにより変質させ属性を持たせるより効率的だからだ。元々勇者が妖精と契約をしたのが始まりで、望む者は自然界に存在する精霊の元へ出向いて許しが出れば属性妖精と契約をする。そういう仕組みだったようだ。
「貴様、なんだ、何をしている。何をした!?」
再びゴブリンエンペラーが口を開くが、うるせぇなこいつマジで。
「だぁから黙れつってんだろ?氷結牢獄」
Lv4の水属性魔法を無詠唱で発動させた。指定した空間ごと瞬時に凍結させ、氷の中に閉じ込める魔法だ。これならしばらくは保つだろう。
「あー、これでも死なねぇんだ。魔法じゃ足止めくらいにしかならないな⋯⋯」
「私が切ろう、あいつの弱点はドコか知ってるか?」
「ん、頭だけど。今回はこっちでやるよ。恨み骨髄で直接ヤりたいからさ。それに、その武器じゃちょっと無理かもしんない」
「分かった、任せるよ」
「ありがとう。じゃあ、離れてて」
俺から姉が離れる。あーちゃんなんか何が起こってるのか分からなくて泣いたら良いのか驚いたら良いのか顔が面白いことになってる。まぁ、分かるよ。死にかけてた奴が胸に穴開けたまんま敵ボコってんだもんな。
「オイ、聞こえてんだろ?その動けない状態でも分かるようにお前の死に様を伝えてやるよ。さーてこれより見せるは世にも珍しい無属性魔術!この世界では使える者なんて誰一人居はしない、失われた技術、その極地!古の人々は研鑽の果て遂にこれに行き着き、使える者が時代を制するとまで言われた究極の破壊!お代は命で結構」
慇懃無礼に体を斜めに倒し腕を振って礼をする。そして、氷漬けのゴブリンエンペラーに向かって手の平を差し出し、体の中で練り込んだ魔力に属性を付加させず手の平に一極集中させる。普通の人間だと妖精経由だからこれが出来ない。妖精に魔素が入ってろ過された時点で其々の属性が付加されてしまい、属性魔法しか使えなくなるからだ。
まぁ本来は属性があるのが良いことなんだけど、昔の人達は違った。属性がない代わりに魔術で色んな事が出来るように技術を練り上げていったわけだな。転移魔術とか飛行魔術とかあるみたいだけど今の俺には必要ない。さて、思考に耽っている間にチャージも終わったな。
「それでは、さようなら。原子破壊光線」
俺の右手から、超極太のレーザーが発射される。射線上の全てが塵に帰る一撃に凍ったゴブリンエンペラーが晒されボロボロと崩れ落ちていく。体が分解され、骨も残らず白い光の中で粉々になる。最後には頭の部分に赤い玉が露出するが、それも瞬きの内に消失した。レーザーが着弾した数km先では眩い閃光の後、きのこ雲が立ち上っていた。




