第80話 貫いちゃった
「随分頭に血が上っているようだ。少しは落ち着いたらどうだ?その有様では政もままならないだろう」
「やっかましいわ!初手から殺戮で敵対しかせぬ貴様に何が分かる!!魔法付与!!!」
煽られて一人で斬りかかり、火属性が付与された大斧で繰り出される重い一撃を難なく曲剣でいなされている。やはりファイアブランドには火耐性もあるのか生じた爆炎の中でもなんの痛痒も与えられていない。普通に相手にする分だと打ち合った時点で火に巻かれて火傷は確定なんだけどな、あの熱波は。
いかんな⋯自分達三姉妹は国外から呼ばれたのと、立場が違うから人質が死んでも表向きは冷静でいられる。しかしあーちゃんは自国民が藁のように死んでいくのを我慢できない。それはしょうがないが、敵に良いようにされているのは止めなければ。
「冷静になってよあーちゃん!」
「アリスの言う通り落ち着いてくれアールランド様。ヤツのことだ、どうせさっきのは時間稼ぎか何かだろ。あの人間の盾もまだ用意しているに違いない」
「その通りだよ。中々に知恵が回るお人のようだ」
ガギン、と鍔迫りをしていた体勢から無理矢理力で押し返してエンペラーはそう言う。強化されたあーちゃんでも押しきれないか⋯⋯あの筋力だけでも脅威だ。牽制ついでにあーちゃんが下がるのをティナが援護している。しかし水の魔法もファイアブランドのせいで通りが悪いようだ。防御もせずに生身で食らって平然としていた火よりは望みがあるが、焼け石に水だな。
離れたエンペラーはさっきと同じように頭上に剣を掲げ、横に振りながら火を吹き上げる。
「今度はなんだ!てめぇ何を企んでやがる!」
その隙を狙って今度はクリスが斬り掛かるが、それも軽く受け止められてしまった。
「いや、何。どうも戦力差を誤解しているようなのでね。先程の時間稼ぎという疑念に対しての答え合わせだよ。君達はどうもこの篭手の効果を警戒して立ち位置を崩そうとしない。ならばその前提から壊してしまえば良い。そうだろう?」
「何っ!?」
その時、後方で守りを固めているはずの交易都市から笛の音が鳴った。
「この音は緊急事態の合図じゃ!まさか自らを囮に!?」
「今頃は地下を掘り抜いた我が側近達が都市を強襲していることだろう。疑問に思わなかったのかね?私が何の守りもなくここに立っていることに。最初はその作戦は破棄する予定だったのだが、斥候から目標地点に向かうはずの敵兵が途中で半分引き返したという報告が上がってきたんだ。運が良かった」
「私が鍛えた騎士団がしっかり仕事してりゃいいんだが、そうじゃなけりゃ帰ってからぶん殴って回るか」
「まさか叛乱の影響がこんな所で出るなんてね⋯⋯⋯帰ったら教会の連中をとっちめなきゃだわ」
「あんのタコどもが!いらんことで更に窮地を作りおって、被害者兼処刑人として妾自ら首を刎ねてやる!!」
「これだから足のひっぱりあいしかしない大人たちはぁぁ!」
其々がこの状況を作り出したアホに対しての不満を口にする。ホンマ何考えてんのよグランディールの貴族共ォ!こんな直接窮地に陥るなんて迷惑どころの話じゃねって!貴族嫌いが加速する!!
「ほほう?察するに内部のイザコザも同時に起きていたのか。それは、ここの後にそちらを攻め落とすのが楽になりそうだ。囮に関してはその通りだよ。城で見つけた本に書いてあってね、一流の軍略家は最大戦力こそを相手を誘き寄せる罠に使うと。効果は覿面のようだな。どうする?時間が経てば経つほど後方の守りが薄くなり生還の確率は低くなるぞ?」
「ほざけ!その前にお前を倒せばそれで終わりだ!アリス、来い!」
許可が出たのでクリスに向かって飛びつくように懐かしの技能を発動させた。
「憑依!」
久々に使うなこれ。体の仕様が変わったり色々あったから前より性能が下がってたりしてなければいいんだが、さてどうか。
体が半透明になりクリスと融合するような感覚の後、体が浮いてクリスの後方に体が移動する。どうやら問題はなさそうだ。
「ハァァァッ!魔法付与!」
(絶好調みたいだねお姉ちゃん)
「アリスが少し強くなったのが反映されたのかも知れないな。これなら勝てる!」
「戦場の準備もしないとね、照明」
頭上に強い明かりを発する光球が浮かび、影がお互いの背に伸びてあの篭手を使われないように場を整える。クリスは溢れ出る魔力を体に練り込み極限まで高まった身体強化を使い、更に魔法付与でミスリルの刀を超振動高周波ブレードに変化させて奴に再び斬り掛かった。
三度目の斬撃は受け流されることもなく打ち合わされ、明確に曲剣を用いた防御の形で迎えられる。今までの攻撃とは違い、マトモに受けると致命傷になり得ると判断されたようだ。
「ぬぅっ!?これは、これがお前達の切り札か!」
「そうだ!これがお前を殺すための手段だ!」
いや、本当の切り札はもう一個あるけどこの分だと押し切れそうか?俺が成長した分が憑依時のステータスに上乗せされるというラッキーがあったおかげでなんとかなりそうだ!但し制限時間は変わっていないのか、少しずつ息苦しくなってきているのは前と同じだが。
そのまま数合打ち合い、どんどんヤツの余裕がなくなっていくのが分かる。頭上に光球が浮かび、二人の間を追従するように移動して常に影を背負って戦えるようにティナが気を配ってくれているのも偉い。こちらの攻撃が体に掠るようになり、後退るように足を運ぶ奴の姿が勝利が間近だと思わせてくれる。
「クッ、この私が退くだと?ありえん、あり得て溜まるかぁぁ!」
「逃さないわよ!」
「フンッ!」
「ぐおっ!」
ティナから援護射撃の水魔法が飛び、直撃しよろめいた所をあーちゃんが追撃の為に前に出てアダマンタイト製の斧による一撃を叩き込んだ。強烈な一撃を受けたゴブリンエンペラーはそのまま数m弾き飛ばされたが、すぐに体制を整えている。
しかしステータス差なのか鎧の性能なのか、又はその両方なのか大した痛手は与えられなかったが、攻撃を与えた肩口から赤い血が流れ落ちる。あの大斧を振り被った斬撃を受けて軽傷で済むとは、強化されてない人だと本当に何をしてもダメージが入らなかったんじゃないか?
「これでも駄目かっ!渾身の一撃だったんじゃが!」
(でも、効いてるみたいだね!)
「ああ、血が出たのがデカい。どんな奴だって傷ついて血が流れるなら倒せるからな。このまま行くぞ!」
一瞬で間合いをゼロにする踏み込みで奴に肉薄し、そのまま袈裟懸けに斬り掛かる。それを間一髪でしのいだゴブリンエンペラーは焦りを隠さずに口を開いた。
「お前達、何をしている!こいつらを始末するんだ!」
それを聞いたらしき魔物達が周りから殺到し、俺達を取り囲もうとする。しかし付いて来ていた強化済みのエルフの兵達が半円形の防御陣を形成し、ゴブリンエンペラーを包囲しながら魔物達の相手をし始めた。
「対策済みか!味な真似を!」
「無策で来るかよ!」
そのまま更に数十合打ち合い、時間が過ぎる。時折こちらにも避けきれない攻撃が来るが、どうやら俺の分の聖壁もクリスに加算されてるみたいで明らかに五回以上は防いでいるように見えた。中々攻撃が通らず焦れたゴブリンエンペラーが大上段からの大振りの一撃を繰り出してくるが、しかし⋯⋯。
「照明!!」
「ぬおっ!?」
俺達と奴の間に強烈な光が発生した。ティナが魔力を強めに込めた照明の魔法を用いて目潰しを仕掛けたようだ。通常なら自分と相手の目が潰れて何の意味もないが、特定という魔力を音波のように飛ばして周囲を把握する魔法を使える俺達には何の問題もない。
「そこだ!」
振り下ろした奴の剣は止まらず、余りの光量に目を逸らしながら攻撃を続行している。クリスは収納から小盾を取り出し、殴り付けるようにファイアブランドの鍔を叩いて軌道をそらした。俗に言うパリィって奴だな!
「しまっ――」
「貰ったァ!」
体制を崩した瞬間を見逃さず、今度はパイルバンカーを収納から取り出して下方向から突き上げるようにゴブリンエンペラーの胸に宛行う。
「ごはっ⋯⋯」
そのまま躊躇うこと無く引き金を引き、射出された穂先が鎧ごと胸部を撃ち貫く。余程の衝撃だったのか体が宙に浮いてしばらく滞空し、数秒後に地面に落ちた。血が土に吸収されるより早くじわりと地面に広がり、身じろぎすらしない様子から正確に心臓を潰して即死したのが伺えた。
「亜人軍団の首魁、討ち取ったァァァァ!!」
(勝ったーーー!)
「やったのじゃあああああああああ!!」
あーちゃんの喜びようが半端じゃない。まだ戦場なのに斧を取り落として両手を上げて飛び跳ねるほど歓喜してる。これで国の復興も出来るし、ダンジョンで薬を稼いでグランディールに謝礼として渡すことも出来るだろうからしょうがないか。問題は人手なんだけど、他国から大量に移民を受け入れればなんとかなるか⋯⋯?いや、それにしても切り札を使う所まで行かなくてよかった。
「落ち着いて女王様、まだ戦闘は続いてるのよ!周りは私の援護でどうにかなったけど、後方の精鋭とやらはまだ残ってるんだから~!」
ティナがそう言うので周りを見回すと、強化された人達と戦っていた連中は既に倒されたらしい。そこで傷ついた人達も治療済みで、ほんとしごできな姉二号は頼りになる。あの戦いの中照明を操作維持しながら周りの援護まで完璧にこなすなんてね!
「お、おお!そうじゃな!妾がしっかりせねば、な!」
「アリスももう戻ってもいいぞ。持続時間も伸びてるみたいだけど苦しそうだしな。しかし手強い相手だった。アリスの分の物理攻撃を無効化してくれる支援魔法もピッタリ使い切っちまったし一対一だと勝てない所だった」
そうだな、後は本気を出さなくても倒せる敵ばかりだろうから解除するか。
「ぷはっ!あーしんどいよー。これが終わったら一週間くらいゴロゴロしたーい」
「私もお風呂入ってぐっすり寝たいけどこれから兵士達の治療もあるからしばらく休めそうにないわ~⋯⋯」
「すまぬ、後ほんの少しじゃ。後方の陣地を取り戻せばなんとでもなる故、頑張ってくれい。皆の者、追撃はせずに一旦戻るぞ!」
そうあーちゃんが強化兵達に号令を飛ばし、引き上げようとして後ろを向いたその瞬間。後ろからの衝撃で体が揺れる。
「う⋯⋯⋯?」
胸が熱い。体が動かない。息もできない。異物感を感じて目線を下に向けると⋯⋯
俺の胸から、曲剣の刀身が突き出していた。




