第79話 焼いちゃった ※挿絵あり
今回キリがいい所が見つからなかったのでちょいと長めです。
残りの薄い守りを斬り裂くように進み、影を背負えるように半円形に奴を取り囲んでいく。が、ここでも謎の違和感を感じる。なんだこれは?今倒した魔物達もこれまで相手にしてきたシステマチックに動いていた魔物と違って意思があるというか、なんというか。うーん、例えるなら虫やなんかみたいな本能のみで動いている生き物とは違う。そんなイメージ。
それにしてもこいつ⋯⋯敵が目の前に居るのに全く動じないな。さっき使った龍の咆哮も効果範囲内だっただろうに、動じてすらいないように見える。少なくとも魔物なら殺意を持って前に立つ何某かがいた時点でかなり警戒をするんだが。殺し慣れてるのか、はたまた内心慌ててるのか。
「よく来た。お前達を待っていたぞ」
「えぇ!?シャベッタァァァァァ!?」
「なっ⋯⋯喋っただと!?」
「ゴブリンって喋れるの!?嘘でしょ!?」
「分からぬ!じゃが知力Sならば学習力も尋常ではないという可能性もある!」
「その通りだ人間。我らは基本其々の言語系統で会話を行うが、絶対者として君臨するにはすべての言語を習得する必要がある。これはその一環だ」
そうか、聞いた話じゃステータスオールSだもんな。多少環境があれば直ぐにそういった事も覚えられるだろう。が、それにしても早すぎる。あーちゃんから聞いた話じゃこいつが表に出てきてから一月経ってないんだろ?それなのにこの流暢さ⋯⋯底が知れない。俺のように言語変換Lv5なんてチート持ってるわけでもなし、自力でこの世界の言葉を完璧に操れるほどの知力というのはとんでもない脅威だ。
「それで⋯⋯私達を待っていたというのはどういうこった?」
「そうよ~、私達はあなたを倒すためにここに居るのよ?喋れるからって、今更話すことなんてないわ」
「こちらにはある。ここらで戦いをやめないか?お互いにとって無益にすぎるし、時間も無駄だ。勿論タダで、とは言わない。我々は山奥にでも籠ってひっそり暮らすとしよう。奪ってきた命に対しては謝罪の用意があるが、ここで退いておかないと絶滅戦争に成りかない」
あぁ?何言ってんだこいつは。急に停戦の交渉だと?こちとらその絶滅戦争がお望みだってんだよ。今更何も言うことはない。そういうのがしたくないなら、初めからひっそり生きて敵対しない人にだけ良い顔してればよかったんだ。そもそも今も周りで俺達に時間を作るために戦ってくれてる人達がいる。もう血が流れている以上、話し合いなんかで解決する段階はとうに過ぎた。
「そうか、それでこちらには何を望むんじゃ?」
「え?どうしたのあーちゃん」
「その娘を貰おう」
んん?こっちに指差してるけど、俺?何故に?というか和平の交換条件にされるなんて嫌だよ?
「断る。何が目的か知らんが妹を交渉の道具にする気はない」
「我々としても後には退けん。ここでお主を討たせてもらうぞ」
「やれやれしょうがないな⋯⋯」
そう言うとゴブリンエンペラーはファイアブランドを頭上に掲げ、その刀身から眩い炎を放出させた。それが合図であったかのように、敵陣の後方に伏せてあったと思われる服を着たビッグフットのような亜人系の魔物が数体、こちらに歩み寄ってきた。
「なんじゃ⋯⋯?あやつら襤褸布を纏って人の真似事でも―――ッッ!!」
クリスは特定をずっと使っているから状況が把握できているのか、ソレが確認できてからずっとしかめっ面をしている。あの服がなにか問題なのか⋯⋯⋯。
「⋯⋯!?ひぃ!」
それが目に入った瞬間、口から悲鳴に似た声を出してしまった。
違う!服を着てるんじゃない!あいつら、人を体中に括り付けてる!ティナが俺の目を手で覆い隠してくれたけど、既に直視してしまっているのでもう遅い。見た限り両手足に一人ずつ、胴体にも二人⋯恐らく背面にも同じようにぶら下がってるんだろう。しかもエルフの宿命なのか、凌辱された挙句目が潰されて体中ボコボコにされてた。⋯⋯これはマズい。何がマズいかって横にいるあーちゃんの顔が真っ赤なんだ。
「た、助け、て⋯⋯」
「寒い、寒い」
素っ裸で括り付けられた女性のエルフ達が真冬の外気で体温を奪われ、体を震わせながら助けを求めている。半分くらいは意識が既にないのか、力なく首を項垂れさせていた。
「きっ、貴様ぁぁぁぁ!!」
「これで話ができるだろう?さて、対話を始めようか」
これは助けようにも色々と難しい。頭を潰せば本体を殺せはするだろうけど、間違いなく倒れた時に下敷きになって数人犠牲になる。頭部以外は狙えないし、即死させれないと今度は頭部を隠しつつ肉壁を全面に押し出されて打つ手が無くなってしまう。創作で人間が盾にされたりしてたけど実際にやられると嫌すぎる戦法だな。
⋯⋯⋯虫酸が走る。
「こいつを連れて行って、どうするつもりだ」
「知れたことを。お前達の要はその娘なんだろう?先日から遠い場所で眺めていたが、今まで相手にしてきたニンゲンと一線を画す強者の一団があった。その中に一人、異物が紛れ込んでいる。最初は後方支援役なのかと思ったが、こんな前線にまで出張って戦闘に参加しようとしているじゃあないか。ならばそいつが生命線だと考えるのは当然だろう?」
「⋯どうだかな」
「くっくっく、つれないな。それとも図星だったかな?まぁいい、話を戻そう。何故その様な者が紛れ込んでいるか、私は考えたのだよ。ただの偶像か?否、それならもっと奥にいる。実は強者なのでは?否、一度も手を出していない。では何か?答えは簡単だ。離れられない理由があるんだ、恐らく戦力に直結する何かが」
「⋯⋯⋯」
「今度はだんまりか、面白くもない。まぁ、大まかな理由はそんな所だ。その娘を手に入れることは戦力の強化にもなりお前達の弱体化にも繋がる。それに―――私達は同じ様な存在だろうからな。共に居たほうが自然だろう?」
俺が⋯⋯お前達と同じだと?そんなわけがあるか!俺は女神に言われて来てるんだ!好き勝手暴れてるお前達とは違う!
「何言ってんの!?あたしは魔物とはぜんぜん違う!」
「いや、同じだとも。君は⋯⋯失礼、名前は?」
「⋯⋯⋯アリス」
「アリス、君は周囲と自分が違うという認識はあるんだろう?君に近づいて確信したよ、君の体を構成しているもの。それは生物のソレではない。私と同じくね」
何、何を言ってるんだ、こいつは。
「君達の言葉で魔素、と言ったか。私の体は限りなく濃い魔素で構成されている。私の周囲に居るだけで魔物を強化出来るほどの濃度でね。君はどうだい?何か、そう言った強化方法があるからここにいるんじゃないかな?私にも同じ様な力があってね、手ずから産ませた我が子達は体が大きく強靱に育つのだよ。近くにいれば意思疎通も容易だし、どこに居るかも分かる。知能も少なからず獲得しているしね」
亜人から感じていた違和感の正体はそれか。強化方法はバフ飯や妖精の契約の事を言ってるのか?だが、それは女神様から授かった力で⋯⋯。
「どうやら心当たりがあるようだ。受肉してしばらくニンゲンの観察をしていたが君ほど異質な存在は見たことがない。そのままではいずれヒトの輪から外れ迫害されてしまうだろう。そうなる前に、そっちの世界なんか見切りをつけて私達と共に居るべきじゃないかな?」
「黙れ!私の妹はバケモノなんかじゃ!」
「いいや、バケモノだよ。まだ自覚がないだけで、堕ちれば遠からずそうなる。この私のように」
「あ、あたしは⋯⋯」
俺は魔物なんかじゃない。ちょっと魔素をろ過する機能を持った妖精ってだけだ。人間じゃないのは分かってる。でも、魔物みたいにシステムに沿った様な動きをしてるわけじゃない。だけどそれは妖精も同じ事が言える。誰にでもくっついてて、どれも同じように魔素をろ過し魔力に変換する装置みたいなもの。俺の体がこいつと同じように限りなく濃い魔素やら魔力やらで構成されてるとしたら、それはもう生き物ですらない。ただのエネルギーの集合体だ。そこに魂という曖昧なものが宿っただけの哀れな現象。
はは、なんだ。そう言いたいのか。お前はヒトと共に生きれないと。
妖精の異端児と魔物の異端児同士、仲良くやろうと。
「アリス聞くな!」
「いいや、聞いてもらおう。こっちへ来いアリス。我々と共に生きよう」
「あたしは⋯⋯⋯⋯」
「殺⋯⋯⋯して⋯⋯⋯⋯」
耳に入った悲痛な声に気を取られてそちらに目をやると、括り付けられていたエルフの一人がこちらを見て何かを喋っている。
「ん?誰の声だ?あぁ、まだ元気なやつがいたか。おい、黙らせろ」
「ヴォァァ」
「ぐぎゅっ」
命令を受けたトロールが腰に貼り付けていたエルフの頭を握って、そのまま潰した。しかしそれを皮切りに、他の人質達も一斉に叫び始めた。
「殺してくれぇ!私達の為に戦いを止めることなんて無い!」
「国の!エルフの!人類ために死ねるなら本望!」
「陛下ぁ!お願いします!このままでは浮かばれません!」
横に目をやると、今まで俯いていたあーちゃんが手を震わせて何かをブツブツ言っている。
「――――業火の嵐!!!」
顔を上げた勢いのまま手を振り上げ、詠唱していた魔法を発動させた。地面から吹き上がる炎はとてつもない高温で、転がっている石が赤く灼けて溶け出している。その直撃を受けたトロール達は元から弱点であったのか襲い来る熱さに耐えかね、その場でのたうち回り⋯⋯⋯やがて動きを止めた。
「ハッハッハ!やるじゃないか!盾ごと焼き払うとは、正に人!どこまで行っても他者を鑑みず、己の利益のみ追求する!」
「黙れェェェ!!!貴様には死なぞ生温い!我が民の痛み、骨の髄まで思い知らせてくれる!!」
ゴブリンエンペラーも巻き込んだはずだが、収まった火柱の中に平気で突っ立ってるしほぼ無傷のようだな。一体どんな体をしているのか⋯⋯。
「アリス、大丈夫か」
「うん。あたしは⋯⋯へーき。あいつが言ってるみたいに人間と一緒に居られなくなったとしても、お姉ちゃんならずっと一緒に居てくれるよね?」
平気なのは嘘だ。全てが終わったら記憶が戻って何するか分からない。それに、今やこの体には世界を滅ぼすポテンシャルがある。それくらいには人外の自覚はある。あいつのような魔王然とした存在にはなりたくないからその時は潔く死を選ぼう。
「勿論だ。ティナと母さんも一緒にガレラ村でひっそり暮らそう。きっと楽しいぞ」
「ハイハイ惚気るのも程々にね~。助からなかったあの人達の為にもあいつを倒さなきゃ」
知力Sから繰り出された揺さぶりか、何とも厄介極まるな⋯⋯。思う所は多いが今はあのクソ野郎の息の根を止めなければ、この狭い浮遊大陸なんぞあっという間にゴブリン大帝国になってしまう。人間は良くて奴隷か慰み者、悪ければ食料か遊び半分で消費される家畜以下の運命が待ってるだろう。俺が人どころか生き物ですらないとしても、今まで関わってきた人達がそんな目に遭うのは許せない。それこそが俺の、俺たらしめている部分だから。




