第78話 合戦しちゃった
他の装備は宝石が散りばめられた鎧に刺々しい篭手くらいかな。鎧の下に着てたり装飾品があるとちょっと分からないけど。姉と一緒に観察していて分かったことを報告する。
「豪華そうな鎧と棘がある篭手を装備してるようだ」
「篭手は見てるだけでも禍々しさがわかるね」
妖精の俺だから分かるのかも知れんが篭手から感じる魔力はハンパない。闇というかマイナスの魔力っていうの?魔王が装備すると実に馴染むッ!て感じのやつだ。
「疲労無効の【不屈の鎧】に、【影掴みの篭手】か!なんという厄介な物を!」
何だそのクソ装備は。疲労無効とか一日中戦っても疲れないってこと?武器さえあれば訓練し放題だし、矢があれば無限に遠距離攻撃出来るじゃん。接近戦でも常に守りに入ってれば相手が疲れるの待てば確実に勝てるしよぉ。
んで相手はそれが分かってても早期決着を狙うしかないから、早々に大技とか切り札切っちゃってミスると死って具合だ。実力が拮抗してるとこれほど厄介な効果はないね。対策は暗殺や包囲殲滅などでそもそもマトモな戦いになるのを防ぐくらいか。宝物庫にしまって使わないのも頷ける。
「篭手の方はどうなんだ?鎧と一緒に装備してるから同じくらい危険な代物だとは思うが」
「うむ、あの篭手は装備者が相手の影に干渉出来るようになるという効果を持っておる。例えば地面に映る影を掴んで拘束したり、突き刺して攻撃したりと言った具合での。その性能故時間制限がかかったようなもんじゃ。今は午後二十時、これから凡そ四時間ほどで奴を倒せぬ場合、月が我々の背後に移動し影が奴らの方向に伸びて一方的な攻撃に晒されることになる」
「なにそのヤバいの!」
「ああ、全くだ。戦闘に入っても立ち位置に気をつけないと中距離で刺される」
「西方面に移動されても駄目だし、明かりも消しとかないと私達の影が出ちゃうわね~⋯⋯」
ハイ出ましたクソ装備三つ目!火で炙って持久力を削り、鎧でスタミナ差を付けて最後に動きが緩慢になったた所で影をドスッとやるのか。エルフの国の至宝ちょっと陰湿すぎんか?使い方次第なんだろうけどさ。
「対策としては戦闘する場所に照明の魔法を直置きして、影が相手の方向に伸びないようにするくらいか?移動しながら戦うとなると都度置き直しが必要だけど、私の魔力はアリス経由で結構なモンだし負担にはならないからそれで行くか」
「うむ、そうじゃの。後は横槍を入れてくる取り巻きじゃが、これは強化された兵達で当たるとしよう。あやつらに半円形の陣を組ませ外方向に睨みを効かせ、残りは打って出るしかない」
「編成する時にありったけの神聖支援魔法をかけるよ。あと、敵を混乱させるための音魔法も一緒に使う」
「私は二人の援護と味方の補助で後ろに控えておくわ。負傷者が出たら回復もしなきゃだしね」
死ななければ安いプレイスタイルが出来るティナのLv4水魔法『生命復元』があれば死者がグッと減るだろう。失った魔力などはどうにもならないだろうけど、勝った後の事も考えるとここで人手を失うわけにもいかない。
だから今回は縛りとか無しのガンガン行こうぜでやろうと決めた。故にノールジュからぼそっと言われたこの体の真の能力も解禁するつもりだ。死の歌が使いづらすぎるせいでイマイチ切り札って感じがしなかったからちょうどいいね。
などと相談を打っているともう一撃火球が飛んできて、今度は後方に建ててある木製の櫓に直撃して燃え上がった。ああいうのも光源になって影を攻撃されるとしたら危ない、早めに消火して対処しないとな。と思ってたら早々に土台から崩して鎮火した。そして素早く土魔法で石製の高台を作り直し対策も怠らない。うーんエルフ軍練度が高い!これは復興の手が足らなくなるので本当に失えませんな。
「あちらさんも焦れてるようだな、プランBだ!こちらからも特攻部隊を出すぞ!」
クリスが指示を飛ばす。それを聞いた部隊長が腕利きの兵士達を集め、守備に回る人員以外は俺達の前に集まった。あーちゃんが作戦を伝達し、ここが分水嶺であること。俺達が着いているので負けることはないと鼓舞して士気を高めていく。それを隣で聞きながら自分にやれること―――天に手を翳し、範囲を最大まで拡大したありったけのバフをかけてこの都市に居る全ての味方へ強化を行き渡らせる。
「祝福!速度強化!魔力強化!知能強化!忍耐強化!栄光の鐘!全属性耐性向上!聖壁!聖なる剣!聖なる鎧!持続回復付与!」
前回のバフに加えて全属性耐性を付与し、五回まで物理攻撃を無効化。更に武器と防具に聖属性をエンチャントして直接的に攻防力を向上、体力と傷を少しずつ癒す魔法も追加。大盤振る舞い過ぎてこれで勝てなかったらもう知らんレベルにしておいた。
ネトゲのバフ屋さんも良い顔でサムズアップをする厚遇だ⋯⋯?俺ネトゲなんてやったことあったっけ。よく覚えてないけど、あったような気がする。⋯⋯⋯⋯今何考えてたんだっけ?眠いからあんまり覚えてないや、忘れたってことはどうでもいいことなんだろう。それよりバフの続きだ!
「がんばれがんばれできるできる絶対できるがんばれもっとやれるって!!やれる気持ちの問題だがんばれがんばれそこだそこだ諦めんな絶対にがんばれ積極的にポジティブにがんばれがんばれ!!妖精だって頑張ってるんだから!お米食べろ!!」
さらにもう一発。暑苦しい応援をLv3まで落としてギリギリ理性を保てるくらいの塩梅で発動する。これくらいなら大丈夫だよね?たぶん大丈夫だ、そう思いたい。応援に呼応して全ての人員が雄叫びを上げ、地面と空気がビリビリと震えるような声量に耳がやられそうになった。これだけやっとけばバフ飯を食べてない人でもひと当てしてから逃げるくらいは出来るはず。
「では行くぞ!総員、とつげーーき!!!」
あーちゃんの号令で街を囲んでいた壁が一部取っ払われ、前衛を務める兵が一斉に駆け出した。ここからは血で血を洗う肉弾戦の時間だ。出来るなら全員に帰ってきてほしいけど、賭けと勝負は水物。一度流れてしまえば終着点がどこに行き着くかは誰にも分からない。
お互いの陣営がぶつかった場所で血飛沫が上がり、敵が倒れ悲鳴が上がる。しかし数を減らしたとは言えまだ残っていた中型であるオーク等の一撃で味方が纏めて宙を舞い吹き飛ばされていく。動かなくなった兵を引き摺って自陣に戻っていく衛生兵達。既に尽きかけの魔力を絞り出して治療に専念するも、応急処置が精一杯で王都が抑えられているために薬が足りず、戦闘が終わるまで命が持つかと言った具合に絶望する人達。
そんな犠牲を目の当たりにしながら、今まで温存してきたプランB用の砲兵魔法使い達が一斉に攻撃魔法を唱えて爆撃をしかける。味方には属性耐性を付与しているので多少の誤爆は許容範囲内だ。上には火や土等の殺傷力が高い物が飛び、下は兵士がかっ飛んで敵の命を刈り取り道を作ってくれている。
「消音あーんど龍の咆哮!!」
《ヴォォアアァァァァァァッッ!!!!》
味方に被害が及ばないように広範囲に結界を張り、敵を畏怖させる音魔法を発動させる。龍の叫び声を浴びせて衝撃で物理的にスタン、更に恐慌状態のデバフを付与する魔法だ。これで敵の動きが鈍り進軍が楽になるだろう。っていうか今の声聞いたことあるな、まんま映画とかで見たティラノサウルスじゃん。え?この世界ドラゴン扱いであいついんの?絶対相手したくねぇ!勝てるわけがないよぉ!
「よし、今のうちに進むぞ!アリスは高く飛びすぎないように気をつけろよ!」
「うん!」
兵士が決死の覚悟で作ってくれた道を姉達の隣を飛びながら一緒に進んで行くと、敵の群れの中に空白地帯があるのが見えた。そこに佇む一体のヒトガタ。誰が見ても分かる威圧感に、強者の風格⋯⋯カリスマと言って良いのだろうか、あーちゃんとは別の上に立つ者に必要な資質を備えているというのが感覚でわかる。
――あれが、ゴブリンエンペラー。




