第77話 暴かれちゃった
クッッッッッッソ眠い。
あれから数時間くらいかけて何度か似たような攻防を繰り返して、敵の数は順調に減らされつつある。特定を使っても周囲に陣取ってる敵の数が明らかに減ってきているので確かだ。だけどもこっちだって疲労困憊だとか魔力が切れての戦闘不能になっている人も増えつつある。徹底的に引きこもる戦術を取ったから死傷者は全然いないけど崩れたら終わりだな。
いかん、眠い⋯⋯⋯。いつもだったら日が沈む頃には既にご飯を食べ終わっていて、部屋で寝る用意してベッドで本読んだり姉達とイチャイチャしてるからな。こんなに長いこと起きてる事自体無かったんだよなぁ。そう言えば夜空を見上げるなんてこの世界ではしたことがなかったかも。
見てみるか。うん、一面の星空で凄い綺麗。田舎の山なんかの、地に灯りがなくて空気が澄んでる場所だとこんな感じなんだよな、心に響く景色だ。でも夜空を見上げると嫌でも目に入る黒色と明滅する白点のせいで目がシパシパして涙が出てきちゃった。
「御使い様が泣いておられるぞ」
「まさか、倒した魔物共を憐れんで?」
「なんという慈悲に溢れた心を持ってらっしゃるのか」
なんかあらぬ方向で他の人に勘違いされてるけど眠すぎて訂正する気も起きないからいいや。ってかこれで涙が出ても魅了発動しないんですね、感情が動いてないから?もしくは泣き声が出てないから?よく分からん!眠いとどうでもいいことばっかり考えるから集中しないと⋯⋯いや、その集中するのが眠気で難しいんだよなぁ、悪循環すぎる。やっぱ子供から睡眠時間を奪うのは大罪やな!
「おい、大丈夫か?眠くてしょうがないんだろ。いつもこの時間にはもう寝てるもんな」
クリスが直ぐ側におっ建てた人間バリスタ用の高台から降りてきて気遣ってくれた。いつもの干し肉にタレをかけて齧っている。それちょうだい、眠気覚ましになるから⋯⋯。それを見て遠くない場所で休憩していたティナとあーちゃんもこちらに近寄ってくる。
「そろそろおネムよねぇ、早く終わってくれればいいんだけどさ~」
「これだけ削れば撤退されてもこちらの勝ちは揺がんのじゃが相手は人ではないからな。命令系統がどうなっておるか分からぬが恐怖による末端の敗走も起こっておらぬし、余程トップが恐ろしいかカリスマがあるかのどちらかじゃろう。こっちには負担にしかならんしやりにくい相手じゃ」
やばい、あーちゃんが何言ってるのか半分くらい理解出来ない。寝落ち寸前だこれ。
「ねむいよぉ~、あたまがふらふらするよぉ~」
「わかった、もう飛ぶな。あの高さで落ちたら洒落にならないからな」
「うん⋯⋯」
魔法じゃなくて翼を動かして飛ぶから空で寝落ちすると文字通り落ちるよね。気をつけないと⋯⋯ってかねっっっむ!えー今何時だろうか。日本と同じなら冬の日没は大体十七時くらいであれから数十分の攻防を数回繰り返して休憩も挟んで⋯⋯るから⋯⋯⋯二十時かそこらか?そりゃ眠いわ!殆ど五歳児と変わらない体でお昼寝も無しにハードなスケジュールで動いてんだもの。夏場のプール帰りよりキツい。
プール⋯⋯あっそうだ、これが終わったらプール作ろう!(唐突)この世界は海がないみたいだし泳ぐって言っても川や湖くらいだろう。前世で水泳の経験がある俺に大幅有利なコンテンツというわけだ、どれくらい泳げたか細かい所は覚えてないんだけど。まぁ需要があるかわかんないけど冬はスケートリンクにでもすればよかろう。名前忘れたけどリリーアちゃんとこの鍛冶屋のおっちゃんに頼んで靴を作って貰うか?
あれ?今何考えてたんだっけ。なんかもうわかんなくなってきた。クリスに貰って手に持ってたお肉もいつの間にか全部お腹に収まってたし。
「目が据わってるじゃないか、もう私達に任せて横になってろよ。朝には終わってるだろうからさ」
「そんなことできないよ⋯⋯皆が命がけで戦ってるのに一人だけスヤスヤ眠るなんて」
「と言ってもねぇ、結局あなたとクリスの出番は敵の親玉が出てきてからなんだから、膠着状態の内に休んどいたほうがいいわよ~?」
その時、敵の侵入を抑えている方角に建てている壁から赤い爆発と轟音と発生した。
「な、なに!?びっくりした!」
見上げると壁があった所が燃えて赤熱化し、所々溶けているのが目に入る。おかげでかなり眠気が飛んだ。
「なんという熱量じゃ、通常の火魔法ではああはならんぞ!消火急げ!焼け落ちると被害が広がるぞ!」
「遂に御出ましか。群れが割れるように広がってるな⋯⋯その中心にはヒトガタの奴が一匹、恐らくゴブリンエンペラーだ」
俺の翼が出っぱなしになっているので特定を使っているらしい。俺も使ってみると―――居た。他の奴らより小柄だな、子供サイズのゴブリンよりは大きく、オーガやオークよりは小さい。っていうかこれ、ほぼ人間サイズじゃね?なんか剣も持ってるみたいだし、尖った耳とか体をローブで隠すと街にも紛れ込めそうな体格だ。そいつが剣を前に構えて、なんかやってるな。その剣の先から何かの塊が飛んで⋯⋯?
「みんな危ない!伏せて!」
先程と同じ火炎の爆轟が頭上に響いた。
「クッ!またか!あいつがやってきてたのか⋯⋯アレを降すのはちょいと骨が折れそうだ」
姉が吐き捨てるように溢す。確かに近接戦闘しか考慮してなかったからあの大火力を前に怯むのはしょうがない。しかし妖精の俺だからこそ分かる疑問があった。
「でもどうやって!あいつ、傍に妖精なんか飛んでないよ!?」
この世界では魔法を使うには、人体に入った魔素をろ過し、それによって変換された魔力を貯める役割を担う妖精が不可欠だ。これがない場合、魔法の発動は出来ず、魔物を倒した際に出る魔素に体を侵され以前のクリスのように重体になる危険だってある。その二つを無視して強力な火魔法を放つ存在は、ハッキリ言って異常以外の何者でもなかった。やつの傍には亜人系の魔物しか居ない。妖精の気配を欠片も確認できない。
「まさか⋯⋯⋯すまんがそいつが持っている武器を確認してくれ。柄の先端に宝玉がハマっておらぬか?」
俺とクリスが急いで魔力を込めて高精度の特定を使用して手元を注視する。エンペラーが持っている両手持ち用の曲剣は中々に豪華そうで、やや湾曲した刀身に、装飾された鍔と、先端に親指大の宝石が配置された柄で構成されていた。
「ある!あるよ!高そうな曲剣が一本だけ!」
「やはりな。我が国の至宝の一つ、宝剣【ファイアブランド】まで持ち出してきよったか!亜人共め!!」
「おいおいなんだそりゃ?随分高そうな武器じゃんかよ」
「高いなんて物ではない、有史以前に存在していた古代文明が遺したと言われる遺物じゃ。その刀身は鉄をも溶かす炎を操り、一日に数回ほどの火球を放てると言うな。しかも魔力の有無などが関係ないらしい。その原理は今でも解明されておらず、人の手に渡ると危険じゃから宝物庫に安置しておったのじゃ」
何だそのチートは!?ある程度訓練しないと強い魔法が使えないこの世界で、誰でも使える強力な武器だと!?考えようによっちゃ元々他の属性が使える奴が持つと二属性操れるようになるとかとんでもないじゃないか!!風だと火を追い風で容易に延焼させれるし、地だと壁で囲んで蒸し焼きにもできる。水ならその後の消化ができるから後先考えずに攻めれるし!ここに来て脅威が増えた!
「他の装備は分からぬか!?あやつらが宝物庫を暴いておるならヤバいものが他にもあるのじゃ!」
まだあんのかよ!せっかく籠城していい感じに戦局が推移してたのに!




