第76話 孤児院、救助
地面に立っていられない程の風が叩きつけられ、エレオノーラ達を包囲していた刺客達が動きを止めその場に蹲り原因を探る。この孤児院である元貴族の屋敷の前に、小規模ながら強力な竜巻が発生していた。中に居る者にはそれが見えず、ただの風だと思いこみその場で伏せてやり過ごそうとしている者が殆だ。だがそこに僅かながら小粒の石が混じり始めた。
「うがっ!いってえー、なんだ!?」
「この風収まんねぇぞ!」
「伏せてろ!瓦礫が飛んでる!」
飛来する石ころを頭に受けて気絶しそのまま巻き上げられる者、風の勢いに耐えきれず転倒しそのまま吹き飛ばされ壁に激突し昏倒する者、果てには味方同士でぶつかり揉み合いになりながら転がっていく者も居た。
その中で、悠然とエレオノーラ達の居る方に歩み寄り話しかけてくる四人組が現れた。
「どっひゃー!これからお得意様になるっちゅーから心配で顔出しに来たら偉いことになっとるなぁ!」
「貴方達は⋯⋯」
「な、なんだ貴様らは!後ろの部隊は何をしていた!!」
「ああ、紹介は後でええじゃろう。まずはこの場をなんとかせんとな。行くぞ婆さん」
「もう婆さんって見た目じゃ⋯⋯分かったよ、行こうか」
そのうち金髪の男女二人が風の結界をディンと残る一人にかけ直し、生身のまま駆け出した。
「じいさん達やりすぎニャ。滅茶苦茶目立ってこれじゃお尋ね者間違いなしニャー」
「そないなこと言ったってなぁ、ウチの工場にも火ぃつけよったしケジメっちゅうのはつけんとあかんやろ。そっちに作る予定の第二に行く連中もまだあそこに居るんやで?変に遺恨残してもうて逆恨みで狙われる方がメンドーや、違うか?」
「そりゃそうニャ。もっとやるニャ、ロジータばあさん!レオじいさん!」
レオと呼ばれた老人⋯⋯ではなく金髪碧眼の青年は風に吹かれても石が当たっても一切怯むこと無く前に進み、まだ堪えている刺客達を剣で薙ぎ払いながら移動している。片割れの女性も手斧を取り出し、土壁を魔法で作り出して耐えていた者達の元へ行き、その壁ごとフルスイングをお見舞いして吹き飛ばし風に飲ませていく。
「往生際が悪いよあんたら。殺す気で来たんだろ?じゃあ自分達も死ぬ事がある。それが自然の摂理ってもんさね」
壁を壊した犯人の足を掴み、吹き飛ばないように必死になっている男の手首を切り落としながらその女性は言う。
「大体聞く話によるとあの王女様はウチの女神様の身内だってじゃないか。それじゃ私達にとっても家族同然。それに手を出したんだ―――行く先は地獄以外無いよ」
全ての刺客が宙に巻き上げられ、残る者は中央のボロゾフと結界で守られているエレオノーラ達のみとなった。
「それじゃ仕上げ行くよ、最大荷重」
土魔法の荷重、その名の通り込める魔力によって自分が発生させた石や土の重さ自体を変える魔法である。主な使い所は作った石材を運ぶ際に労力を減らすためであったり、重しが必要な場合に面積を変えずに質量のみを変更して場所を取らずに重さが得られるという点。
だが、そんな使い所に困る魔法もこの二人の使い方では恐ろしく殺傷力の高いものに変わる。まず、風魔法によって作った砂塵を風に乗せ相手に付着させる。敢えて石礫を混ぜておき、体に当たる砂には意識を向けさせないようにするのがたちが悪い。大きい物に当たらなければ大丈夫だと、対策を遅らせるのだ。
そして相手が砂にまみれたところへすかさず最大荷重。これにより体中に負荷がかかり、地面に縛り付けられることになる。なお本人達が吹き飛ばされないのは、予め最大荷重をかけておいた重しを四肢と腰に付けているからであって、竜巻を無効化している訳では無い。更に言うとその重量も膨大な魔力量で行われた身体強化のゴリ押しによって無視して動いている。脳筋極まれり。
竜巻が消え、空中に投げ出された男達が最大荷重の影響を受け地面に激突する。運が良い者はその衝撃で気絶し、運が悪い無駄に頑丈な者は地面に縫い付けられた状態で頭に追撃の一手を受け無力化されていく。通常の魔力で唱えられた最大荷重ではその場で重量を感じ動けなくなる程度で済むが、バフおかゆで強化され本来の数倍になった重量によって身体強化をも貫通し、骨が数本砕けるほどの威力になり地面に大量の男達が転がることになった。うめき声も聞こえなくなった頃、正気を取り戻したボロゾフは悲鳴を上げた。
「ヒッ、ヒィィィィ!」
「お、ええ悲鳴やな!でもそんだけやとウチの被害総額にはまだ足りんで」
「助けてくれ!かっ金ならやる!いくらだ!?金貨五百枚か!?」
「足りんわー」
「な、七百枚出す!」
「おっちゃん冗談言うたらあかんわ」
「せ⋯⋯千枚でどうだ!?」
「あんなー、分かっとらんようやし言うといたるわ。命は金じゃ買えへんのやで。オノレのも、ヨソのもな。せやけどオンドレのタマに値段つけるとしたら、銅貨一枚にもならんわ!価値無しや!くたばれクソ親父!!」
「ぐがっ⋯⋯」
ディンの正拳突きがボロゾフの顔面にめり込み、気を失い仰向けに倒れた。そこへ懐から出した銅貨を一枚指で弾いて乗せた。
「フン、こんな小物殴って逆に俺の拳の価値が落ちてしもうたわ。ツリはいらんで」
「人の命は買えないねぇ、商人の台詞とは思えんニャ」
「アホォ、商人やから言えんねん。奴隷でもなんでも命までやり取りしとるワケやあらへん、時間を売り買いしとんのや。ホンマに命を買える思うとる奴は商人やない、傲慢なだけの人でなしやで」
「こっちも終わったぞい」
「ちょっと子供の教育に悪い事になっちゃったけどねぇ」
「おつかれニャ。それより王女様ぶっ倒れてるけどいいんニャ?」
「「「えっ?」」」
一同が目を向けると、毒により昏倒し青い顔をしているエレオノーラの姿があった。
それから数時間後。なんとか消火が間に合い、焼け残った孤児院の一室。そこで毒は抜けたが体力を大きく消耗しベッドから体を起こしながら会話をしているエレオノーラと、助けに入った四人が会話していた。
「いやー助かった!貴公等には感謝のしようもないな!」
「感謝とかはええんやけどこの人らが攻撃魔法ぶっ放したのは内緒にしといたってえな?」
「それはもちろんだとも!なんなら緊急時の判断として王家より報奨も出そうではないか!そうだ、人頭税の永世免除などはどうだ?」
ボロゾフの懐から転がり落ちた解毒薬によりエレオノーラは一命を取り留めていた。捕らえた後に態々解毒させて延命し絶望を味合わせる算段だったと、吐かせた計画の中にゲスな考えが混じっていたのは言うまでもない。
「そりゃあ助かるのう。セイニャンのお守りで久々に来たが人助けはするもんじゃな」
「お守りって⋯⋯せっかく若返ったから第二の新婚旅行として、ついでに連れてきてやったのにニャー」
「そうそう。それに本格的にガレラ村に工場を建てるってアリスちゃんから来たお手紙に王女様への紹介状まで入ってたしね。土地の問題とか他の抱えてる問題も全部丸投げすればうまくやってくれるかもって。あの子はやっぱり女神様の御使いだわ」
「ああ、任せておくがいい!今回のことも含めて纏めて面倒見てやるとも」
「スルーされたニャ」
その後、半分だけ引き返してきた部隊に無事反乱は鎮圧され、王都は平穏を取り戻した。ボロゾフは再び捕らえられ他の犯人達と共に正規軍に引き渡されるとその場で全員斬首になった。王城を攻撃していた反乱軍によると、未だ継承権がある第二王女を誘拐、乃至殺害することで王家の力を削ぎ、幼い第一王子を傀儡として王にした上で反乱の主導をしていた貴族派のトップであるボロゾフを宰相の地位に据えようとしていた。ほぼ前と同じ流れである。まぁこの時点で既にボロゾフ家はお家取り潰しになっていたので、同時に反乱を起こした他の貴族達はそこを突いて自分達がその地位に収まろうとしていたのだが。
前回は間接的に、今回は直接的にボロゾフに手を貸していた貴族達も元々黒い噂が絶えず、このまま座してお上の沙汰を待つ気はなかったのか、今回の機会を逃すまいと武力蜂起した。しかしそこに運悪く謎の美形夫婦とネコ獣人がどこぞの白髪幼女の招待で王都を訪れており、新工場建設の詳細を詰めるための商談中に派手に建物が炎上。偶然流れ弾が焼肉のタレ製造工場に着弾したのである。その事態にプッツンしたディンが客人の手を借りて王城や市街地で破壊工作をしていた者達を一掃。そうして事件は幕を下ろした。
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「所で何故老人のような喋り方なのだ?それに若返り等と聞いたが」
「あの子の周りじゃ不思議なことが度々起こるらしいでの、その一つじゃと思ってくれ」
「そういうこともあるか」
(ようやくツッコミが入ったニャー)
序盤に大雑把な説明がありましたが、
銅貨一枚=百円
銀貨一枚=一万円
金貨一枚=百万円
百枚ごとに硬貨が変わります。
ちなみにこの時期のアリスちゃん達は焼肉のタレの契約により、
月に金貨数枚(数百万円)程度の収入があります。
一体どれだけ儲けてるんだエセ関西人




