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TSした妖精幼女は異世界で家族が出来る  作者: えもぬえ


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第75話 孤児院、炎上

8000ユニークアクセスありがとうございます!

更新頻度が落ちて行ってるのは戦闘描写などを悩みに悩んでいるからでございます⋯⋯


難しいね

 子供達を背で守り、頭から血を流し、利き足である右の太腿には矢が刺さった状態で彼女は考える。


「私には守れないというのか⋯⋯いや、この命に替えてもこの子達だけは」


 目前には勝利を確信し薄ら笑いを浮かべる貴族の私兵達。決して剣の間合いに踏み入らぬよう、各々がクロスボウやスリング等の遠距離武器を構え、魔法使いは杖を向けこちらの様子を窺っている。


「院長先生ぇ⋯怖いよぉ」「お母さん⋯⋯」「え~ん、ひっく、ぐすっ」


「大丈夫だ、皆私が守る。だからもう少しだけ堪えてくれ」


 アリス達がエルフを救うために籠城を決め込んでなんやかんやしている裏で、グランディール王国は混乱の坩堝に叩き込まれていた。


 時は少し遡る。


 グランディール王国第二王女エレオノーラは困惑していた。隣国の救援に行くアリス達を見送り、いつものように手伝いに来てくれているドワーフのリリーアと一緒に孤児院の中で子供達の世話をしていると、突如王城の方向から轟音が響いてきたのだ。それを聞いた彼女は急ぎ外に飛び出しそちらに目をやる。


「あれは、火球(ファイアーボール)か!?街中での攻撃魔法は禁止されているはずだ!一体誰が⋯⋯」


 王城が燃えていた。遠距離から放たれる火球の魔法により、現在進行系で火種が投下され続け至る所で火の手が上がっている。現在の法では、ダンジョンや訓練場を除けば居住区域、商業区域を含むあらゆる場所での市街における攻撃魔法の使用は重罪の対象だ。身体強化や生活魔法、又は国に許可を得て貯水槽の補給や氷室での製氷などは許されている。


 一般人ですら妖精の恩恵により魔法が使えるこの世界において、自制を失った魔法の行使というのは即座に文明圏の崩壊を意味する。それは、自衛であっても情状酌量の余地が挟まれない、というのでそれがどれほどの罪か物語っている。もしそれが許されるとしたら、戦争か街自体の危機くらいなものだろう。つまり現実世界で言うところの『銃』と同レベルなのだ。


 但し、こちらの近代兵器とは違い、免許免状が要らず、購入する手間もなく、全人類が平等に所持している、という注釈が付くが。それ故に、現在行われている王城に向けられている攻撃魔法。それも簡単に延焼し、全てを灰にする火属性という強力な手段。それが意味するところは―――。


「そうか、遂に起こるべくして起こったということか⋯⋯こうなる前に全てを断罪できなかった王家の罪だな。父様を守るため駆けつけたい所ではあるが、ここも守らなければ。目標が王族であるならば、間違いなくここにも来るはずだ」


 子供達を守りながら移動するのは難しい。自分一人では足が遅い幼子達を無傷で避難させるには手が足りない。襲撃者の規模が不明な内は下手に動いて分散させられた場合のリスクの方が勝る。共にいるリリーアも火妖精の所持者で攻撃力に寄った性能であるから現状の打破は難しい。むしろ被害を拡散させてしまうかもしれない。


 そう考えていると、王城に上がっていた火の手が水魔法により消火され始めた。一部手の届かない所はあるが全焼は免れるだろう。


「院長先生!何が起こってるんですか!?」


 中で子供達を任せておいたリリーアが表に出てきて問いかけてくる。しばらく戻らなかったので心配になったのだろう、焦りと困惑が顔に表れている。


「どうやら貴族共が反乱を起こしたようだ。本来なら武力で抑えつつ春までに無能どもを解体していく予定だったのだがな、エルフの救援に兵を向かわせて弱体化した所を突かれたと言った所か」


「そ、そんな⋯⋯私たち、どうすればいいんですか?」


「平静を保て。子達が見れば要らぬ不安を掻き立てるぞ。騒ぎが落ち着けばデクタス公あたりが使いをだしてくるだろう、それまでは家の中で鍵をかけ雨戸を降ろして待機だな」


 リリーアに指示を出し中に戻ろうとすると。


「せんせー!行っちゃやだー!」


「お腹空いたよー!」


 子供達までもが孤児院を飛び出してこちらに走って来る。守ってくれる大人が居なくなってしまい怖くなったのだろう。まだ保護をして日が浅い子等は目に涙を浮かべて抱き着いてきている。


「おお、お前達。大丈夫だ、私はどこにも行かないさ。さぁ中に戻ろう」


 そう言い踵を返し孤児院の中に入ろうとすると、風斬り音が耳に届いた。


「――っ!?危ない!」


 その音がした方向に目をやる。孤児院の入口の向かい、家具屋の屋根の上にそれは居た。茶色い外套に身を包み、目深くフードを被り手に持ったクロスボウでこちらを狙っている。暗殺者だ。矢は既にこちらに数本飛んできている。魔法の詠唱は間に合わない。剣は腰にある護身用の一本だけ。狙撃対象にされたのは自分ではなく、子供達。


「外道が!」


 弾かれるように走り出し、その途中で剣を抜いて子供達に迫りくる矢を切り払うが、残った二本がどうしても捌ききれず体で受けることになった。


「くあっ!」


 右足と掠った頭に痛みが走り、転倒しかけるも既の所で踏みとどまる。


「せんせぇ!」


「来るな!中に入っていろ!」


 子供達に再び矢が飛んでこないよう辺りを警戒し、中で暗殺者の相手をするための算段を立てようと思案を巡らせる。が、それは無駄だった。玄関扉を開けて戻ろうとすると、木が燃える焦げ臭い香りが鼻をついたのだ。裏口がある方向を見やると、そこからも先程の暗殺者と同じ風体の男が数人、既に侵入してきていた。中に入ってくるついでに逃げ道を塞ぐため火を放ったのだ。


「まさか、ここにも既に来ていたというのか⋯⋯全員傍を離れるな!風壁(ウィンドウォール)!」


 通常は前方にのみ作用する風の結界を全周防御のために円形に発動させる。魔力消費が多いが、敵が後ろや上に居る以上仕方がないことだ。姿が見えないだけで周囲の建物の影からも狙われている。もしも判断を逸らせ子供達を連れて避難していた場合、四方八方から撃たれていたので良い判断と言える。だがしかし。


「ぐっ⋯⋯!?これは、毒、か」


 エレオノーラの足元がふらつき、魔法で作った風が薄くなる。それを確認した暗殺者が次々と射掛けるが、放った矢は途中で勢いを失い風に弾かれ結界の外に落ちてゆく。だがそれは徐々に均衡を破り、数分もすれば弾速が殺されているとはいえ足元に転がってくるまでになっていた。脅威は無いと判断した暗殺者や、隠れていた刺客達が姿を現し、ニヤつきながら彼女達を取り囲むよう包囲してくる。


「私には守れないというのか⋯⋯いや、この命に替えてもこの子達だけは」






 そうして今に至る。


 遂に膝をつき朦朧とする意識で敵を睨んでいると、聞き覚えのある声がエレオノーラの耳に入る。


「おやおやおや何とも無様な!ずぅっとこの時を待っていましたよ!」


「き、貴様⋯⋯ボロゾフ。投獄されている、はずでは」


「あぁ?口の聞き方がなっとらんな。まぁいい、ただの替え玉だよ。お前も駒を持っているだろう?貴族の嗜みと言う奴さ。脚を切り落とす時には抵抗されたがね、所詮平民などは家族を手元において『お願い』すれば簡単に頷く」


 よく見えるよう結界に近づいて行き、ボロゾフは持っている杖で自分の左足の義足を叩いてカンカンと音を鳴らす。牢を脱獄する時に自分と瓜二つの人物をそこに置いて発覚を防いだのだ。もちろん、五体満足ではすぐに気づかれてしまうので態々同じ足を落として。


「自分の配下にまで、そこまでの無体を⋯⋯この、腐れ外道めがっ⋯⋯」


「フン、なんとでも言うがいい。それよりこの風はいつまで保つのかな?その時が待ち遠しいぞ。まずはお前の手足を落とし、目の前で守るはずだった者の命を奪ってやろう。その次は王の前に引きずり出して同じように首を落として殺してやる。おっと、その前に毒で死ぬかな?まぁどちらでもいいか。ハハハハハ!」


「⋯⋯⋯」


 自分達が住んでいた屋敷が遂に炎上し、それを見ながら笑っているボロゾフの言葉にエレオノーラは絶望を覚える。どこで間違えたのか。ハイクに言って孤児院に護衛を頼んでおけば良かったのかも知れない。しかし、エルフの救援で手薄になった王城に詰めるため無理は言えなかった。自分がもっと強ければこんなことにはならなかったのかも知れない。しかし、折れるわけには行かない。自分が倒れれば背中で守っている子供達まで失われてしまう。それも、死ぬまでに何をするか分からない目の前の男の手によって。


 何か手はないかと辺りを見回していると、建物の影でこちらを見ている人物に気付いた。


(あれは⋯⋯商人のディンだったか?アリス嬢と行動を共にしている時に数回顔を合わせたことはあるが、なぜここに)


 他にも連れが居るのか様子を窺いながら何かを口にしている。意見が固まったのか、こちらに対して手を上げて合図のようなものをしてきている。何をするつもりなのかエレオノーラにはよく分からないが、両腕を上に向けて合わせて丸い形を作っているのが見えた。時折手を離し口を窄めて上下に開けている。


(あの手はまる⋯まる?口の動きは、を?違うな、ぼ⋯⋯も?なるほど、まるの間に、も、ね。守るか)


 それを見て察し頷くと、手の平をこちらに向けて一本ずつ指を畳んでいく。五本目の指が畳まれるのと同時に、最後の力を振り絞り風の結界の強度を最大まで上げる。全ては子供達を守るために。


 その瞬間、風の結界とその近くにいるボロゾフを中心に凄まじい暴風が吹き荒れた。

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