第74話 籠城しちゃった
「⋯⋯⋯」
空を駆け遠距離武器の射程範囲に入らないよう上空から敵の数を確認する。前回相手をした街道を埋め尽くしてた奴らが四百だったか。規模的にはその数百倍はある。少なくとも十万くらい⋯⋯こちらの戦力の大まかな数字はエルフ軍一万八千プラス応援のグランディール王国軍五千、合計二万三千程度。マトモな手段で真っ向から相手をすれば数ですり潰される未来しか見えない。さて、どうするか。
拠点に戻り、元居た姉達の所にふわりと降りると、周りの人達がすんごい目をおっぴろげてこっちを見ていた。なに?
「天使様⋯⋯?」
誰かが呟いた。それを皮切りに、口々に救いを求める声が続く。
「お救いを⋯⋯」
「私の信仰を捧げます」
「我らに勝利を」
「家族を奪った者共に鉄槌を」
俺を中心に円形に広がった人垣が祈るように、縋るように跪き望みを口にしてくる。や、やめろぉっ!そんな濃密な祈りを捧げられると頭が何かに塗り潰されていく!これが実際に神がいる世界での宗教国家の底力か!
「やめんか!!」
彼らを導いてきた女王の一括で場が静まる。その場に居る、この体の飛行形態を目撃した数十人とも数百人とも言える人数の視線を受けて怯みもしないのは流石、国家元首と言った所か。
「確かに彼女は我らを救いに来てくだすった女神の御使様じゃが、それに頼り切って身勝手な願いなど口にしてはいかん。ここは誰の国じゃ?我々の国じゃ!我らエルフが長年暮らし愛してきた土地なんじゃぞ!ならば、取り返すのは我々の他に居るはずが有るまい!祈るために手を止めるな、信仰を口にする前に指示を飛ばせ!」
「あーちゃん⋯⋯」
「古来より己で考えることを捨てた神頼みなぞ碌な結末にならん。最後に頼れるのは自分の体、隣に立つ仲間達じゃ!勿論この御方も力を貸してくださるが、それに頼り切っていては腐るのみ!まずは動け!我々の故郷を取り戻すぞ!」
「「「オォォォォォッ!!!」」」
やっぱ現役女王の演説はすげーな、空気が変わって一瞬で俺が飛ぶ前に戻った。
「あ、ありがとあーちゃん」
「なんのなんの。それで、どうじゃった?敵見たんじゃろ?」
とりあえずざっと確認したおおよその敵の数を教える。
「最低十万、か。戦力差は絶望的じゃの。なんぞいい考えはないか?」
「愚直に当たるのは無理でしょうね。乱戦になっても駄目。そもそも戦うという選択肢が既に危ないわ」
「そうだな。あの数だ、強化された連中であたっても魔力切れを起こして途中でぶっ倒れるだろうよ」
「ふーむ⋯⋯籠城しかないか」
籠城戦か。まず陣形なんか必要ないから俺でも力になれそうだな。ここは高めの擁壁しか無いから強化した人達の魔法で壁を形成して、その後ろから撃てばどうだ?敢えて敵を一箇所から攻めさせるように道を開けておいて⋯⋯お、閃いた!
「籠城なら⋯⋯石壁を⋯⋯水と風で⋯⋯上から⋯⋯⋯お姉ちゃんに狙撃⋯⋯⋯」
「いい戦法でも思いついたか?」
「うん。中々いいかんじだと思うよ。皆で協力しないと上手く行かないと思うけど」
「ここには歴戦の兵も多い、連携はなんとかなるじゃろう。よし、指揮官を集めよ!」
そうして俺発案の作戦を取り入れ籠城戦をすることが決まった。いや、戦争に関してズブの素人の意見を聞くのもアレだけど、それが通っちゃって全面的に採用するのはどうなのかなぁ。他の人達がすっごいうんうん頷いてたけど。もしこれで負けても責任なんか取りたくないよぉ。
「ここらでいいですか!?」
「おっけー!いーよ!」
これから行われるのは籠城の大前提、数mしかない擁壁では登られやすいので高い石の壁を魔法で建設する。縦に長方形で作った石壁を並べることにする。後で追加しやすくするための規格も拡声魔法で説明して、強化済み土魔法使いさん達に建ててもらうことにした。ズズン、と交易都市を包み込むように長方形の柱が聳え立っていく。奴らはまだ地平線のあたりに見えるので間に合うはずだ。
あちこちで戦闘準備ができたと報告の声が上がってくる。指示の伝達も完了、魔力の確認も装備の点検も終わった。あとは迫りくる敵に俺の策がハマるかどうか。今は十二月の真冬、雪が降ってもおかしくない寒さだ。あいつらも生物のようなものなら、体温があるはず。適応可能な温度の差異はあるだろうけど、極端に上下した場合体調を崩すのは想像に難くない。
「来るぞォーッ!」
「作戦開始!作戦開始ーっ!」
隊列を揃えて突撃するなんて高尚なことが魔物なんかに出来る訳もなく、我先にと押しのけながら走ってきた奴らが射程圏内に入る。だが、まだ戦ってはいけない。こちらがやろうとしていることを悟らせてはいけない。なるべく引きつけて、多くの敵を一網打尽にしなくては。
「まだだよ、みんな堪えてね」
拡声魔法で周りに指示を出しながら息を潜める。一箇所だけ入口を開けるように作っておいた石の壁に敵が群がり、交易都市に入ろうとしてくる。
「今だぁーっ!!」
その瞬間、土魔法使い達が前方に建てておいた石壁の根本部分だけを脆くする。それと同時に、水と風の魔法使い達が持続時間が長い魔法を壁の上部に放ち続けて、石の壁自体を前に押し倒した。高さ二十メートルでちょっとしたビルくらいの質量が大量の亜人系魔物達を押し潰していく。ブチブチグシャグシャと耳障りな肉の破砕音がしなくなり、作戦は次の段階に移った。
「次!コの字陣形!」
今度は後ろに居て助かった奴らを始末する。群がっていた魔物がほぼ全て死に、足が遅い大型のサイクロプスやオーガ、トロール、オークなどの普通に対処したら被害が甚大になるであろう奴らが生き残っている。そいつらを殺すために、敢えてこちらの防御を崩し、更に奥の後続を断つように石壁を遠隔で建てていく。
「お姉ちゃんお願い!」
「よっしゃ任せとけ!」
ここからは姉の出番だ。後方の中央に建てておいた見張り台のような高めの土台。その上にクリスが立っている。手には一際大きな大槍を握っている。それを持ったまま振りかぶり、まるで投球モーションのように全力でぶん投げた。二匹、三匹と貫通して致命的に肉体を抉りながら飛翔した大槍は、向こう側に建ててある石壁にぶち当たってようやく止まった。
「まだまだ行くぞ!オラオラオラァ!」
勿論一本では止まらない。収納から次々取り出し全力投球を繰り返す。一本だけでまるで大砲のように大型の敵を薙ぎ払っていくのに、それが矢継ぎ早に飛んでくることで敵の密集地帯ごと吹き飛ばしていく。。当たった魔物が倒れ込み、足元にいる小型のゴブリンやレッドキャップなども潰されて巻き添えになっている。他の人達も前方が大きく開いたことで射線が確保出来たので、火水土風と様々な属性の魔法を飛ばして攻撃している。数十分は戦って、閉じ込めた範囲の敵を始末する頃には魔力切れの人も出てきたので、一旦引きこもる為に再び入口一箇所だけを残して石壁を操作して建ててもらう。
「次!風邪作戦!」
今から行うのは一旦自分達の補給と人員の交代のための時間稼ぎ。比較的負担が少なかった水と風の魔法使いによる姑息な攻撃だ。まずは今まで出番がなかった戦士系に人達に入口を抑えてもらって、俺達が完全に籠城せずに戦う意志があることを向こうに教える必要がある。そのうちにまた敵が入口に集まってきたので、山なりに撃った水弾を浴びせまくってびっしょびしょにしてやるのだ。
「よし!ほぼ全ての敵に当たったわよ!」
ティナの報告を聞いて次の風魔法使いに指示を出す。
「風魔法部隊、全力全開だー!」
その号令を聞いて、敵の上から真冬の冷え切った空気を叩きつけるように食らわせる。ククク⋯⋯指も凍える外気温な上に水を引っ被って突風を食らうとどうなるかな?効果を確認するために翼を生やして飛び上がり、しばらく風を当てている所を見ていると、次々顔を青くして(魔物の顔色なんぞあんまり分からないけど)くしゃみをし始めた。動きも見る見る内に鈍って行ってるし、あいつらは放置しても今建ててある石の壁を崩すなんて力はないだろう。更に生き残っていることが災いして、後ろの敵の邪魔にまでなっている。この内に体勢を整えさせてもらおうか!




