第73話 想っちゃった(故郷を)
姉達と兵士さんが大量に敵を殲滅したおかげで死屍累々だ。四百体もの数の死体を処理する時間はないので打ち捨てていくらしい。この世界が死体を放置することでアンデッドが出来るようなダークファンタジーじゃなくて良かった。魂とかは俺の存在が証明する通り「有る」っぽいけどゴースト系とかゾンビみたいなのは居ないっぽい。
が、なんか引っかかるな⋯⋯そもそもなんでこんな数が?魔物は大概システムに定められたような習性しか持ってないみたいなんだけどな。ってか戦闘中常に翼が出てたな、もしやクリス経由で魔力供給して魔素変換が機能してた?これじゃ身体強化での移動中とか見られたら駄目じゃん⋯⋯。
魔物が街道を襲撃するのはよくある。森で出くわすのも、巣の周辺の敵を襲う一環でよくある。だけど街道を集団で占拠しての待ち伏せ?大体、ダンジョンが溢れて数が増えたとしてもそんな行動するか?クソ、情報が足りない。数匹生かしたまま捕縛してもらえばよかったな。応援のせいで理性が蒸発してたから言っても聞かなかっただろうし、それも俺のせいなんだけど。
待ち伏せされてた数からしておかしい。通常で考えれば兵数差二十倍なんて鎧袖一触どころではない。立ち所に飲み込まれて終わるだろう。どうしてあそこに居たのか⋯⋯さっきまで居た開拓村を壊滅させた奴らの残りではないよなぁ、それだったら俺の暴走を聞きつけてもっと早く襲ってきてるはずだ。んんー、よく分からんね。ひとまず先送りか。
そんな事を考えつつ、応援の効果が切れて体にかかっていた負荷が襲ってきたのか、急にぐったりし始めた皆と一緒に交易都市まで戻ってきた。歩いて。彼らはおそらく一日は使い物になるまい⋯⋯こんな副作用があるなんて、土壇場で使うことになる前に知れてよかった。リミッターを外す感じなのかな?ホント自分の能力なのに分からないことが多い!取説どこ!?
「おお、お帰りになられましたか!⋯⋯どうされました?全員死んだような顔をしておるのですが」
遠方からも帰還してきたのが分かっていたのか、ディーロンさんが出迎えてくれた。
「おぉー⋯⋯ちょっとな。そこで戦闘があって皆疲労がマッハなんじゃ」
「なんですと!?負傷者は――居ませんな?装備の破損はありそうですが⋯⋯ってそれどころではないのです!グランディール王国で叛乱が起こりました!!」
「なっ、なんじゃとおおぉぉぉ!?」
「下手人は第一王子らしいのですが何分まだ幼く、裏で誰ぞが糸を引いているものかと思われます」
はぁっ?このてんやわんやの状況で、平和を守ったグランディールで叛乱?アホなの?いや、こっちと比べて俺達が未然に防いだから危機を認識できてなかったのか!?何にしてもタイミングが悪い⋯⋯!!
「そうか、それは由々しき事態じゃが、送ってくれているはずの戦力はどうなっておる!?」
「はっ、途中で半数が引き返し当初は一万だった兵数は五千に満たない数かと」
「なんということじゃ!タダでさえここで抑えねば次はあちらが餌場になるというのに!」
「それともう一つ。教会連中もこの叛乱に手を貸している、という情報がありまして」
「⋯⋯そういうことか、やってくれる」
「どういうことなのあーちゃん?」
教会?あいつらまたなんかやっちゃいました?
「グランディール王国の一部貴族と、そこにあるサンドリアル教会の癒着は以前から問題視されておった。裁判で罪を暴くアーティファクトをすり替えて殺人の隠蔽をしたり、無理矢理拐ってきた者を教会経由で洗脳してから奴隷にしたりなど、な。噂だけならいくらでもあるんじゃ。しかし少なくない献金で無視、あるいはもみ消されておったらしい⋯⋯。本来の役目である、民を導き心の安寧を齎す神の教えを説く代理人としては目に余るとして、我が国からは散々苦言を呈しておった。が、妾がグランディールに着いてからの妨害。それとこっちに戻るのに合わせての挑発的な行動。開拓村への無理な救助活動も、恐らくは我々が情報を掴んで引き返すのを恐れての時間稼ぎだったのじゃろう。宗教施設の総本山はこちらにある故、権威を失墜させるための間接的な攻撃としてな。こちらが壊滅すれば万々歳、次善としては叛乱が成功すればその手で潰すと言った所じゃろうな」
「えぇー!?それってこっちがもしも負けちゃった時、それを解決するための手立てとか考えてなの!?だったらその力を貸してくれればよかったのに!」
「そんなもんあるわけないじゃろ!あいつらの頭の中はお花畑じゃ!既得権益だけ守れれば自分の見てない所で人が死んでも何とも思わん奴らだからして、国の覇権を握った後適当に兵を出せば良いとでも思っとるんじゃろ」
アホしかいなかったかー、そっかー。そんな国守る意味あったのかな⋯⋯っていうかそんなところに務めてたティナはよく平気だったな、マジで尊敬する。そこまでアレだったから俺達をダシにしてでも改革を押し切ったってことか。遅かったし時期も悪かったみたいだけどさ。
「どうするの!?今からでも戻って貴族ぶっ飛ばして兵隊さん借りてこないとマズいんじゃない!?」
「そうしたいのは山々なんじゃが、妾はここを動けぬ⋯⋯というより行くことは出来ん。内政干渉になるでな。それに、仮にここから兵を出して反乱を鎮圧したとして、その間にここが落とされでもしたら全ては終わりじゃ」
「んぐっ⋯⋯あっちはエレノアがいるから大丈夫⋯⋯⋯だよね?」
姉達に聞いてみる。知り合いの貴族なんてエレノアとハインケルしか居ないけど、他にも味方がいるならそれでいい。でも、もしもその二人が頼れる人が王様くらいしかいないんだとしたら、戦力はとても不安なものになる。クリスが鍛えた近衛騎士団だってまだ実力不足みたいだし、彼らが動かせる兵隊だって半分しか戻してない。叛乱を起こした貴族共の兵力がどんなものかは分からないけど、勝てると踏んだから反旗を翻したのだろう。
「ああ、あいつならきっと大丈夫さ。一緒に戦ったからあいつの強さはよく分かる」
「そうね、いざとなったら孤児院の子供達だけでも守りながらこっちまで逃げてくるでしょ」
これ以上検問所でアレコレ言うのもなんだからって休憩のために用意してくれた部屋で休むことにした。でもちっとも気が休まらない。一緒に遊んだ孤児院の子達は大丈夫なんだろうか。ガレラ村の人達は遠いから巻き込まれてはないだろうけど、買い出しなんかで出てきてると危ないんじゃないか。
串焼き屋のおっちゃんとか、ギルドの人達とか、ディンや工場の人達に宿屋のタレおじさんは⋯⋯そんなことばかりが頭をぐるぐるしている。それと同時に、こんなにも心配になる人が多い事からやっぱりあの街が故郷なんだな、とも思う。
あーちゃんは少し休んでからすぐに会議とかで他の部屋に行った。今は久々に三人でまったり休憩中だ。
「体力は戻ったけどあの感覚は危ないな、突っ込むこと以外何も考えられなくなる」
「アリスちゃん、応援?ってやつ、どれくらいの強さで使ったの?」
「えーっと⋯⋯最大かな。ちょっと使い勝手がわかんなくて」
「頼むから正気を保てる程度の威力で使ってくれ。効果時間終了後の疲労感も凄いから」
「アッハイ」
まだどのレベルでそれらが回避できるか検証もできてないんだけど、応援は思ったより不評だったらしい。自分に効果がないから体感もできないけど、そんなに言うほどかなぁ?幼女だからちょっとわかんない。前回の戦闘の事を話しながらうとうとしていると、急に外が慌ただしくなって扉が乱暴に開けられる。そこにはあーちゃんが居た。
「大変じゃ!敵の大群が迫っておるぞ!とんでもない数でここを落とす腹積もりのようじゃ!!」
「なんだって!?」
「いよいよお仕事の時間ね!」
「い、嫌だぁ~⋯⋯」
俺達はいい感じに眠気が来ている頭を振り払い、夕焼けで空が紅くなった外へと飛び出した。兵士達がバタバタと走り回り戦闘準備を整えている。特定を使いつつ翼で高い所まで飛び上がった俺の目に入るのは、一面の亜人系魔物の群れ。一万や二万ではきかないくらいの見渡す限りの肉がひしめき合って、今まさにここへの襲撃をかけんとする光景だった。




