第72話 見られちゃった
とりあえず基本的なステータス上昇系と、被クリティカルを警戒してバフを盛ったけどそれだけでよかったなぁ。前線まで着いてきて分かったけど敵が文字通り蹴散らされてるわ。バフの各種神聖魔法がステータス二割増だとしたら、追加で入れた応援Lv5は精神の高揚に加えて肉体的な強度が倍くらいになってるっぽい。おまけに精神に作用する何某かを防御できるティナのローブの耐性を貫通してかかってるし、普段使う応援はLv1~3で十分だなこりゃ。
「うぉぉぉっ!」
「食らえぇっ!」
「次の獲物はどこだコラァァ!」
「あのデカブツは私のだー!」
しれっとバトルメイドさん達まで槍とか持ち出して戦ってるし。ティナはバーサク状態で魔法を使う事も忘れてしまったのか、杖を振り回して小型に分類されたゴブリン共をミンチに変えてて怖い。
クリスに至っては装備者の負荷を抑えるために改良されたパイルバンカーで4mくらいある巨人の頭を打ち抜きながら飛び回って移動してる。なんだこりゃたまげたなぁ。
あーちゃんは一番ヤバい。ミスリルの二個上であるアダマンタイト製という物騒な斧の刀身に溝を掘り、魔力を通すため液体化したミスリルを流し込んで固め魔法付与ができるように加工された一品。そんなものに火属性を付与して、一撃毎に爆炎を発生させるハンバーグ製造機になっちゃった。今夜は肉が食えそうにない。
あ、中ボスらしき個体がクリスに捕捉されて足をパイルバンカーで撃ち抜かれて跪いちゃった。そして空いてる方の手で腹にアッパー気味の掌打を叩き込んで?そのままゼロ距離で爆音で爆散させてる⋯⋯いつの間にそんな使い方を。ただでさえ近接の立ち回りすっげ上手いのに手の平から音速の衝撃波が出せるとか徒手空拳最強じゃん、さす姉。
それから小一時間もしないうちに敵が全滅したのか、皆していい顔で戻ってきた。被害ゼロ?まじですかぁ、戦力差二十倍でそんなことになっちゃうかぁ。ホントに俺が表に出てもいいんですかね⋯⋯。(遠い目)
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アリス達が戦闘に入るのと時を同じくして、目視はおろか特定が届かない距離から魔道具である遠見の筒(望遠鏡)を使い、その様子を注意深く観察する一つの影があった。普段は念入りに索敵をしていたクリスが、今回に限ってはアリスの応援という名の狂奔によってバーサーカーと成ってしまい、途中で特定を切り上げてしまったという事情はある。だが、それは確かに存在しこちらを観ていた。
(何なのだあれは⋯⋯向かわせた我が軍が手も足も出てないではないか。なんという連中だ)
彼の名は――名はまだない。便宜上「彼」と呼んでおく。彼は深い闇の底で生まれた。通常生まれてからしばらくして自我が芽生える物だが、彼は生まれたその瞬間から自分というものがあった。親はおらず、兄妹もおらず、周囲に生きる者は数えるほど。しかしどれも自分とは違うという本能があった。
彼はまず、自分の安全を確保することにした。周りの生物達は今のところ敵対はしていないが、この先襲われないという絶対はない。自分が生まれた場所であろう闇の更に奥、行き止まりであろう通路の最奥まで辿り着いた。
そこには重厚な扉があり、この中ならば害する者が来たとしても籠城くらいならば出来るだろうと考え重く大きい扉を開き、中に入る。しかし、それは甘かった。中には先客が⋯⋯植物に擬態した何かが居た。お互いを認識しあった瞬間、彼にとって初めてとなる殺し合いが始まるが、幕切れは呆気なかった。
彼は強すぎたのだ。腕を振るえば敵の触腕が千切れ、脚を蹴り出せば胴体が凹み、苦し紛れに掴み掛かって来た相手を逆に抑え込んでそのまま絞め殺した。短い生の中で初となるコロシを実感した彼は吠えた。その咆哮はこの闇の中で、これまで君臨していた者を殺害し、成り代わった自負に満ちていた。本能が訴えていたのだ。もうここに敵は居ないと――。
そうなってからは早かった。手中に収めた場所の安全を確保するため、逆に侵攻を仕掛けたのだ。目に付くものを片っ端から仕留め、喰らい、自分のものにしていった。その中で度々自分とは違うモノが居ることに気がついた。奴らは武装していた。剣で。槍で。時には杖でナニかを飛ばして攻撃してきた。
しかしそれらも彼には通用しなかった。それを殺し、いつものように喰らい、彼は考える。これは自分⋯⋯いや、自分達とは違う生き物だと。姿形は千差万別だが、やってくることは大体同じ。切るか突くか飛ばしてくるか。複数人が固まって行動し、連携が取れた攻撃をしてくることもある。これは闇に居る生き物には無い行動だ。もしや、どこからかやってきているのでは?
そう結論を付けた彼は更に情報を得るため、数体を殺さぬよう確保して巣に持ち帰ることにした。そこで奴らの装備を剥ぎ取って観察をすると、更に大きく二種類に分別することが出来た。オスとメスだ。本能でメスを孕ませられると理解した彼は、オスは殺して食料にし、メスは持ち帰り、奴らと同じ様に連携して攻撃するために数を増やすことにした。
メスを犯して二日もすれば新たな駒が生まれる。その駒がまた犯し、戦力は急速に拡大していった。それらを繰り返し、用意した言う事を聞く駒は凡そ数千。僅か数週間で人知れず闇を制圧した彼は打って出ることにした。そうして、その闇は溢れることになる――。
地上に出てからは全てが新鮮だった。彼らは視界に入るモノを片っ端から破壊し、殺し、犯し、喰らい、全てを蹂躙した。そのために生まれたのだ、それ以外には出来ない。やがてそこに何も無くなると、次へ向かった。群れが飢える前に。衝動が抑えきれなくなる前に。幸い多少の距離を移動するだけで奴らの拠点が次々と見つかり、全ては彼らの腹に収まっていった。
しかし、部下からの報告で赴いた場所で、次の獲物を遠くから観察した彼は驚愕することになる。それは、奴らの形をした何か。地上に出てからよく見かけた幼体に似ているが、決して同じではない。内包された力の質が全く違う。周りに居る連中も今まで屠ってきた相手とは桁違いなのだ、と。
彼は観察しながら思考を巡らせる。自分が確認するための足止め――大体はそれで相手が全滅してしまうが――で用意した駒達がなんの痛痒も与えられずに殺されていく。アレに勝つのは今までのように易しくは無い。しかし、奴らを捕らえられればもはやここにも敵は居ないと証明できる。アレらを喰らった時に得られる力はどれ程の物か。産ませた駒の強さは――。
ほくそ笑み、敵に気づかれぬよう彼は拠点にしている闇に繋がる門がある場所へと戻っていった。次の獲物を確保するために。今まで溜め込んだ力の全てを結集して、蹂躙するために。ゴブリンエンペラーは号令をかけた。ここに産まれてから確保した戦力、凡そ十万。その全てに。総侵攻を開始せよ、と。




