第70話 ごちそうしちゃった
「それじゃあちゃんと表で働いてくれてる人達にごめんなさいしなきゃね」
「うん⋯⋯」
諸々の話し合いが終わったので次にやることと言えば、ということで俺は決意を固めた。今は女王様が作業中の皆を一旦集めて整列させてくれてるらしい。道中の会話で気の良い人達ってのは分かってるけど、やらかし具合と幼女のイメージの損壊が甚だしいからどうなるか全く分からん。端的に言ってこわい。
「整列したぞー、早くくるのじゃー」
逃げ道はない。しかし、しばらくは言うことをちゃんと聞くという縛りを自ら入れたので向き合うしか無い。誠心誠意謝って許してくれるかどうか。もしも駄目だったら、その時は枕営業をする幼女で行こう。こんなツルペタロリに需要なんてあるか分からないけど、最悪エレノア辺りに侍って稼ぐか⋯⋯。
玄関の扉を開ける。女王様の前に二十数人からの兵士さんが並んでる。その横にお世話係のバトルメイドさんも数人。一斉に俺を見てきて圧がヤバい。バケモノを見るような目じゃないのが救いか、どういう感情が籠った視線なのか分からないけど悪い物ではないみたいだ。
それなりの数の視線を感じながら皆の前に立つ女王様の横に並び立つ。
「皆の者、手を止めて集まってもらってすまなんだ。先の通り我々は女神様の降臨を目にし、世界が置かれている現状という物を直接知識として授けてもらった。今までは名が知られると様々な障害になると考え、表に出ぬよう活動しておった御使い様がこちらのアリスちゃんじゃ。皆も知っての通り、その御家族の方々と共に同じ困難に立たされたグランディール王国のダンジョンを制圧し、一挙に解決したという華々しい前歴もある。よって今回、妾が手ずから説得し此度の騒動の収束のために御出頂いた。長々と話してしまったが、本人からも一言頂きたく思う。それではアリスちゃん、どうぞなのじゃ」
校長先生みたいな長い話だった。そこに俺が紹介されても何話していいかわっかんねぇ⋯⋯やはり一番は謝ることだな。さっきの一件は下手こいたら本気で危なかったし、最低でもこの村ごと吹き飛ぶレベルだったって聞いた。だから俺が今言えるのは⋯。
「ご紹介頂いたアリスです。皆さん、まずは⋯⋯ごめんなさい」
開口一番の謝罪にどよどよと驚きの声が上がっている。そりゃそうだ、校長先生の次に出てきた国会議員みたいな立場の人がいきなり頭を下げたら誰でもそうなる。
「先程はお騒がせして本当に申し訳ありませんでした。あたしは記憶があんまりないんです。別の世界の常識とか知識はあるけど、生まれや育ちのことになるとサッパリで、それが戻った結果ああなったみたいなんです。救おうとした世界を破滅に導くなんて、あたしは絶対にやりたくありません。だから、次に同じ事があった時はあたしを殺してでも止めてください。恐らく女神様はそれで次の手を打ってくれるでしょう。この世界を、家族を滅ぼしてまで記憶を取り戻したいとも今は思いません。だからどうか――」
「何言ってんだー!次も姉ちゃんが止めてくれるだろー!」
「そうだ!俺達も協力してやるぞー!」
「大体こんな子供に世界を任せるなんて男のやることじゃねえ!」
「女だってそうよ!ここに生きる一員として見てるだけは嫌だわ!」
野次とも言えない声が次々と上がってくる。やっぱりいい人達ばっかりじゃないか⋯⋯。涙が出そうだけど、泣いてはいけないこの体が恨めしくなってくる。でも、今はこの体で良かったとも思う。家族と出会えて、色んな人と出会って、少し話しただけなのにこんなに心配してくれる人達とも出会えたのだから。
「ありがとうございます」
誠心誠意心を込めて笑って返事をする。
「「「「「ウ”ッ」」」」」
―――その日、幼女親衛隊が発足された。
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その日は作業が長引くとのことで一日村に泊まって明朝出発することになった。月が輝く晩に、女神が滞在した家屋の一室で渦中の人物達が作業をしながら会話をしている。
「それでいいんだな?もう後戻りは出来なくなるぞ」
「うん、たぶんこうするのが正解だと思う。死の森とか、ダンジョンとか、この国とか、全部をなんとかするにはこれが一番だよ」
「そうね、私達だけの特別感が無くなるのは残念だけどそうも言ってられないわよね~」
「あの人達が何か悪い事をしたら止められなくなっちゃうけど⋯⋯」
「それは心配せんでもよい、妾が責任を持って管理しよう。ここに居る全ての人材は妾の直轄として誰にも利用されんようにな」
「ありがとう、女王様」
「硬いな、あーちゃんとでも呼んでおくれ。幼少期はそう渾名を着けられておった」
「わかった、あーちゃん!」
アリスは大量の米を素手で研いでいた。
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次の日の朝、兵士達は早くに起きて出発の準備、メイド達は朝食の用意をしていた。そこへアールランドがやってきて、よく通る声で指示を飛ばす。
「皆の者、朝も早くからご苦労!日も昇ってすぐで悪いが聞いて欲しい。御使い様から下賜品がある、朝食の一品として追加しておくので、慌てずに必ず一人一個食べるように!以上!」
話を聞いた兵士達は俄に騒ぎ始める。
「下賜品だってよ⋯⋯なんだろうな?」
「そりゃあ酒だろ。教会の連中、神の血だーなんて言って年がら年中ワインばっか飲んでるしな」
「バッカ朝から飲ませてくれる訳ないだろ。肉じゃねえか?」
「ただの肉かぁ?有難みはそんなにないなぁ」
朝食の準備が終わり、一般の兵士達の元にも配膳されて食事が用意されたが、誰一人として見た覚えがない食材が一つだけあった。
「なんだこれ?白い塊?」
「匂いは微かにするけど悪くはないな」
「誰か食ってみろよ」
「じゃ、じゃあ俺が」
見たこともない物を前に手を付けずに居た兵士達の中で、一人が意を決して口にそれを運ぶ。すると――
「うおっ!?妖精が⋯⋯?な、なんだこれ!美味い!いや、魔力が!?」
我を忘れてそれを頬張る一人の兵士を興味深く観察する者達。様子はおかしいが、どうやら害はなさそうだと、一人また一人と口に運んでいく。
「塩味がほのかについてて美味い!」
「力が湧き上がる⋯⋯」
「妖精が一緒に食ってるんだけど皆そうなのか?」
アリスお手製の塩おにぎりがその場に居る全員に振る舞われ、ゴブリンエンペラーとの決戦に向けて幼女親衛隊の戦力の大幅な引き上げが行われた。
その後、当事者の一人が語る「奇跡のおにぎり」の話は多くの人に伝わり、
この世界の米食の向上に一役買ったとか、なんとか。




