第69話 生えちゃった
「ちょっ、どうしたのアリスちゃん!?頭を上げて!誰も怒ってなんかないから!」
「いや、だってもう!アレとかコレとかソレとか色々謝ることがいっぱいあって!」
何から謝るか頭の中でも整理がつかないのでとりあえず土下座をしておいた。一拍置いた事で少し落ち着いた頭で整理をすると⋯まず、保護者が離れたとはいえ迂闊に出歩いたこと。これが一番の要因だ。好奇心は猫をも殺すとはよく言ったもので、幼児になったからって意識を引っ張られすぎた。前世で躾不足の末に制御できないからって子供にハーネスまで着けてた親御さんを悪くは言えない⋯⋯今の俺がそうされても文句が言えないのだから⋯⋯。
「何を必死に謝ってるか知らないけど、お前に非はない⋯⋯とは言えないが、目を離した私達にも責任問題ってのがある。言うなれば監督不行届って奴だな」
庇ってくれてる⋯のか?いや、クリスは優しいから立場的にこうなった原因の一端は自分にもあるって遠回しに言ってくれてるだけだ。つまり本質的には俺がやらかさなければ起きなかったってことでもある。⋯⋯自己嫌悪で嫌になる。世の中のお子さんの不始末で親がケツ持ってくれるのは当たり前っちゃ当たり前なんだけど、この歳でそれをやられるのはなぁ⋯⋯心に来る。
「で、でもっ!結果的に世界が滅ぶかどうかってことになっちゃって!それで怪我した人もでちゃったみたいだし、お姉ちゃんに、まで⋯⋯ふぐぅ」
あかん、泣く。っていうか声を押し殺してるだけで既に涙は出てる。土下座したままだから泣き顔を見るだけで発動する視覚経由の魅了が封じられてるのが幸いか。今まで自分の意思で攻撃したのが、ゴブリンとボススライムと人攫いクソ野郎くらいしか居なかったせいで、不可抗力とはいえど起こしてしまった暴力沙汰に幼女の精神が耐えきれてない。しかも最愛の家族にまで被害が及ぶなんて、周りが安全な環境なら家出してる所だ。それをやるとさらに迷惑をかけちゃうからやる訳にはいかないけども⋯⋯。
『そこはまぁ私の方で説明をしておいたから大丈夫よ。世界を救うために協力してくれてる彼女が失われた場合、それは終わりも意味する。遅いか早いかの違いでしか無い。ダンジョンを安定化出来ないまま放置してると、私が戻れずに魔素が濃くなりすぎて死の森がガンガン増殖するようになるから詰むってね。そもそもあっちの神に貸してもらった少ないリソースを使って急ぎで創った身体とはいえ、容易に突破されるような精神防壁しか用意できなかった私にも責任があるし~?』
「そ、それは⋯⋯」
その様な裏事情が。いや、妙な神事情なんて話されても次元が違いすぎてどうでもいいとすら思ってるけど。っていうか放置したら死の森もヤバいって言った今?⋯まぁ考えるとそうか、ダンジョンから溢れてきた魔物を抑えきれなかった時点で人類の生存圏が無くなる。つまりは伐採してた森も人足が消えて生え放題ボーボーで強い奴らが跋扈するってことだし、ホントに遅かれ早かれか。しかも遠い未来とかそういうのじゃなくて、割と数年以内とかで起こる話なのがまた。
「いつまでうじうじ言っとるんじゃ、神様まで赦してくれとるんじゃぞ?シャンとせい!どうしても謝りたいなら表の兵士達の前で一言言うくらいで構わん!」
この人達優しすぎんか⋯?しばらく何されても無抵抗のされるがままにでもなっておこう。
「ほら、そろそろ立って、椅子に座りましょうね~」
「ズビッ、うん」
鼻を啜りながら顔を上げると、姉の懐から「ボッ」と音がした。
「うわっ!?護符が一枚燃え尽きた!!」
「やっぱりアリスちゃんの魅了は恐ろしく強力ね、普通は黒ずんで使えなくなるくらいなんだけど⋯⋯っってノールジュ様はともかくアールランド様は大丈夫だったんですか?」
「無論。毒と精神耐性装備は王族の嗜みじゃ」
服を捲りながら腕輪と首飾りを自慢げに見せてくる女王様。それと同時に懐からハンカチを出して俺の顔を拭いてくれた。
「全く、こんなに泣き腫らしおって。親譲り⋯神譲り?の顔が台無しじゃぞ?」
「ありがと⋯⋯ございます」
「うむうむ!それでよい!」
なんだ?この親とも姉とも違う抱擁感は。⋯⋯まるでおばあちゃんだな、本人の前で言うと絶対キレるから言わんとこ。そしてそのまま着席を促されて、五人ともが椅子に座って話をすることになった。
『まずアリスちゃんには先に謝っておくわ。ごめんなさい』
「え!?なんで!?」
なぜか謝罪された。
『あなたの暴走を止める時にねー、ちょっと体を上位存在に換えちゃって⋯⋯』
「なん⋯⋯え?そっ⋯⋯⋯それは、つまり?」
『詳しくは鑑定して貰った方が早いけど、とりあえずなんか魔法使ってみ?』
どういうこった⋯⋯意味が分からんが特定でも使ってみるか。
「―――!?」
なんか背中がもさっとした。
解除する。消えた。もう一回使う。
⋯⋯⋯また背中がもさっとした。皆俺の背中に注目してるし、どうなってるんだ?
「な、な、なんじゃこりゃあああああ!!??」
首を回して肩越しに背面を見ると白いふわふわの羽が見えるんだが?やたらキラキラしたエフェクトが散ってるし、ネトゲの課金した背中装備みたいなことになっとるんだが?
『それね、器の限界以上に魔力が溜まらないように翼から過剰分を放出するようになってるから。記憶に関しても封印を強固にしたから、さっきみたいに見ちゃう系だと視界がボヤケてそのうち意識が落ちるようになったわよ!』
親指をグッと立ててくる女神さま。いや、うーん⋯⋯やらかした俺に文句を言う権利なんかないからいいんだけど、これ街中で使うとヤバいのでは?また信者獲得案件だろ、どう考えても。しかも前みたいに俺の行動如何で得られるんじゃなくて、見ただけで「あ、天使だ!」ってなりそうなとこがヤバい。もう人格が歪むのは嫌じゃぁ⋯⋯。
「おぉー、さっき止めた時は見る時間があんまりなかったけど、凄く可愛いなぁ!」
「ホントホント!元から真っ白なのに羽まで白いなんてこりゃもうエレノアには見せらんないわ!」
「え、えへへ⋯⋯そんなにかなぁ?」
ちょっと嬉しい。あれ?前はそんな事言われてもなんとも無かったのにまた幼女化が進んだか。こわ。
「うむ、この状態が維持出来るならこれからの広告塔としても役立ちそうじゃの」
「うん。⋯うん?」
どういうこと?
「さっきもノールジュ様と話しておったんじゃが、アリスちゃんの存在を知られすぎた。妾の御付き数十名を一気に全員口封じはできぬし、やった所で怪しまれてしまう。兵士に箝口令を敷いたとしても、メイド何ぞの口は驚くほど軽いからな。無駄に死人が出るだけじゃ。よって表に出すことになったんじゃ」
どういうこと?
「そんな大口開けてほけっとするでない。それはそれで愛いのじゃが⋯⋯つまりな?この先の戦でお主を全面的に押し出して戦女神の様な立ち位置でプロデュースするのじゃ!」
「ほえぇー」
「ほえーて。一応は戦意高揚と士気向上の副次効果もあるんじゃぞ。それに、大々的にアリスちゃんが世のため人のため天より遣わされたと認知されれば今回の事もいずれ風化しよう。むしろ女神降臨の聖地として復興もアリじゃな」
えーっと。簡単に言えばアイドルやれってこと?
「まぁよくわかんないけど、それでいいなら任せるよ?」
『色々とこっちにも有利な事があるしお願いね。⋯⋯そろそろ時間切れみたい。せっかく貯めた三か月分のバイト代が一瞬で溶けちゃったわー』
「バイト」
『うん。あっちの神様の手伝いをね。あ、最後にその体の使い方だけど(ボショボショ)⋯⋯じゃ、またねー』
耳打ちで大雑把な新仕様を話してからフリフリと手を揺らしたかと思うとノールジュの姿が掻き消えた。っつーか神がバイトて⋯⋯神様の世界も世知辛いのじゃー。でも今回は女神様にもかなり迷惑かけたし、しばらく言われたことを黙ってやるとするか。枕営業以外で。




