第68話 謝っちゃった ※挿絵あり
あれから数時間程経って、ようやく目覚めた二人は仲間達の元へと戻った。
「起きたのね二人共、体の調子はどう?目に見える傷は全て治ってるはずだけど」
「ん?ああ、耳もちゃんと聞こえるし、特に問題はないよ。私はな⋯⋯」
クリスは少々言い辛そうに口籠っている。その目線はアリスに注がれていて、場に居た者達は何があったのかと身構えているが――。
「みんなおはよ~!あ、ママだ!ママ~!」
ぱたぱたと可愛らしい足音を立ててノールジュに走り寄るアリス。それを見た先に部屋に居た二人と一柱は何事かと目を見張る。すわ、この子の心までは癒せなかったのかと一瞬場を重い空気が包むが、当の本人の振る舞いでその空気が霧散していった。
「ママ、ぎゅー!」
正気を失っているアリスがノールジュが椅子に座っている所へ飛び乗り、先程と同じ身体全部を使ったスキンシップが始まった。
『あら~、おはよう。随分と積極的になったわねぇ、今度こそ持って帰ろうかしら』
「やめてください。⋯⋯見ての通りなんだ、アリスの様子がちょっとな。いや、可愛いのはいいんだけどなにかおかしいんだ」
「確かに⋯?積極的過ぎるわね。いつもは消極的というか引っ込み思案で、気付いたら甘えてきてる感じだし、ここまでじゃなかったわね。ノールジュ様、どういうことなんですか?」
付き合いの長いクリスとティナが絶賛甘えられている生みの親に現状の説明を要求した。聞かれた本人はまんざらでもないと言った感じで、アリスの頭を撫でながら答える。
『ん~、これはそうねぇ。本来の人格が深層意識に閉じこもってるみたいね。その代わりに、こっちに来てから後付で備わった人格が出てきちゃってる感じ?』
「えっ!?そ、それは大丈夫な事なんですか⋯⋯?私、精神的な治療は専門外でして」
ティナが狼狽えながら問いかける。水魔法には心を落ち着ける為の呪文も存在するが、周りが強い心の持ち主ばかりだったため、彼女はそれを習得していない。姉妹の二人は、故郷の村を襲った悲劇や、長年の鍛錬により培った鋼の心でどうにかやって行けている。
心の治療は目に見えた成果が上がりにくいので、この世界では軽視されている部分もあるが、怪我の治療と違って魔法一回では治らないケースが殆どなため、完治までの治療費が割高で、困窮している者達は手を出せないので需要が少ないという事情もある。
『別に死にはしないけど、今は周りの人達に「そうあってほしい」と願われた人格が表に出てるわね。前にアリスちゃんにも言ったんだけど、神格化が進んできたおかげで人の願いを受け入れやすい体質に人格ごと変化してきてんのよね』
「そうあってほしい?私達二人はありのままのアリスを愛してるから大丈夫だと思うんですけど⋯⋯ここまで幼児化するように願った奴が居るってことですか?」
姉達二人は目を見合わせながら考える。アールランドも思案しているが、答えは出ない。この世界で最初から接していた二人は、既に妹に対して自分達なりの答えを出して関わっている。アールランドは最近知り合ったが神の子が相手としての態度なので、こんなにただの子供然とした人格形成はされないだろうと考えた。
『いるいる、普段は抑えつけてるけど耐え難い欲求に塗れた奴よ!』
「⋯⋯なるほどね、最近知り合った中でダントツの奴がいたわ」
「へ?一体誰なん⋯⋯あいつかぁ~!!」
二人の頭に思い浮かんだ一人の女性。それは黒髪で、両刃剣を舞うように操り戦うグランディール王国第二王女、エレオノーラその人であった。
「エレオノーラかぁ、そういや私達に抱きついてきてるアリスをすっげぇ物欲しそうに見てたっけなぁ~!」
「なんじゃと?かの王女がその様な性癖を持っておったのか、これは強請るネタになりうる⋯か?」
「そんなしょーもないことで資金確保しようとしないでください。で、ノールジュ様。これって治るんですか?」
一気に体の力が抜けて行く三人。その原因にいち早く気付いたティナが素早く気を取り直して再び聞き直した。
『私の被造物だからチョチョイのチョイよ。すぐ直す?』
「「お願いします!」」
『はいはーい、っと。じゃあアリスちゃんこっち向いてね~』
そう言ってノールジュは太腿の上に乗ったアリスを抱きかかえて背中を向けさせた。そして、頭に両手の指を這わせて何かを探り始めた。
『ここを、こうして⋯⋯あれ?こっちだっけ』
「あっ♥あっ♥んあ”ぁっ♥」
アリスはヘッドスパワイヤーで頭をシゴかれている様なアヘ顔をキメていた。
「うおぉっ、これ見ていい奴なのか?」
「わ、わかんないけど⋯⋯普段見られない顔なことは確かね⋯⋯」
「お金は払ったほうが良さそうじゃのー」
『こうして多幸感を与えたげた方が気が緩んで掴みやすくなんのよ。そろそろ終わるから⋯⋯最後は、シュッと』
「う”っ!」
その瞬間、ベレー帽を被った人じゃないと見逃しちゃう速度の手刀がアリスの首に叩き込まれた。それを受けた本人は「ぱたり」と机に突っ伏して再び気を失ってしまう。なお、他の三人は強化済みなので辛うじて目で追えたのは余談である。
「アリスー!」
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「う、うぅ⋯⋯?」
く、首がいてぇ~!一体何事だこれ、寝違えたか?なんか机で寝てたみたいだし訳分からん⋯。
『お、気がついた。大丈夫~?』
「あれぇ?なんでママがここにいるの?」
頭がハッキリしない。今日何日だっけ、っていうか何してたんだっけ?
「おぉ、私が分かるか!?」
「お姉ちゃん⋯?どしたの?」
「よかったー、あのだらしない顔でホントに直るか不安だったのよ~」
「えぇ⋯⋯?」
だらしない顔⋯?直る?言ってる意味が分からん。分からんが⋯⋯えー、と?確かクソ教会の奴らを追って、交易都市まで来て、なんやかんや開拓村に着いて。⋯⋯そうだ、めちゃくちゃ迷惑かけたじゃん俺。よく思い出せないけど何かのはずみで記憶が戻った?みたいで暴走したんだ。その記憶はある。
「アリスちゃん?どうしたんじゃ?」
あぁぁぁぁどうしよう、どうすれば!?謝って済む問題なのかこれ!?俺のせいで世界滅亡待ったなしな状況だったじゃん!血の気が引くって表現がピッタリ合うくらい頭が真っ白になっていく。いや、そんな客観的に自分を分析してる場合じゃない!とりあえず、やるか。
「すいませんでしたぁぁぁ!!!」
俺はノールジュの膝から飛び降りて、過去に見た身内に習ってとても綺麗な土下座を敢行した。




