第66話 死の歌(2)
この時のアリスちゃんはバイオ7ラストのエヴリンのようなアレ
『それじゃ、あの子を止めるための方法を伝えるわ。まぁそんなに大それた物じゃないんだけどね』
ノールジュが私の目を見ながら語りかける。他の兵士達も気を引き締めて見ているが、具体的にどうすれば止められるのか教えてくれる女神を見て少なからず安堵はしているようだ。
『今から貴女に記憶を再封印するための術式を撃ち込むから、その状態でアリスちゃんに物理的に接触してくれればいいわ。他の人は恐らく何も出来ないだろうけど、邪魔はしないように!行動開始!』
「ッ!!」
号令が飛ぶのと同時に私の中に解析不能な何かが流れ込んでくる。恐らくこれが再封印の術式なのだろう。ノールジュを見ると顎で妹の方向を指しているからもう行って良いということか。妹を救うために走り出して、再び発生し始めた衝撃波に体を貫かれてたじろぐ。
それでも必死に前に進むが、定期的にズンズンと体の芯を揺さぶる様な痛みに顔が歪んでいく。後ろを見ると、同じように妹を救う一助になるためティナやアールランド様達が近づこうとしているが、全く進めていないようだ。
『あの子、クリスって言ったっけ?アリスちゃんの契約者以外は接近できないだろうからやめておいたほうがいいわ。下手に頑張ると死ぬわよ』
ノールジュから警告が飛んでくる。私以外では無理とはどういう意味なのか、よく分からないが私にだけは出来るという事は理解出来たのでそれを確認するように一歩一歩進んでいく。
「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!」
「ぐっ!?」
あと数mと言った所で、これまでとは比にならないほどの強さの衝撃が体を襲った。近づくものを拒むかのような一撃に足が浮きそうになるが、剣を二本とも抜いてそれぞれ両手で地面に突き刺して耐える。再び前に進めるようになったその時、妹の口から血が吐き出されて、体にも罅が入って赤いものが流れていくのが見えた。
『これは⋯⋯そう。本当に優しいわね。でもそれじゃ体が砕ける。だから――生命変換!』
優しい光がアリスを包み込んで体に吸収されていく。その輝きが収まると、アリスの背中から二枚一対の白い翼が出現した。
「今のは!?」
『これで少しは力が弱まったはずよ!でも時間が経つとまた繰り返しになるから急いで!』
「⋯⋯どりゃあああああ!!!」
ノールジュが補助をしてくれてから確かに衝撃波は弱くなり、アリスの体から流れる血も少し減ったように見える。チャンスは今しか無いというのなら、出し惜しみをしている場合ではない。地面から剣を引き抜く為の力も時間も無駄と切り捨てて、収納から今回の救援のために買っておいた武器を取り出し次々と地面に突き刺しながら、それを手繰り寄せるように歩を進めていく。
あと三歩。近づくにつれて再びアリスから放たれる衝撃波が強まっていくのが分かる。
あと二歩。鼓膜が破れてしまったのか、轟音も妹の叫びも聞こえなくなってしまった。
あと一歩。手を伸ばせば触れられる距離なのに、地面に突きたてた剣を離した瞬間に吹き飛ばされてしまいそうで、それは叶わない。
最後に手を伸ばす為に屈んで、剣で自分の太腿を貫き体を地面に縫い付けて、ようやくこの手に妹を抱きしめることが出来た。
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「止まっ⋯⋯⋯た?」
兵士の一人が発した言葉で、ここに居る全員が現状を理解していく。それまで辺りを占めていた衝撃波による破壊音とアリスちゃんの叫び声が収まり、静寂が場を包んでいた。
「クリス!アリスちゃん!」
家族の安否が気になるのだろう、ティナ殿がいち早く走り寄ってありったけの回復魔法をかけている。今は二人共気を失っているように見えるが、世界が滅んでいないのでとりあえずは一安心、と言った所だろう。
「ノールジュ様、先程のは⋯⋯あの子に何が起こったと言うのですか?」
ここに居る中で最も位が高く――神を除いた人の身としてのだが――発言が許されているであろう自分が、率先して事態の釈明を求める。
『んん⋯⋯あの子、アリスちゃんね。貴女は知ってるだろうから端折るけど、記憶を封じてこっちに送り込んで色々手伝って貰ってたのよねー。その記憶の一部が前世で死んだ原因とも言える私が呼ばれた儀式の内容なんだけど、あの子は伴侶の中に宿った自分の子供を目の前で引き摺り出されて殺されてるのよ。その後で自分の心臓も抉り出されて死んだわ。そんなの思い出したら誰でも死にたくなるでしょ』
改めて聞くと、記憶が蘇った要因である遺体を見て、その凄惨な光景が目に浮かぶようで遣る瀬無い気持ちが心に溜まっていく。普段から元気に走り回っている神の子がそこまでの境遇を経験したのかと思うと自分の無力さが歯痒い。
二人の治療が終わったようだが、まだ意識を取り戻していないようで担架で無事な民家に運ばれていく。それを見送って戻ってきたティナ殿も加わって話を聞くことにした。
「それで、あの中でクリスだけが動けた理由というのは?」
『それはね、魔力や魔素がこの辺り一帯、当然あなた達からも吸収されていたからよ。魔法が一切使えない状態で、身体強化すらも発動出来ない中でアリスちゃんに近づけないでしょう?』
確かにさっきまでは体が妙に怠く力を奪われたような感覚だった。息子からの提言で少数の御付きと護衛だけでここまで来たが、本来の数百人単位だった場合それらからも吸われて死の歌の発動が早まったことだろう。そう考えると寒気がする。
『でもクリスだけは違う。アリスちゃんと直接契約してる関係上、彼女だけは妖精であるアリスちゃんと魔力を循環してるから吸われても直ぐに回復するってことよ。なんなら周りから集めてた分いつもより大きい力が使えたんじゃないかしらね』
「なるほど⋯⋯では、最後の翼が生えてきたのは一体何なんですか?」
相手が神だというのに気後れ無く疑問をぶつけていくティナ殿の姿が少し、いやかなり大きく見える。まだ出会って幾分も経ってないからだろうか、ここ最近起こっている話の大きさに少々目眩がしてくる思いだ。だが彼女達と一緒に居る以上避けられない問題なので慣れなければ⋯⋯。
『アレが一番の問題よねぇー。蘇った記憶に押し潰されないくらいはこっちに思い入れがあったのか、最後の抵抗なのかしらね?死の歌が放たれるのを限界以上に我慢して時間を作ってくれたみたいなのよ。でもその結果として器が壊れそうになった。あのまま放置しても最悪の結果にはならずに、この村が吹き飛ぶくらいの被害には抑えられてたんじゃないかしらね』
「それでもあの子が死んだら⋯⋯」
「そ、そうです!我らの様な人の命なぞ比べるまでも無く!」
そうだ。今回の騒動の解決や、この御方が帰ってくる為の御使いとしてアリスちゃんはここに居る。それがここで失われるというのは、自分達のような代えが効く人間とは比べ物にならない損失ではないのか。そう理解してしまい空恐ろしい思いになる。
『だからちょっと身体弄っちゃった!めんご!』
「「はい?」」
急に女神様の気配が変わった。今までの威厳がある様な喋り方では無くその辺にいる町娘や遊女のような。こう言っては何だが少々頭が悪そうな話し方に一抹の不安を覚える。もしかしたらこっちが素なのだろうか?
『さっき使った生命変換ね、アレでアリスちゃんの位を上げて身体の耐久力を上げるのと同時に力をかなり消費させたって感じ。それでも数秒もすればまた吸収されて力が戻っちゃうんだけどね!いやー、一か八かだったけどなんとかなって良かった良かった』
行動の結果に満足しているのか、美しいと言うだけでは表現し切れない顔でウンウンと頷いている。やはりこれが本来の性格なのだろう、親しみを覚えるが同時に女神のイメージが崩れていく⋯⋯。




