第63話 怒っちゃった
姉二人が頭や顔を両手で抱えながら悶えているのをゲラゲラ笑って見ていたら女王様が帰ってきた。
「⋯何やっとるんじゃお主ら」
「あひゃひゃひゃひゃうん?おかえりぃィヒヒヒ!」
「まぁええわい。出立は三日後に決まったからの、準備しとくんじゃぞ」
「はぁーい⋯⋯フフッ」
「「うわああああ!!」」
結構長い時間会議してたみたいだけどこっちが爆笑してる間に色々決まったみたいだな。これから三日でどれだけ準備できるか、何を想定するかで今後が大きく変わる。まぁ国が動いてるんだから俺達が出来ることはボスの討伐くらいだしそこまで考えなくて良いかも知れないが。
ちなみに女王様も戦うからって模擬戦チックな物を見せてもらった。あのナリで大斧使うなんて予想外だよね。昔はダンジョンボスをぶっ殺しまくって良質な薬のドロップ狙ってブイブイ言わせてたらしいし、人は見かけによらない。
その大斧には魔法付与で重量操作が施されているらしく、最近は衰えもあって軽くする一方だったのが、おにぎり魔力強化によって昔よりも重くした状態でブン回せるようになったとか、なんとか。ぅゎょぅι゛ょっょぃ。ババアだけど。
そして、二日後。
「なーにやってんだあいつらは!」
「結局こうなったか。妾の説得も、国が歩調を合わせて出撃を早めても無意味。つける薬もないのう」
教会関係者が信者を多数伴って、エルフ国方面への検問を通過したとの報告があった。正確には通過したんじゃなくて無理矢理突破したらしいのだが。それを止めるために俺達だけ一日早めに出ることになった。こっちの準備も半端にさせるとか嫌がらせの腕だけは一流だな?
とりあえず姉達の装備の調整は一ヶ月の間で終わってるし、食料もあるだけ買って収納に放り込んである。激戦が予想されるので(俺の)主食の米と塩分を取るための味噌や醤油に、砂糖、胡椒等の嗜好品もそれなりに。後は炊き出しで便利な干し肉と保存が効く根菜類を多めに用意した。公爵家が先んじて支援部隊を送っているらしいが現状はどうなっているか⋯⋯。ちなみにエレノアはお留守番。仮にも王女だし孤児院経営もあるので。
一つ目の村に着いた。亜人系の魔物共はここまでは来ていないらしい。少し空気がピリピリしているが、至って普通の長閑な村落だ。聞いた話では既に教会の連中は通り過ぎて行って、かなり時間が過ぎているみたいだ。最悪間に合わなくても構わないとは言われているが、末端の人達まで巻き込まれて無駄に死者が出るのは避けたい。先を急ぐことにした。
出発してから一日が経過して、ちょうど国境の間辺りにある交易都市に到着した。ここが最前線らしく、エルフと人間の兵士両方が走り回って居るのが見える。槍の束や謎の樽を抱えてたり慌ただしいな、もしかしてこれから襲撃が来たりするのだろうか?
「いそがしそうだねぇ」
「だな⋯話を聞ければいいんだけど」
「妾が帰ってきたというのに出迎えも無いからのう。何ぞ問題でも抱えとるのやも知れぬな。まぁ、絶賛大問題中なんじゃが」
「とりあえず偉い人の所に行きましょっか」
ここを治めている都市長が居るという大きめの屋敷にやってきた。女王様曰くここに子供の一人を置いて指揮を執るように命令してきたらしい。要所ということもあり、半ば隠居状態の女王の補佐の形で政を行っている次期国王候補筆頭の長男なんだとか。六九歳のロリババアの長男だと五十歳くらいですかね、無茶をしてなければいいのだけど。
「よう、元気しとるか?」
「女王陛下!お帰りになられたのですか!?」
「うむ。ディーロンはおるか?案内せよ」
「ハッ!」
守衛の人に話を通して貰ってディーロンなる人の所に案内してもらった。
「お帰りになられたのですね母上!!」
「うむ、力強い応援を預かってきたぞ!」
この人が息子らしい。薹が立った白髪交じりのエルフのおじさんが感激に咽びながら女王様と抱き合っている。
「応援?⋯⋯この者達が?」
「んむ、そうじゃ。聞いて驚け!彼の国でも起こった氾濫を収束させた立役者じゃぞ!」
「ほう!それは心強いですな!して、そちらのお子さんは?」
おっとぉ早速俺にツッコミが入ってきたか。本当のことなんて絶対教えられないしなぁ。めんどくさくなっても女王様みたいに一撃看破されたわけじゃないから、おにぎりぶち込んで黙らせるなんてこともできない。どうすっか⋯⋯。
「お初にお目にかかります。私達はグランディール王国から派遣されて参りました冒険者になります。こちらは私達の妹でして、こう見えてとても強いので連れてきております」
ティナのフォローが心に優しい。俺が自分のことを言うと途端にボロが出るからね、しょうがないね。
「おぉそうか!母上も見た目通りの歳ではないし惑わされてはいか⋯あだだだだ砕ける!」
「見た目通りの可愛い子ちゃんじゃろぉ!?」
足踏んでる⋯⋯しかも踵で捻りを加えてる⋯⋯。異世界の女怖いのばっかじゃん、今のところ普通な人はママくらいだよ。いや、普通か?俺の人格が変わってきてるのママのせいだった気がするぞ?
「あ、アリスで~す。よろしくお願いしま~す」
それぞれの自己紹介も恙無く終わり現状報告のターン。まずここ最近は膠着状態だということ。堅牢な交易都市の擁壁の上から魔法で絨毯爆撃を行えるのがデカいらしい。逆に平坦な村々は数の暴力で蹂躙は避けられないだろうという推測も多々あるとか。偵察に行こうにも敵部隊が厚くて先に進めず、救助にも行けない。つまり万が一ここが落とされると終わりということだった。
「分岐路の先にある開拓村とかどうなったんじゃ?」
「そちらは先程グランディールからの応援として来て頂いた者達が救出に向かっております」
「ほう?妾が話した重鎮達の談ではあるが、国を挙げての救援が来るのは明日なんじゃがの」
「は?しかし文書には確かに我が国の国璽が押されていましたよ?」
「⋯⋯あいっつら公文書の偽造までやりおったか!!!どこにある!出せ!!」
「どういうことですか!?こ、これですが」
青筋をコメカミに浮かべながら紙束を流し読みする女王様。パラパラと一枚ずつ捲っていき、最後の一枚を読み終わると紙から薄いセロファンのような物を剥がしてこちらに見せてきた。
「こんなものに騙されるとは、お前も耄碌したか?」
「こ、これは⋯⋯」
「下のインクをこれに写して貼り付けたんじゃろう。クソッ、あの時出した手紙が利用されたか」
「まさかあの誘拐未遂の時の奴か?途中の検問もこれで突破出来たってワケだな。アレが布石だったとしたら大したモンだ」
クリスも驚いてるけど、これまさかあれか?駄菓子のガムとかに付いてくるオマケの半透明シールみたいなやつか!本来は絵が書いてあるけど、この世界じゃ下の絵や文字をコピーして貼れる奴みたいだな。それを国璽に使って、好きに書いた文書にペーストするだけでお手軽国王命令に仕立て上げたと。こんな使い方をするなんて日本の製菓業者さん達も涙目だよ。
「コレは我が国で産出される魔道具で、流出した場合はこういうことになるのでご禁制なんじゃがな。混乱に乗じてどこからか入手したんじゃろうて。それにしても思い切ったことをするのう⋯⋯」
「お、おちついて~⋯ね?」
「フゥー⋯⋯。大丈夫じゃアリスちゃん、妾は至って冷静だとも」
うっそだー、犯人ぶっ殺すって顔を隠そうともしてないし、俺達がいなきゃ部屋一つくらい吹き飛ばしてそうな魔力出てるもん。
「それでこやつらはどこに行った?まずはそこからじゃ」
「南の開拓村です。ここが落とせないと知った亜人連中は食料確保のために周りの村を襲うためか散り散りになりまして、それを知らせた所後を追うように」
「行くぞ!とっちめてやるわ!」
こうして休息も取らぬまま怒りに任せて開拓村に行くことになった。なんかもう、ここからどう転んでも教会連中が助かる未来が見えないんだけど気のせいかな?




