第62話 盗み聞いちゃった
「それであいつら何を言いに来てたんだよ」
暴行事件の下手人を蹴り飛ばしてお帰りいただいた後、再び院長室に戻って話をしている。
「奴ら⋯⋯『明日にでもエルフ達を救いに行くので人員を供出せよ』と言っていたよ。普段から高いお布施や寄付を集めておいて更に少年兵の徴兵の真似事までするなどと度し難い⋯⋯クソッ!」
エレノアは机を叩いて荒ぶっている。いつも子供が大事、国が大事と未来を考えている身からして許せなかったんだろうな。
「落ち着くのじゃ。それについては表に来ている護衛を使いに出して手出し無用と伝えとくからの。それにしても、どこでどう歪んだのかここの支部は随分とアレじゃのう」
「多分貴族達と癒着して色々やってたから常識がぶっ壊れてるのよね~。他の国ならまだマシって聞いてるけどグランディールは昔っからこうよ」
「ああいうのって悪いことにはなんないの?」
犯罪者判定してくるのが教会のアイテムだから捏造、隠蔽くらいしてそうだが⋯一応聞いておくか。
「一応魔法が使える人は合意があれば軍事行動含む戦闘の参加を許可するっていう法律があるけどねぇ、子供達には暴力や恐怖で強制して合意なんてあったもんじゃないのよ。私達が居て止められたから良かったものの、連れて行かれてから人知れず洗脳でもされたらちょっと難しいわね。あの罪を見通すアーティファクトも殺人くらいにしか反応しないし⋯。全く、普段から真面目に信徒を増やしておけば困らないのに、傲慢な態度で人に接するから避けられてるって分かんないのかしら」
おおう、闇が暴かれていく。そんなトコに所属してないと生きていけなかったなんてマジで苦労してたんだろうな。もうやめたから安心だけど。っつーか軍事行動って言った今?そんな戦力足りてないんかこの世界は。
「なんにせよここはマークされるだろうな。今夜は泊まったほうがいいかもしれない」
「そだね⋯⋯外の兵士さん達にも守ってもらえるように言っておかなきゃ」
身バレした結果ついてしまった護衛を早速使う時が来た。普段少人数で行動してるから人手が増えると便利で困る。しかしティナが教会をやめてしまったのは少し痛いな⋯奴らの行動を知る手段がなくなってしまった。聞く話からの印象だと実力が伴わない癖に見栄張って無茶したがる小物集団って所か?しかも合法的に子供を誘拐洗脳して使うというタチの悪さ。ほぼクソ貴族と変わらんな、死刑!
っていうか腐敗貴族とも繋がってたって話だし、そういうのが根付いちゃってるんだろうなぁこの国。上層部は浄化が始まってるけど教会関係者はノータッチだからそっちも解決しないと駄目か。エルフの人達が滅亡の危機で、下手したら次はこっちに亜人モンスター軍団が来るっつーのに何やってんだよホント⋯⋯。せめて足並みを揃えてくれればいいのだが。
今後について話し合ったりティナの教会情報を共有している内に夕飯の時間になり、子供達と一緒に肉じゃが定食じみたメニューを平らげてからその日は眠りについた。そして翌日。
お願いしておいた護衛の人達が、昨日ぶちのめした奴も含めて五人も侵入者を捕らえてくれていた。朝ご飯を食べてから、捕らえた後適当に転がしておいた倉庫兼空き部屋で犯人たちを見下ろしながら会話する。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ!これが我らの使命ですので!」
凄い良い顔で返されてしまった。子供に対するソレじゃないな⋯⋯信仰対象を見る目だ。やめてぇ。
「これは昨日と違って立派な犯罪行為⋯⋯だよな?衛兵に突き出してもいいよな?」
「そーねー、不法侵入誘拐未遂他諸々ってとこかしら?それとエレオノーラの権限で営業停止処分でも着ければしばらく大人しくなるでしょ」
「ついでに教会で運営している孤児院の子等もこちらで引き取ろう。彼らに任せていると同じ事になりそうだ」
「うーむ⋯妾が一筆書いた上でこれとは頭が痛いのう。露見しなければこれ幸いと出兵するつもりだったんじゃろうが、ここまでするとは」
「何にせよ釘は刺せたんだ。暴走しないように見張りもつけておくとするよ」
「では妾はこれから城で会議に出席するために登城せねばならん、そこでも言及しておいたほうが良いじゃろうな。護衛⋯というか同行願うぞ、アリスちゃん」
「うーい」
以前は結託していたクソ貴族連中のせいで握りつぶされていたけど、今ならちゃんと刑罰を与えてくれるだろう。これで何かしら教会に変化があってくれればいいんだが。
~~グランディール王城会議室~~
「では次の議題だ。エルフの救援要請による派兵についてだが」
「うむ。改めて妾からお願いしたい。現在我が国は窮地に立たされておる。各都市、町村には我が子らと兵を残し防衛に当たらせておるが、それもいつまで保つか分からぬ。それについては貴国の迅速な支援に大いに感謝しておる。だが圧倒的な個の戦力差が問題なのじゃ⋯⋯奴らの首魁、ゴブリンエンペラーは手強い。いや、その言葉ですら生ぬるいほどの力を持つ。今思い出しただけでも恐ろしい。よって、この国を救った英雄殿『赤虎クリス』と『水竜ティナ』をお借り受けしたく思う」
「あの二人をか。この国とて未だ混乱に満ちているのだが、あの二人と我が娘が手ずから収めたという功績を流布し、市中に顔を見せることによって民達が安息を得ていると言っても過言ではない。我が騎士団にも赤虎によって鍛え上げられた者が多く、半ば盲信的に指示に従う者も居る程に。彼女らにはそれ程の大きな求心力がある。それを手放し派兵の一団に加えるというのは⋯⋯」
「そこをなんとかお願いしたく存ずる。これはエルフだけの問題ではない、いずれ我が国を食い尽くした魔物共は次の餌を求めて移動を開始するだろう。冬で森に食料は少ない。ならば人の住処に殺到するは必然、行く先は北に存在するドワーフの国ではなく、道中に村落が多く続くこちらになるじゃろう。ここを食い荒らされてしまっては優れた武具の供給も止まり、またそれを敵に与えることにも繋がる。そうなってしまっては人類の敗北に繋がる決定的な一打となるのは想像に難くない!どうか、頼む!ここが分水嶺じゃ、力を貸してくれ!我が民達を、どうか⋯⋯」
「⋯⋯⋯承知した。我々としても隣国が陥落して、医薬品の供給が途絶えてしまう事態だけは何としても避けたい。そのための尽力はするとも。彼女らの派遣についても許可しよう。その代わりに――」
(よし、これで事前の話し合いで決めたアリスちゃん達を同伴しての国防は成った。後はこちらが出せる謝礼についてじゃが⋯どこまで出すかのう?)
~~その隣の部屋~~
「でぇー、二つ名が付いた感想はどう?赤虎のお姉ちゃんと水竜のお姉ちゃん」
「ぐぅああああ!こっ、殺せ!」
「そんなふうに呼ばれてたなんて一切知らなかったわ!?道理で歩いてる時にやたらヒソヒソ囁き声が聞こえる訳ね⋯⋯」
俺の魔法で会議室の音を聞いていた姉二人は死にかけていた。




