第61話 座っちゃった
とりあえず俺達は院長室を出て子供達が居る部屋に移動した。さて、今までは外で遊んでばっかりだったから屋内遊戯は全然教えてない。この機会に何かやってみるか?と、言っても元男な自分の記憶から引っ張り出そうにもゲームしてたり漫画読んでたりしか引き出しがない。
体一つあれば石ころとか木の棒を拾ってなんとかなるお外とは違って、屋内は基本的に玩具がないと厳しいか。なんかないか⋯⋯あ!椅子がいっぱいあるし椅子取りゲームでもやるか!音楽は俺が流せるし、最後まで残った人にはのど飴でもあげよう。
「それじゃみんな、集まって遊ぼう!」
「えー?どうするのアリスちゃん」
子供の一人が聞いてくる。ルールは簡単。俺が流す音楽に合わせて椅子の周囲を踊りながら周り、ランダムなタイミングで曲を止めるのでその瞬間に椅子に座った人が勝ちだ。初戦で負けた人は飴玉一個、勝ち抜き制で一回毎に飴は増えて椅子は半分ずつ減らしていく。十人居るので八脚スタートで四回戦まで、つまり参加さえすれば最低一個、勝てば最大四個飴玉が貰えると説明すると子供達は大喜びで参加表明し始めた。
飴に興味が無いのと、身体能力的に開きがある大人組と老人枠の女王様、更に自分で好きなタイミングで曲を止めれる俺は見学なのだがまぁいいだろう。怪我をしないように見張る必要もあるしね。外で遊んでる子供達にはちょいちょい餌付けとして飴玉を与えているので今回は内緒だよ?
一回戦目、頃合いを見てオクラホマミキサーを止める。予想通り体が弱い子と気が弱い女の子が弾き出されてしまった。勢いよくお尻がぶつかったせいか少し涙目だ。飴玉を与えて泣き止ませておく。勝った子が早速飴玉が欲しいと言ってきたが、ゲーム中に喉に詰まると危ないからと断っておいた。
二回戦目、今度は虚を突いて開始数秒で止める。それに慌てた子供達は我先に椅子に群がり大騒ぎ。今回は外に出たくても家の事情で表に出れない子と、そろそろ外遊びも出来そうな子が両方とも残った。こうやって屋内でも出来る遊びでストレスが解消できているなら何よりである。
「それにしてもこの音楽を流すのはいいな、酒場とかでやれば良いアルバイトになるんじゃね?」
姉一号はそう言ってくるが、その場合俺がずっと居続けないとならないので拘束時間が問題だ。後は治安がね、よくある異世界酒場とそう変わらないからね。殴り合いとかそれなりにあるし、それを見て賭けを始める連中もいるのだよ。それを見ながらジュークボックス代わりになれってのはお断りだ。
「夜は眠たいしからまれそうだからヤダ」
「それは違いない。お前かわいいもんな」
さて、気を取り直して三回戦。今度はなるべく引っ張って体力を削りにかかる。負けた子供らと一緒に手拍子をしてノリノリにしたテンションで無理矢理に踊らせてやる。するとどうなるか。次第に踊ること自体が楽しくなってきて椅子の存在を一瞬忘れてしまう。子供とはそういうものなのだ、よく分かる。(遠い目)
三分ほどたっぷり踊らせて曲の終わりに合わせて止める。その瞬間我に返って椅子に座りだす子供達と、踊り疲れてよろよろと諦めたように座る子供。今回はハッキリ勝ち負けが決まった。先に負けた子供達も曲を聞きながら手拍子をするのが楽しかったのか笑顔が多い。お遊戯ってのは皆楽しくなきゃね。
さて、最終戦―――と思った矢先にそれは起こった。突然院長室の方向から大きな音がして大声も聞こえてくる。言い合いが白熱しているのだろうか、だんだん大きくなって来たと思うと、ドスドスと足音が聞こえてきて扉が大きな音を立てて開かれた。
「見ろ!大勢居るではないか!一人や二人居なくなっても構わんだろう!」
そう言いながら先程窓から見えた法衣を来た二人がこちらに近寄って来る。そして部屋の中央で待機していた男の子に近づいていきなり腕を掴んだ。
「一緒に来い!」
「なにすんだ!はなせよ!」
「テメェどういうつもりだ!」
クリスが子供の腕を掴んだ人物に凄い速さで走り寄って、腕を捻り上げ地面に引き倒して拘束する。
「くあっ、何をする貴様!離さんか!」
「何をするはこっちのセリフだよこの野郎。いきなり子供に手を上げるなんざ教育に悪いだろうが⋯⋯しかもここは孤児院だぞ?行き場を失った子供に対してやるコトじゃないだろうが」
そう言いながら拘束している手に力を入れていく。ギチギチと嫌な音を立てながら角度を変えていく腕。それと同時に男が上げる悲鳴が高くなって行き、後少しで破壊されようとしていた。
「あー、そのまま折っても構わんぞ」
開け放たれた扉からエレノアが現れた。ちょっと疲れた顔と、呆れた顔と、予想通りみたいな顔で複雑な感情が見て取れる。
「こいつら何しに来たんだ?その話の内容によっちゃマジでへし折るけど」
「うむ⋯⋯『人民救済の人柱』になれ、とさ」
なんそれ?じんみんきゅうさい?県民共済みたいなもんか?
「あんだそりゃ?具体的にはどういうこった」
「⋯⋯囮になれってことよ。教会としては総本山のエルフ国を救いに行くにもグランディールの国軍は再編中の近衛と汚職逃れで領地に籠った貴族が多くてアテに出来ない。冒険者も今回の失敗を踏まえて最大限ダンジョンに投入されてるしね。襲われた時に少なくとも魔法を詠唱する時間を稼ぐための前衛として孤児院の子供を使うって、そういう話が会議で出てたのよ」
ティナが補足してくれる。最近げっそりしてると思ったら教会でそんな非人道的な話がされていたとは。これは貴族に引き続き教会も敵だな⋯⋯まぁ元々いい印象が無かったから近寄りたくはない手合だったけど。
「ハァ?じゃあ何か?こいつらここの子供を捨て駒にしようとしてたってのか?まさか教会の孤児院はもうそういう話がまかり通る環境にある、ってことか?」
「そうね⋯⋯それでも足りないからこうして個人経営のところにも来たんでしょうよ。私は必死に抑えてたんだけどね。休みを入れた日にこうして来るってことは、私が居ないのを狙って緊急会議でも開いて無理矢理可決させたんじゃないかしら?」
頭おかしいんじゃねえか。人を救うために子供を犠牲にするとか⋯⋯教えはどうなってんだ教えは。いや、教会の教えとか一切知らんけど。ついでに知りたくもない。
「全く持って救いようがないな。本来は人を救う坊さんに言うのもおかしな話だが。おらよっ」
クリスは男を取り押さえる腕に力を入れて、遂に枯れ木が折れるような音が部屋に響いた。
「グゥアァァアーー!!!きっ貴様ら!自分が何をしたのか分かってるのか!?これは神のご意思なのだぞ!?」
「うっせ、神のご意思?騙ってんじゃねーぞバァーカ」
俺をチラ見しながら言わないで⋯⋯主神はスリープ状態で邪神が不在っていう事情知ってるからってさぁ。
「ぐぅぅっ、司教!貴方までこんな不埒者と一緒になって何をしておられる!」
「あー、悪いけど私教徒やめるわ!ちょっともうついてけない。アホばっかで疲れるもの」
「なっ⋯⋯正気か!」
「正気も正気よ。むしろあんたらに言いたいわ。子供は道具じゃないのよ?そんなに死にたいならアンタらだけで行って自由に死になさいな。それこそ正気を疑うけどね~」
「き、貴様らぁぁぁ」
要するに人攫いを撃退しました案件だな。それも俺の叔母(神)を騙っての。
「はい、お帰りはあちら~」
ティナは心底面倒くさそうな態度で男二人を蹴っ飛ばして開いている窓から外に蹴り出した。
「なんなのあの人達⋯⋯教会の人ってみんなああなの?」
「末端は割と苦労してるから話が通じるんだけどねえ、上層部は勘違いした貴族みたいな態度の奴が多いのよ」
つまり権力をバックに増長した結果と。武力はなさそうだから前みたいにならないだろうけど、ああいう勘違いが暴走するのが一番厄介なんだよなぁ⋯⋯。とりあえずこの場に居た子供達のケアで勝敗にかかわらず飴玉を配っておこう。
ちなみに女王様は終始子供の群れに隠れていました。




