第58話 媚びちゃった ※挿絵あり
俺がいつの間にか増えた技能のせいで頭を抱えて悩んでいると、姉が口を開いた。
「こっちが言えた立場じゃないけどさ、あんま畏まんなよ。妹は権威とか欲しくないみたいだしさ」
あっそれは助かる。ママと家族の誓約を結んでから若干性格が変わったみたいだから、変なことでこれ以上変化するのはなんとしても避けたい。⋯⋯あれから変わってないよな?自覚がないのが一番怖い。
「しかし、事情を知らなかったとは言え無理矢理に暴いた責はこちらにございます。お望みとあらば⋯」
「なんにも望んでなんかないよ!不自然だから今まで通りで!」
他の人も交えて会話する時とか怪しさMAXだしな。今のまんまだと、この国の王様と一緒に居ても俺に同じ感じで喋りそうだから今のうちに矯正せねば。
「それでは我々の気がすみませぬ!尊きお方に臣民と同じ態度など以ての外でございます!」
相変わらずキラキラした目で語る女王様。ええい、二進も三進もいかん。かなり嫌だが愛嬌でゴリ押ししてみるか⋯⋯。
「い、言う事聞いてくれないと、嫌いになっちゃう、かも?」
「「!!!!!」」
ちょっとぶりっ子気味に言ってみた。死にたい。誰か殺してくれ。中身成人男性(曖昧)の両手顎乗せとか誰が需要あんだよ、手の平じゃなくて手の甲を組んで乗せるなら特務機関の偉い人みたいでかっこいいんだろうけどさぁ!
羞恥心に悶えていると姉が再び前に出て、今度は後ろに隠された。
「今のは見なかったことにしろ。あと妹の言うとおりにしろ。さもなきゃ二度と会わせないぞ」
「それは困ります、今のがもう見れなくなってしまうのは!」
「あの破壊力は万の軍勢にも匹敵します!」
「我々だけでも、どうか!」
兵士さん達がやんややんやと騒いでいる。君達、急に自我を出して後で怒られても知らんぞ?
「そう⋯だね、お困りのようだし要望にお答えして戻させていただくとしよう。陛下もそれで構いませんか?」
「妾も異存なしじゃ。アリス様の御心のままに」
まだ硬いなぁ。ただの幼女として接してくれないとバレちゃうじゃんか。こっちからもフレンドリーに歩み寄る必要があるようだ。
「ちゃん、でいいです。同じくらいの歳みたいだし、この人たちの前ならいいでしょ?」
「はっ、あ、うぅ⋯⋯妾はその⋯⋯⋯あ、アリスちゃん」
「うん!」
返事をして手を握ってやる。この幼さで女王なんかに祭り上げられて大変だったんだろうなぁ。護衛依頼はほぼ受けるの確定だろうし、これからいっぱい遊んで幼心を取り戻してやろう。まずは孤児共と一緒に鬼ごっこだな!頭が政治で凝り固まった幼女の心を溶かして友達になる。フフ⋯⋯王道!
「さっきの依頼だけど受けるよ。そのまま放り出して言い触らされても困るしな。ただし護衛の仕方はこちらで決めさせてもらうが構わないか?」
「ああ、それで構わない。よろしく頼むよ。こちらからも数人出させてもらおう。事情を知らない者だと何をしでかすか分からないからこの場に居合わせた者達から選出するよ」
「分かった。それで一体どういう訳で女王様の護衛を私達に頼んだんだ?」
「ああ、それなんだが⋯⋯」
ハインケルは女王様をチラッと流し見した。またなんか厄介案件ですか?
「構わん、教えて差し上げてくれ。脅威は共有するのが一番なのじゃからな」
今脅威って言った⋯。
「それでは。女王陛下が鑑定を持っているというのは割と有名でね。ボロゾフの一件で追求を逃れた貴族達が鑑定を使われてしまうと余罪が露見するのを恐れてか暗殺を企てているようなんだ。食事に毒が盛られてね、日頃から口にする物全てに鑑定を使う習慣が身についていらっしゃったので防げたようだ」
やっぱ厄介案件じゃないか。暗殺とか言っちゃってるし、城の一室に押し込めてても危ないくらいになったのか?
「まだ燻ってんのか。いい加減何とかしてくれよ」
「中々に手強い連中でね、一掃には時間がかかりそうなんだ。ボロゾフを尋問して出てきた計画の情報も最終的には王と宰相を弑して、王子を使っての傀儡政権だったようだしね。エレンが狙われたのも対抗勢力の力を削ぐ一手に過ぎなかった」
うわぁ、そこまでここで言っちゃっていいの?ドーラスさんなんか知りたくなかったって絶望顔してるよ?俺はまぁ別に一国の事情なんかより遥かに重いもの背負ってるからどうってことないんだけどさ。むしろ面倒事にしか思えん。
「そういう訳で城内はかなりゴタゴタしててね、毎日人が入れ替わるものだから警護もままならないのさ。陛下の御付きの人達も国に残して来てしまったようだしね。だから身の危険が及ぶ可能性がある王城より実力者である君達の下で預かって貰いたい」
「ああ、いいよ。で、期間はいつまでなんだ?」
「今のところ未定かな。恐らくエルフの反攻作戦が開始されるまでだろうけど、それがいつかもまだ決まっていない状況なんだ」
「じゃあドーラスさんは手続きなんかを頼む。女王様も外に荷物があるんだろうから身支度をな。ああ、警護対象だって悟られないように口調はこのままで行くからな」
「構わぬぞ、ではそのように」
それで一旦この場は解散になった。女王様は兵士の人達と一緒に表の馬車に荷物を取りに行き、部屋には俺と姉だけが残された。
「またおかしなことになったなぁ」
「そうだね⋯⋯今度はあふれたダンジョンの制圧かぁ、時間がかかりそう」
「それより本当なのか、さっきの女神が居ないとかって話。私達もダンジョンを巡ることしか聞いてなかったからさ」
そういやそうだったな、俺の目的については話してたけど理由や結果はさっき初めて言ったことになる。
「うん、そうだよ。今まであんまり言う機会も無かったしちょうどいいかなって」
「そっか⋯なんだか信用されきってなかったみたいで、少しな」
!?まさかそんな不義理をしていたと思われていたのか!そんな事はしてない。今まで何だって話してきたし、心から信頼してる。そんな風に思われてしまったのは俺のせいだ、最初に全部言ってなかったから。どうしよう、裏切ったみたいで心がひどく痛む。何をすれば許してくれるんだろう。離れたくない⋯⋯。最近姉成分が足りてなかったせいか心が不安定なのが自分でも分かる。これが病むってことなのか。
「うぐっ、ひっく、ごめんなぁい⋯」
「泣くな泣くなこんなことで!ちょっと言ってみただけだよ、なんとも思ってないからさ」
「ほ、ほんとぉ?」
「ほんとほんと!一人増えたけど、これから新しい服でも買いに行ってご飯でも食べよう!な?」
「ウ"ン」
「ふぅ⋯⋯」
どうやらそんなに大事には考えてなかったらしい。よかった。でも隠し事は俺の精神衛生上しないほうが良さそうだな、思ったより体に引っ張られている。まさか姉に少し不審の目で見られただけで泣きそうになるとは。今のうちに言えることは言うべきか?後は俺が男だってことくらいだけどこれ言っても引かれないかな。いや、後から言って俺にダメージが来るくらいならゲロったほうが身のためだな。
「もう一つ、言うことがあるの」
「お、なんだ?」
覚悟を決めろ、俺。
「あたし、ほんとうはお、おとぉぉぉ⋯⋯?」
「どうした?」
言えない。頭では完璧に発音までしてるんだけど口が動かない。ええい、なんだこれは!
「お隣の食堂で食べたいかなって」
「?じゃあ服を買ってから行くか」
今強制的に言葉が変わったぞ。まさかこれもクソみたいな呪いのせいか。
どうせ可愛くないからって雑な理由で言えなくなってんだろ、やっぱ女神許せんわー。




