第56話 女王アールランド
第二話ぶりの他者目線メインの話。
今回はストーリーに大きな関わりがないので連日投稿で。
妾の名はアールランド・ディ・エル・ユグディシア。ユグディシアと呼ばれるエルフ統治国家の女王をやっておる。妾はハイエルフ⋯⋯エンシェントエルフやエルダーエルフとも呼ばれる種族の長でもある。ハイエルフというのは古代の血脈を連綿と受け継いでおり、老いることがない。いや、正確には寿命はあるのじゃがな。通常のエルフは人間種と同じ様に容姿を変化させながら八十年は生きる。
しかしハイエルフである妾は齢四十にして老化が止まり、そこから逆行して若返るように幼くなって最後には脳が寿命を迎え幼子のまま召される運命よ。今の妾は実年齢は六十九歳、見た目だけは十歳前後のぴちぴちギャルというやつじゃ。他のエルフ達を見ているとそれが嬉しくもあり、年月とともに威厳が失われていく自分が悲しくもあるのじゃがの。
それなりに長く生きておるがこの国は平和そのものじゃった。人間の国で行われているような奴隷狩りや獣人の国の強制的な徴兵もない、民に安穏を与えていられることが誇れる程の国造りをしておった。妾は先の世代の中では継承権が低位である庶民の母と王族の父との間に生された妾腹の子。妾の存在が明るみになった時の王宮はしっちゃかめっちゃかの状態で、妾もよく生き残れたもんじゃと今でも思う。
それが可能になったのは神より賜りし恩恵、鑑定のおかげなのじゃ。毎日魔力が切れるまで道行く人や出される料理、供物の全てを鑑定して徹底的に脅威を排除した結果、周りの対向勢力が勝手に自滅していき残された尊き血筋であるハイエルフの妾が玉座に君臨出来たというわけじゃ。事実を示せば結果は自ずと着いてくる。それが生き残った妾の教訓であり、座右の銘でもあるのじゃ。
女王になった後もそれは変わらんかった。伴侶となる者を鑑定して少しでも優秀な種を選別し、数多の非凡な子を産んだ。国が飢饉に直面した時は鑑定で作物に蔓延る病魔を特定し、適切な処置をすることで民を飢えさせずに逆に他国へ作物とダンジョン産の農薬を輸出することで莫大な利益も得ることが出来た。そんな訳で我が国は他国と比べ人口が多く、死の森へと向かわせる戦力も多い。現地で負傷しても格安で治療できるしの。
しかしそんな日々が唐突に終わりを告げたのじゃ。我が国の生命線である薬園迷宮、そこで氾濫が起こったという。数週間前にそのような事態が隣のグランディール王国であったと聞いていた妾は、迷いなく精鋭を向かわせた。長年閉鎖的だった彼の国で何があったのかとんと分からぬが、情報共有をしてくれていたおかげで対処はできた⋯⋯はずだった。なんと、薬園迷宮で出現するはずのないゴブリンやオーガといった亜人系の魔物が数多く確認されたのじゃ。しかも彼奴らは我が国の精鋭中の精鋭である魔法が付与された武具で完全装備した討伐隊を蹂躙し、殺した者は餌に、女は繁殖用として連れ去ったという。
我らはそれ以上の戦力は現状持っておらぬ。死の森へ向かわせた将軍達を呼び戻して対処して貰おうかと議論をしておったその時、ついにダンジョンから魔物の群れが溢れかえったという一報が入った。王都の民全員に緊急事態宣言を発令し、妾自らが主導して避難誘導も行った。そこで見たもの⋯⋯いや、見てしまったモノは今思い返してもおぞましいの一言に尽きる。我が国民を遊びで嬲り殺し、生きたまま食い散らかし、至る所で凌辱が繰り返される⋯⋯あれほどの怒りを覚えたのは後にも先にもこれっきりじゃろうな。
妾は怒りに身を任せ兵を連れて首魁と思われる群れの中央まで深く斬り込んだ。そこに居たのは我が精鋭たちから奪った魔法武具に身を包んだ一匹のゴブリン。鑑定ではゴブリンエンペラーと出ていたのじゃが、重要なのはそこではない。それを見た妾は一瞬で戦意を喪失して兵達に敗走を命じた。あれは今でも英断じゃったと我ながらに思う。
筋力S、魔力S、知力S、忍耐S、器用S、幸運S⋯⋯それだけ分かればもう十分じゃった。あれは人類が勝てる存在ではない。我が国でも現在確認されている能力値の最大はB、恐らくそれがヒトとしての限界なんじゃろう。能力値Aは夢のまた夢、Sなんぞ明らかにヒトでは勝てぬ、おとぎ話や神話の領域じゃ。この情報だけでも持ち帰り、なんとしても他国と共に協力してことに当たらねばなるまい。
まずは民を遠くの村落に逃がし、我が子らを現地の代表者として配置しよう。もう国など捨てても構わぬ、エルフという種が生き残れるなら悪魔にでも魂を売り渡そうではないか。まずは先んじて氾濫を収束させたと伝わるグランディールに落ち延び、救援を求めよう。あそこは我が国でも使用しておる魔法武具や消耗品の多くが産出され、冒険者達も粒ぞろいと聞く。
しかし妾が逃亡先のグランディールで出会ったのは、女神の遣いとでも言うべき人間のような妖精じゃった。おお、神よ。貴方様は我々をお見捨てにはなっておらんかったのじゃな。鑑定で見たその尊き玉体は眩しく、能力値Sが三つに血筋には神の子を示す女神ノールジュの御名が記されておった。さらに各種技能Lv5に加え《神の器Lv2》という現人神にも匹敵する技能をお持ちであった。
それを見た瞬間、妾は全てを悟った。貴方様に出会うことこそが、妾の生まれた意味、運命であることを。神に対して直接何かを要求するのは神罰が下ってもおかしくない。だが形振り構っては居られぬ、この瞬間にも我が国の無辜の民達は虐げられているかも知れないのじゃ。そこで妾は、文献に残っていたかつて勇者が行ったと伝わる謝罪や嘆願の最上位、土下座を敢行することにした。
「あ、貴方様は⋯⋯妖精、いえ、神子様!どうか我が国をお救いください!伏してお願い申し上げまする!!」




