第54話 潰れちゃった(休みが)
「おはようお姉ちゃん⋯⋯」
「ああ、おはよう」
「おはよーアリスちゃん。そろそろ離して?」
またティナにしがみついて寝ていた俺は少し迷惑そうに引き剥がされた。お布団様並に柔らかい体なのが悪い。いい感じに体が沈み込む低反発クッションみたいな感触だからしょうがないね。
「この後私とアリスは外出するけどティナはどうする?」
「とっても行きたいけど私はパスね~。何かあったみたいで朝イチで招集かけられてるのよねー」
「一緒に行けないんだ、残念だね。でも何かってなんなの?」
また何か問題が発生したんだろうか。ダンジョンはいつも通り動いているし、俺達の訴えで国主導によるダンジョン産の物資買い取り価格増額キャンペーン中だから冒険者は多いくらいだ。それによって魔素はいい感じに散らしてるから大丈夫なはずだが⋯⋯。
「行ってみないとなんとも言えないわね。昨日の時点では上層部も混乱状態だったし」
「偉くなると大変だな。手が要るなら呼べよ?すぐ駆けつけるからな」
「分かってるわよ姉さん」
少し前からティナはクリスのことを姉さんと呼ぶことが多くなった。心境の変化があったのだろうか、少し照れながら口にするので見ていて微笑ましい。長年連れ添った夫婦がお互いの名前を改めて呼ぶみたいなアレだな!てえてえ。
そんなこんなでティナと分かれて買食いしながらそこら辺をほっつき歩く。スタンピードを未然に防いだのとその他諸々の人に言えない功績によって小金持ちになったのだ。その資金で持って手当たり次第に衝動買いをしていく二人。あ、そういえばボロゾフは過去の罪とか色々熨斗つけて最高で国家転覆罪が適用されたらしいよ?ざまぁぁぁ!人の安寧を脅かすからこういうことになるんだ!あの世で後悔してな!
「んー⋯まぁ出かけるっつっても私もアリスもそれなりにここに居て長いからなぁ。やること無くなったらここに来るわなぁ」
「お姉ちゃん⋯」
数時間ほどぶらぶらして行き着いたのは冒険者ギルドだった。どうして休みの日にまで仕事場に来るようなワーカホリックみたいな真似を⋯⋯。この世界じゃ娯楽が酒とか娼館くらいしか無いからしょうがないか?音楽とかはガルディアになる時に失われたのかね、機会があったらクラシックや民謡から始めて芸術というものに触れさせてあげよう。俺の聞いたことある範囲で、だけど。
「ようこそ冒険者ギルド――ってクリスさんにアリスちゃんじゃないの!」
「おいーっす」
「こんにちわーっ!」
受付嬢のニナさんに挨拶してから適当なテーブルに座る。ギルド半壊事件の後で修繕ホヤホヤなので、切り出したばかりの木材を使った新居のようないい匂いがして落ち着く。
「ところでクリスさん、聞きました?今朝の話!」
「今朝ってなんだい?少し人通りが多い気がしたけど」
「それがですね、あ、アリスちゃんこれ食べる?」
「食べる!」
ニナさんは手にコーヒーの入ったカップを持って一緒の席に着く。お弁当も持ってるって事は休憩時間なのかな、少しおこぼれに与ろう。このサンドイッチうまー!ローストチキンみたいな肉とレタスとチーズがすげぇ相性抜群だ!やっぱデキる女は飯もうまい!
「お前は躊躇無く人の飯に手を出すなよ⋯⋯で、なんだっけ」
「なんだかお隣のエルフの国から避難民が来るらしいですよ?ここだけの話なんですがね、やんごとない身分の方は既に王城で保護されてるらしいです」
「へぇー?領地も捨ててこっちに逃げてくるって中々大変なことになってそうだなぁ」
「そうなんですよぉ、おかげで冒険者の方々には問題を起こさないように注意喚起しなきゃならなくて。エルフの国のダンジョンで産出されるお薬とかも品薄になりそうなんですよね」
ほう、医薬品はエルフの国からの輸入品なのか。昔使ってもらったポーションもそこから来たものなのかな?もしかすると日頃ケツを拭いてる布もそうかもしれない、見た目包帯っぽいし。
「じゃあ教会?の人なんかいそがしそうだよねぇ、ヒールが使える人なんかたいへんそう」
「あ、あー⋯⋯ティナが朝言ってたのはそういうことだったのか」
「やっぱりそっちも忙しそうなんですか⋯教会とは仲が悪くてあんまり情報が来ないんですよねー」
「そうなの?はじめてきいた」
「私もだな、ティナはその辺話してくれないから」
意外だな、手を取り合ってやってるものとばかり思っていたが。
「優秀な水魔法使いは教会が取るかギルドが取るか早いもの勝ちなんですよ。あっちに行くと市民に治療が行き渡るし、こっちだとパーティの回復役として重宝されますからね。一人居れば清潔な飲用水には困りませんし、水魔法のレベルが上がると氷も操れますから、氷室を作って冬までの間の臨時収入も期待出来ます。ギルドの依頼にもその手の物が多いですし」
あー。ティナが面倒な仕事って言ってたのはその辺なのか。町医者みたいなのしてたのかな?俺が強化する前だとヒールがあんまり上手くないって言ってたから苦肉の策っぽいけど。それでも独力で氷を作れて水魔法Lv3まで唱えれるんだから優秀っちゃ優秀だったんだろうな。
「今まで当たり前に思ってたけどそう聞くと感謝しないといけないな」
「ティナさんみたいな掛け持ちは珍しいんですよ?基本的に教会の人達って引きこもってばっかりですからどこに行くにも護衛が必要で、それをこっちに依頼してきても高圧的な人が多いんですから!」
「確かにあいつはそこらの冒険者ならボコボコに出来るほど強いからなぁ!昔から私と二人であちこち走り回って依頼をこなしてたくらいだよ」
それからクリスとティナの姉二人が活躍した昔話を聞いてまったりしていた。やれゴブリンを殺さずに無力化するのが難しいだの、詠唱が終わるまでの時間の稼ぎ方が上手くなっただの、半分は苦労話みたいなものだったが。基本的に魔力を持っていないと魔物の相手は難しいので、敵の動きを見極めて対応する目が鍛えられたらしい。
懐かしむように語りかけてくるクリスの話を相槌を打ちながら聞いていると、ギルドの扉が開いて兵士達とハインケルが入ってきた。
「失礼、王家の使いで来たんだがギルドマスターは居るかい?」
「これは公爵様!マスターですね、すぐ呼んで参りますので二階の応接室へどうぞ!」
「それではそうさせてもらおう⋯⋯おや?アリスさんにクリスさんじゃないか」
見つかってしまった。こいつは良いやつだって分かってるけど貴族だと思うと身構えちゃうな。やはり前の一件でトラウマが増えたのかも知れない。
労災申請どこ⋯⋯?ここ⋯⋯?
「お、ひさしぶ⋯じゃない、本日はご機嫌麗しゅうございます公爵閣下。下々にお声がけ頂き恐悦至極にございます」
あの後指導を受けて対貴族用の口調を教え込まれたクリスだがまだちょっと怪しい。俺も辿々しいカーテシーをしてみるけど本職に教えてもらったわけじゃないから、かなりふらつく。靴も木の靴底で出来た曲がらない奴だから足首から先が固定されてるのがね⋯。
「ああ、そんなに畏まらないでいいよ。今日は陛下の代わりで来ただけだから。君達も一緒に話を聞くといい」
え?強制イベントですか?せっかく今日はお休みで一日ダラダラ過ごそうと思ってたのに!仕事中の上司に見つかって連行された社員ってこんな気分なんですかね。
休日出勤届どこ⋯⋯?ここ⋯⋯?




