第53話 遊んじゃった
あれからそれなりの時が過ぎた。上層部が腐敗しきっていた状態で自分の身も危うかった国王さまは、長年臥薪嘗胆の思いで自分を偽って生きてきたそうだ。娘の政策に裏から手を回してまで反対していたのもそのためで、近衛騎士団の解体、再編や関与していた貴族たちの処分などを急ピッチで行っている。
これまでは唯一の味方だった前デクタス公爵と共に、色々暗躍しつつも被害が大きくならないように立ち回っていたんだとか。多くの膿を吐き出してこの国は今、変わろうとしてる。
クリスはその強さを見抜かれて、壊滅した(俺が捕まってた時に自分が壊滅させた)近衛騎士団の再編成による人員の育成に駆り出されてしまって忙しいそうだ。元々対人訓練と筋トレばっかりやってたから追い込み方はお手の物で、候補生からは鬼教官と言われながら慕われている。
ティナは俺と出会ってからサボっていた教会の仕事を片付ける毎日みたいだ。今回の一件で叙階(昇進?)もしたらしく、今や司教で書類仕事も増えたとボヤいていた。
ついでに俺のことを漏らした係員について調べてくれたけど、どうやら情報を吐いた後に用済みとしてボロゾフに処分⋯⋯されてしまったようだ。嫌がらせと牽制の一環として俺を攫ったようだけど、正体を知って利用しようとした結果らしい。
あんまり関係がないとは言え俺のせいで人死にが出てしまったのは、なんというか苦しい。姉達が強いせいで、この世界では日本と比べて人の命が軽いというのを忘れていた。気をしっかり持たねば。
そんな俺は今、非合法に連れて行かれた孤児達の引き取り手が見つかるまでの借宿として使われている孤児院?みたいな場所にお世話になっている。元は俺が捕まってたボロゾフの私邸なんだけど今回の一件で競売にかけられていた所を王家が買い取って使っている。
ここにいるのは姉二人が夕方になって帰ってくるまでの時間だけど、揃って俺を守る時間もないくらい働いているからしょうがないのだ。それにここもそれなりに安全だしね。
「捕まえた!次はケイロンくんが鬼ね!」
「なんでそんなに足早いんだよアリスちゃん⋯⋯よし、いーち、にーぃ、さーん」
「逃げろ―!」
鬼ごっこを孤児達に教えたら大流行してしまった。元々娯楽の類が少ないし、遊びを教えてくれる親も余裕も無かったみたい。そんな環境で逞しく生きてきた彼らも精神や健康状態が悪い子が多く、一緒に遊んでいるのも自由に動けるくらいの体調の子だけだ。残りは外に出るのを嫌がって、中で文字を教えてもらって本を読んだり、刺繍や料理を教えてもらったりと心の傷に向き合いながら日々を過ごしている。
「みんなー、あんまり遠くに行くんじゃないぞ―!私が見える所までだぞー!」
「分かってるよ院長先生!」
ここの院長は普段から子供のことを第一に考えていたエレオノーラが務めている。今回の一件で反対勢力の武闘派だった貴族達が鳴りを潜めてようやく政策が通ったらしい。元々弟の第一王子が生まれてからかなり自由な立場だったので、他にやりたい者も居なかったしすんなり収まった。ついでに日中は俺の護衛も出来るので預けられているという寸法だ。
「ほらそこ、暑いからって服を脱いじゃダメでしょ!もう寒いんだからちゃんと着てなさい、風邪引くわよ!」
ボルグさんとこの一人娘のリリーアちゃんも毎日手伝いに来てる。この人は子供が好きっていうよりかは困ってる人を見るとほっとけないタチのようで、スラムの炊き出しも自分が稼いだお金で全額賄っていたとか料理も全部やってたとかですげーバイタリティだ⋯⋯。ちなみに俺より少し大きいくらいでもドワーフでは十分大人で十七歳らしい。ホントかぁ?合法ロリとか異世界最高だな。いや、だから簡単に拐われたって考えると異世界最低かも。
鬼ごっこをしながら終わったこと、今のことを考えていると、鐘の音が聞こえて来た。
「もう夕方だぁ、今日もお迎え遅くなりそうなのかな?」
「うん⋯⋯そうみたいだね」
「アリスちゃん、今日もご飯食べていってね」
最近は姉二人の仕事が特に忙しいらしく、残業もあって俺がここでご飯を食べて帰ることが多い。旅をしながら三人で焚き火を囲んでた頃が懐かしくもあり、淋しい感じもある。朝も起きたら移動しながら軽食を摂り、俺をここに送ってからそれぞれ仕事をしに行くので、ここ一週間は一緒に食事をした記憶もないのだ。うーん、モヤっとする。
だけど、面白いこともある。ここの子供達に混じって料理の手伝いを出来るようになったのだ。元々職員を集めてお世話をして貰う予定だったのだが、何分初動は人不足だった。それを埋め合わせるために孤児達も自発的に手伝いをしていたのだが、そこに俺が混ざって記憶にある料理の数々を披露してやったらこれが大人気!肉じゃがとかハンバーグとか簡単に再現できそうな家庭料理だけどね。なお、危ないからって火と包丁には今だに触らせてもらっていない。解せぬ⋯⋯。
「「「ごちそうさまでしたー!」」」
「ごちそうさま。アリス嬢のお祈りも定着したな」
「お、いい匂いがしてるな。今日は私が迎えに来たぞ―」
「お姉ちゃん!」
今の俺には姉成分が圧倒的に足りていない。今まで離れることがありえないくらい一緒に居たから反動かもしれないな。とりあえず抱きついておこう。
「今日も元気してたか?じゃあ帰ろうか」
「うん!みんなまたね!」
今日も一日が終わり、いつもの宿屋へ帰る。お金も溜まってきたしそろそろ家くらい買ったらいいと思うんけどね。そうすれば二人の気配をいつでも感じられるし、洗濯とか作り置きの料理とかで貢献することも出来るのに⋯⋯。包丁は使えないけどおにぎりくらいならギリ一人でも作れるからね?ご飯を炊いておく必要はあるけど、夕食の時に多めに炊けば次の日使えるしな!
「どうしたんだ?そんなに強くしがみついてきて」
気づかない内におんぶされている手に力が入っていたらしい。
「なんでもな⋯⋯ううん、ちょっとさみしいかなって」
「そっか、明日は休みだしなんか食べに行くか?」
「うん!」
やった!明日は一緒に居れるんだ、楽しみだなー。何もしないで一緒に宿屋の部屋でゴロゴロするだけってのもアリか?うーん、折角の休みなのに何をしようか迷う⋯⋯。
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騒動の後のグランディール王国王城。ここには日頃から大貴族が要職を務めるために登城している。その一室、中でも奥まった所に存在する荘厳な扉の中⋯王の執務室に三人のおじさんの影があった。
「ふぅ、今日の政務はこれで終わりかな宰相」
目の疲れを指で解しながら、国王アインザッツ・ジョゼフ・グランディールが背をボキボキと伸ばした。
「左様でございます陛下。長時間のお勤め、誠にお疲れ様でございました」
公爵の地位を長子に譲り渡したシュループ・フォン・デクタス宰相も肩を回して答える。
「今日はもう皆帰ったぞ?いつも通りで頼む、前デクタス公。いや、シュループよ」
「そうでありますな⋯ゴホン、俺も今日はずっと部下やなんかと接してたんだ、そう簡単に切り替えられんよ」
「ハッハッハ違いない。どれ、夕食の前に早めの食前酒と行くか」
「お、今日は何年ものだ?」
この老人二人も一ヶ月の間に進めた数多の改革によってお疲れなのだ。部屋の警備をしている兵士長もこれには苦笑いをこぼし、労いの言葉をかける。
「本日の予定はこれにて終了でございますが、明日も朝早くから他の領地との擦り合せ等ございますので、あまり深酒はしないようお願いしますね?」
「わかっておるとも、最近は酒を飲まぬと寝られぬが健康を害する程は⋯⋯」
その時、執務室に繋がる廊下の奥から慌ただしい足音と人の声が響いた。
「で、伝令!!でんれーい!陛下は何処に居られますか!」
「何かあったか?兵士長、許可する。通せ」
火急のようなので、アインザッツは諸々すっ飛ばして報告を聞くよう兵士長に指示をする。それを受けて兵士長は扉を開け放ち兵士に声をかけた。
「畏まりました!陛下はこちらに居られる、何用だ!」
「ハァ、ハァ、よかった⋯⋯まだお休みではなかったのですね⋯⋯⋯あっ、失礼を致しました!」
「よい、それより要件を聞こう」
「ハッ⋯⋯エルフが統治している隣国ユグディシアの王都が、陥落しました!」
「なっ!?どういうことだ、詳しく話せ!」
「はい、どうやらダンジョンの内部で何かがあったらしく、使者が参られていますのでその方からお話をお聞きいただければと」
「今日は休めそうもないな、酒を飲む前で良かったと言うべきか⋯⋯よし、謁見の間を開け。話はそこで聞くとしよう。使者殿は?」
「疲労困憊のご様子で、今は休んでいただいております」
「ううむ、そうか。では気力を取り戻し次第呼んでくれ」
「ハッ!それでは失礼致しました!」
そうして緊急事態を伝えに来た兵士は下がっていった。この報告を聞いた三人は、揃って渋い顔をする。
「何が起こったのか話を聞かぬとサッパリ理解出来んな⋯どう思う?」
「いずれにせよ支援はせねばならないかと⋯⋯差し当たり国家的な決定までは当家の私財で送っておきます」
ボロゾフ派閥との決定的な離別に備えて、デクタス公爵家には結構な量の財が溜め込まれている。だがそれも冒険者四人の活躍で使わずに終わったので、今は浮いている状態だったので丁度良いのだ。
「私も兵をいつでも動員出来るよう緊急招集をかけておきます。念のため予備兵や近衛候補も呼んでおきます」
「すまん、助かる。それにしてもダンジョンか⋯⋯⋯まさか、この間の騒ぎの延長がこれ、か?」
「恐らくは⋯数年は保つとの話でしたが、それはここだけだったのかも知れませんな」
冬が訪れたが、本格的な寒波が到来する前のグランディール王国。その空に暗雲が立ち込めていた。




