第52話 痛めつけちゃった
天井をぶち破って降りてきたのは愛しのお姉ちゃんだった。最近のアニメなら処刑用BGMとか流れてる所なんだろうなぁ、俺の能力でなんか流しとくか?いや、気を引いても嫌だしやめとこう。
「な、何だ貴様は!上の守備隊は何をしておる!」
「それで?」
「は?だから貴様は⋯⋯」
「それで、私の妹をそんな目に合わせたのは誰だ?」
有無を言わさず魔力を放出する量を更に増やす姉。圧が高すぎて物理現象にもなっているのか、土埃がクリスを中心に晴れていき、牢屋の鉄格子もガタガタと音を鳴らしてる。俺のためにそこまで怒ってくれるなんて、なんだかキュンキュンしちゃうなぁ。これがメス堕ちってやつかも⋯⋯。
「言うまでもないがアリスの嬢ちゃんを囲んでいるそいつらが実行犯だ。主犯はこいつだがな」
ガンドルフはボロゾフを羽交い締めにしたまま顎をしゃくって状況説明をする。
「ふぅん、まぁそうだよね」
「おい!私の質問に答えろ!貴様はどうしてここにいる!私を誰だと思って」
「うるさい」
その一言と同時に抑えられながらも暴れていたボロゾフの片足が飛んだ。
「ヒッ、ギャアアァァァ!」
「あんたの事は心の底から殺してやりたいって思ってるんだけどね、生かして連れてこいって王女様に言われてんだ、嫌になるね。ああ、上の連中なら全員オネンネしてるよ」
そう言いながらまた目で捉えられない速度で何かをすると、残っていた足が吹っ飛んで立てなくなったボロゾフはその場に投げ捨てられた。
「ぐぁぁぁぁ!お、お前達!そのガキを殺せ!」
「っ!!」
俺を立たせていた男が命令を受けてナイフを振りかぶる。痛みが来るのを覚悟して目を瞑って体を強張らせるが、後ろでズガンという音がして隣の男が悲鳴を上げた。恐る恐る目を開けると男のナイフを持っていた腕が吹き飛んでいた。
一体何をしてるんだあの姉は⋯⋯後方の壁に突き刺さっているのは、投げナイフか!え、ちょっと待って?お姉ちゃんってば、たかが投げナイフで人の手足をもぎ取ってるの?なんちゅー速度で投擲してんだ、しかも今度は加減もしなかったみたいで、衝撃で体ごと壁に叩きつけられてるし⋯⋯。引くわー。
「何をしているのだ!さっさとやれぇぇ!」
ボロゾフが檄を飛ばすが、あゝ無情。その間に配下は全て気絶していた。
「よっ、と。お待たせ~!って、あらら凄く痛そうね。すぐ治して上げるわ」
どこからとも無く姉二号であるティナが現れて、俺にヒールをかけてくれる。こっそり近づいて全員打ち倒したのか、こっちの姉も恐ろしいモノになりつつあるな。それにしても痛かったー!骨の二、三本くらい折れてたんじゃねえのか?呼吸もしづらかったしアバラは確実に逝ってそうだった。
「あ、ありがと⋯って違う!今までどこにいたの!?早く助けてよ!」
「ごめんねぇ、拐われたのにはすぐに気付いたんだけど、助けに行こうとしたら待ったがかかってね~」
「気付いて、いただとぉ?貴様等のようなクズが何を⋯⋯」
「黙れよ」
千切れ飛んだ足の付け根に投げナイフが突き刺さる。今度はかなり手加減したらしく、刺さった所がちゃんと残ってて血がじんわり滲む程度だ。
「ぐわぁぁぁ!」
「お前のことは殺すなと言われているけどね、それ以外は特に指示を受けていない。だから余計な事を言うとどうなるか―――分かるだろ?」
「ヒィィッ!」
とんでもない脅しを言ってのけるクリス。その一言でボロ雑巾のようになったクソ野郎はしめやかに失禁した。きちゃない!
「さて、お前には聞きたいこともある。鍛冶屋のボルグんとこの娘はどこだ?」
「そ、そこにいます⋯」
すっかり大人しくなったボロゾフが指さした方向の一部屋に向かうと、さっきの俺以上に暴行を受けた形跡がある小さい少女がいた。足が変な方向に曲がって顔に血の気が無く、所々破れた服から覗く肌には赤黒い痣が見られる。俺より少し大きいくらいの少女があんなむごいことになってるとは⋯⋯マジでくたばっちまえこの世界の貴族。
「こりゃ⋯⋯⋯生きてんのか?ティナ、見てやってくれ。場合によってはアレを頼む」
「はいはーいっと。かなりギリギリね。あと一時間遅かったら⋯ってとこよコレ」
「⋯⋯⋯どうしてあの子を連れてきたんだ、言え」
再び脅すように魔力を放出して問いただす姉。
「そのドワーフは私に楯突いた上にスープを飛ばして服を汚したんですぅぅ。他にも捕まえた奴らを解放しろと好き勝手に喚きますし、当然でしょう?」
「こんなの、人間がやっていいことじゃないよ⋯⋯⋯」
そんな⋯⋯それだけで?たったそれだけでこの惨状になるのか?確かに貴族の行いに物申すのはこの世界では悪い事かもしれない。それでも罪を償わせるためじゃなく、ただ鬱憤を晴らすかのように嬲り殺しのような真似をするのは確実に間違っている。
「そうか、じゃあ私の妹を攫ってこんな事をしでかしたお前がこうなるのも自業自得ってことだ。そうだな?」
「え?ひっ」
クリスは拳を振りかぶって、ボロゾフの顔面を思いっきりぶん殴った。今までの事を考えると恐怖を与えるためのパフォーマンスで実際にはほとんど力を込めていないんだろうな。だって、殴られた箇所が無くなってるわけでもないし。それでも拳があたった時に顎が外れたのか口を開けっ放しにして、がーがーイビキをかいてる。脳挫傷してんなーありゃ。ま、ティナが凄く嫌そうな顔して軽めにヒールを使って両足の止血も同時にしてるし死ぬことはないだろう。ざまあみさらせ!
「ちょっとー、こんなのに魔法使いたくないんだからもっときっちり手加減してよね~?」
「わりぃわりぃ!頭に血が上ってさぁ⋯⋯お前の分もやっといたから許してくれよ」
「私の分を取ったって言わないソレ?」
二人してケラケラ笑いながら協力してくれたガンドルフ達や、他の捕まった人達を解放して治療を施していく。ああ、終わった⋯⋯やっぱ本当に怖いのは人間だな。獣と違って悪意の底が知れない。特にそういう身分に育った奴は歯止めが効かずにどんどん増長していったんだろう。
これから俺達は負傷者や犯人達を国軍に渡した後に同じ被害者、兼危機を救った英雄として王から謝罪とかがあるらしい。が、それは断った。あの場にまた引きずり出されると、何されるか分からんって俺が泣き真似してすっごい駄々をこねたからだ。
後からエレノアに聞いた話によると、ボロゾフの奴は近衛騎士団を私兵と丸々すり替えて、元の騎士達を奴隷身分に落とした挙句、喉を潰して喋れなくして死の森送りにして口封じをしていたらしい。たかが伯爵の身分でそんな戦力を使えるということに疑問はあったが、あいつ自体が団長というポジションに無理矢理収まって武力で他の貴族も抱え込んでいたようだ。
その上、他の貴族が兵役として子息を死の森へ送る時の身代わりの奴隷が商売になると気付いて以来、精力的にスラムで人攫い紛いのことをして奴隷狩りを強行していた。二十年以上に渡って繰り返された愚行だが、それを覆そうとする第二王女に対しては殺害計画も企てていたみたいで、あの日俺達がダンジョンから出るのが遅かった場合中で襲われていた可能性があったんだとか。そのためにダンジョン前に居たのかあいつ、マジで腐ってる。
王様も全てを知っていたらしく、今回の騒動を利用してボロゾフを泳がせて確実に失脚させるために、エレノアやデクタス公爵と一緒に頼み込んで姉達が突入するのを遅らせてもらったらしい。
結末として奴にはこの国で最も重い刑罰である斬首刑にされる予定らしい。普通は終身刑と同じ意味を持つ死の森終身雇用だそうだが、事が事なのと他の貴族に対する示威行為もあるみたい。エレノアから聞いた話はこれで全てだ。
だけど、俺は一つ考える。もしかしたらこの国がガレラ村の危機に動いてくれなかったのはボロゾフが原因だったのでは?と。乗っ取られた近衛騎士団を差し置いて、王を守るための国軍を動かして村に注力した結果、謀反が起こる可能性があったのではないか。
近衛達は本来は王を守る存在だから他に出向くことはない。つまり戦力を出すとしたら他の一般兵で構成された軍隊だ。どうしても討伐に向かうと守りが薄くなる。だからこれまでずっと放置されていたんじゃないか。その事を姉達に伝えると、巡り巡って全てを解決出来たと晴れやかに笑っていた。
そして一ヶ月の月日が流れ、秋が終わりを告げ冬がやってきた。




