第44話 捕まっちゃった
そんなわけで。さっきドロップした武器の使い方が分からなそうだったので、教えたりしながら短い休憩時間は終わり、いよいよこの第四階層を進もうという雰囲気になった。多分腋に抱えて、グリップを握ってトリガーを引けばいいだけだから、まぁ、簡単だと思う。問題は人の体でこんな物を使うと反動がすごくてどうなるかわからない、ってとこかな。
「ちょっと強めに特定を使っておくか。遠くからさっきのような例外が来ても対応出来るようにな」
「うむ、それがよかろう。前から思っていたが便利な魔法だな。小隊に一人使い手が居れば生存率が跳ね上がるではないか」
「そうよねぇ~、今じゃ慣れきっちゃって足跡の探し方とか忘れちゃったわよ」
「それはそれで問題であるな。訓練は怠らないようにせねばならん」
皆で雑談しながら慎重に進んでいく。ここからは割と高位の冒険者でも命を落とすことがあるので気が抜けない。出てくる魔物は低層の色違いが殆どだけど、耐久力と攻撃力が段違いなのだ。
「どういうこった。先に続く階段が封鎖でもされてんのか?」
なにか不測の事態が起こったらしい。やっぱ簡単に終わるというわけにはいかないか。
「なにか分かったの?クリス」
「⋯⋯最下層への道が無い。いや、待て。これは⋯⋯⋯壁がゆっくり動いているな」
「一体この先はどうなっているのだろうか、もう少し進んでみなければ分からんか」
「三階とおんなじで敵がぜんぜんいないし、こわいね⋯」
この階層にも魔物が全く居ない。俺も念の為特定を飛ばしてみるが、動く物体は一つも感じられない。姉が言っていた動く壁?のような物が突き当たりにあるくらいだ。
「様子がおかしい。アリスが魔法を使ってから壁が急に動き出したぞ」
「あたしの?」
「⋯⋯全員横に飛べ!」
急に姉に抱きかかえられて、俺の視界がすっ飛んだ。それと同時に、俺達が居た場所に緑色をした、ケミカルな感じの触手の様な物が通り過ぎていくのが見えた。
「なにこれ!?水!?」
色々と詳しいティナも見覚えがないものらしい。警告のお陰で全員既の所で回避できたようだが、目の前にはウネウネと波打っている半透明の液体があった。
「動く壁が伸ばしてきやがった!」
「これは、このダンジョンの最奥に居るボスの攻撃に似ているな。聞いた話では触手を伸ばしてくるスライムらしいが」
「そのボスの攻撃がなんでここまで届いてんだよ?まだ四階層だぞ」
獲物に当たらなかったのが向こうにも分かっているのか、俺達を襲ったボスと思しき魔物の触手が引っ込んでいく。結構太めで、人間の頭大はあったから、命中していた場合はかなりの衝撃で転倒していたかもしれない。相手がスライムと言うなら粘着性がある体をしているので、そのまま捕食も出来る攻撃というわけか?えげつないな。
「わからん。さっきのワイバーンのように変異した個体かもしれない。何にせよ、奥へ進むのなら倒すしか無いだろう」
「それはそうだけどまだ私達には目視すら出来てないのよね」
「特定で攻撃の予兆が分かるのが救いだな。また来るぞ、今度は数が多いな⋯アリスは後ろに下がってな」
「う、うん」
俺も念の為再び特定を使って確かめる。これは、数が多いどころではないな。密度が高すぎる。一階層で相手にした魔物の群れと同じくらいの数の触手がこっちに向かってきてる。このままの立ち位置だと本格的に足手まといになりかねないし、大人しく下がるとするか。
「たしかにあれは回避も困難だな。ならば、私も本気を出すとするか」
そう言ってエレノアは、持ってきてもらったという宝剣を二本とも抜いて、柄頭を連結させた。なんだっけなあれ、両剣?ツインブレード?っていう種類の武器だっけ。フィクションでもあんまりお目にかかれ無いレアな剣だ。二刀流でもすごいけど随分クセが強いチョイスだな!
「ほぉ、それがお前の本来の剣か。久々に使うんだろ、大丈夫か?」
「私からすると普通の剣のほうが扱いづらいくらいだ。なにせ軽すぎてな?」
「そいつは頼もしいな、戻ったらぜひ手合わせ願いたいね⋯⋯来るぞ」
目の前に物凄い密度の触手が伸びてきたが、エレノアはまるで踊るように体を回転させつつ全てを切り落としている。すごいなあれ⋯⋯体どころか腰、肩、腕、手首と全てを軸にしてまるで竜巻みたいに剣を操っている。ちょいちょい風魔法も使っているのか本物の小型の竜巻も飛んでいるのがセンスあるな。確かにいつも見ていた二刀流とは天と地ほどの差がある立ち回りだ。
「こいつは私も負けてられないな!ティナ、援護は頼む」
「オッケー、水撃!水撃!」
姉達も戦闘に参加し始めた。クリスは普段通りミスリルの剣を使い、真面目に身体強化で一本ずつ切り払い、ティナは二人が戦いやすいように先手で数を減らしていく様に魔法を撃っていく。これは時間の問題だな。三人とも米で強化済みだし、このままならこちらの体力が無くなる前に相手の体積が無くなる方が早いだろう。
「ちょっ、え?きゃぁぁぁぁ!」
と、油断していたのが悪かった。気づくと俺の足首に一本の触手が巻き付いており、そのまま奥まで引っ張り込まれてしまった。なんで俺!?
「アリス!クソ、水場を這わせて隠していたのか!」
「アリスちゃん!水――」
「待て!今撃つとアリス嬢を巻き込む!追いかけるしかないぞ!」
「~~~っ、そうね⋯⋯必ず助けるから待ってて!」
そのままかなりの距離を引き摺られて動く壁のあった場所で目にしたのは、通路一面に広がって文字通り壁のように肥大化したスライムだった。もしかしなくてもこいつ、この階層の敵どころか五階層の魔物も全部食いやがったな?さっきのワイバーンすら飲み込めそうなデカさだ。半透明とは言え向こう側が見えないほど厚みがありやがる。
っと、冷静に見てる場合じゃないな、このままじゃ取り込まれてしまう。とりあえず今なら巻き込む心配もないし、魔法で迎撃してみるか。
「爆音!」
俺の手からドカンととてつもない音と共に破壊の音波が広がっていく。が、無傷だと!?普通のスライムなら一撃で消し飛ぶ威力のはずだ!こいつ、中々に硬いのかもしれん。ならば!
「音斬!」
指先からLv2の超音波で敵を切り刻む魔法を発動する。しかしこれも表面を傷つけるだけで大して効果はなさそうだ。もしや俺、このスライムと絶望的に相性が悪い?そりゃそーか、ほぼ水で構成されてる体っぽいしな。ただの水でも潜ってる状態だと全然外の音聞こえなくなるし。核は見えてるけどそこまで届く攻撃魔法なんて、今の俺には無い。非力感を感じていると、遂にスライムの中まで引っ張り込まれてしまった。
やば、詰んだかも。




