第42話 蹴散らしちゃった
通路を埋め尽くす量の魔物の大群が俺達に向かって押し寄せてきている。これは近接で捌くのは無理だな、数が多すぎて剣が当たった瞬間に文字通り飲み込まれてしまう。ならばここで俺が取る選択肢は、少しでも邪魔にならないようにティナの後ろにくっついていることだろう。
だって俺だけ何も出来ないしさ⋯⋯音魔法って単体攻撃がほとんど無いし、範囲攻撃はデバフとかと味方と自分の耳を犠牲にするものばっかだ。いざ危ない時に逃げようとしても身体強化はなんでか使えないし、憑依も時間制限付きと来たもんだ。やってらんねぇ!
「ティナ、私達で時間を稼ぐ!その間にデカいやつを一発頼む!」
「了解!」
入口から向かって真っ直ぐ一本道の通路、退路はない。ここで逃げれば全ての魔物が俺達を追って外に出てしまうかもしれない。クリスは消音で俺達に結界を張ってから、手だけを外に出して爆音で直線広範囲を薙ぎ払っている。エレノアは風魔法を使って先頭集団を細切れにして戦っていた。
俺に出来ることはなんだろうか。ここで見てるだけっていうのも何だし、ちょっと引っかかってることもある。さっきティナは魔物の共食いを初めて見たと言っていた。表でも普段何食ってるか分からん連中が、ダンジョン内という更に食料が足りないだろう環境で共食いする意味とは?
単純に腹が減って食い物が足りないだけなら、さっさとこんな所抜け出して街を襲うべきだろう。魔物が普通の動物と明確に違う点⋯⋯やはり魔素だろうか。魔素が足りない?いや、足りないなら弱るかするだろう。だがこいつらは暴走状態にある。ということは、過分に取り込む必要があるのか?何のために?
「行けるわ!離れて!」
ティナの合図で二人が後ろに飛び退き、あの日見た水属性のLv3大魔法《大海嘯》が叩き込まれた。今の大幅に上がった魔力で放たれたそれは、押し流すなんて生易しい物ではなく、触れた物を悉く粉砕しながら奥に進んでいく奔流だ。やはり逆らってはいけないのだ⋯⋯。
「ふぅ、なんとか一息つけそうだな。皆、負傷はないか?」
「私は大丈夫だ。お前こそ無理してたみたいだけど魔力は大丈夫か?」
「大事無い。幼き頃から修練の日々だったからな!」
二人は平気そうだ。これで少しは時間が出来たようだな。前に聞いたことがあったが、聞き流して居たので確認がてらもう一度教えてもらうことがあるからちょうどいい。
「少し聞きたいことがあるんだけど、魔晶石って強い魔物から出るんだよね?」
「ええ、そうね。死の森の魔物が持つ高濃度の魔素が固まったものらしいわ。でも何だって今そんな事を?」
ティナの言う通りだとするならば⋯⋯こいつらの目的は、生物濃縮か!魔物同士で食い合って魔素を集めようとしているのか!?その行き着く先は死の森と同クラスの魔物の出現か。これはヤバいな。さっき出てきた奴らの中にも普段見るより大きめのサイズがちらほら居たし、もしかしたら更にイレギュラーな存在が生み出されるかもしれん。
「早めに奥までたどり着くか、敵を全部倒さないと不味いかも」
「⋯⋯何か分かったのか?話してみろよ」
俺は、憶測の域を出ないが、と前置きして共食いの意味する所を三人に話した。
「つまり、一刻も早く解決しないとここが死の森と同じになるって?」
「たぶんね」
「空恐ろしいな。唯でさえ今は死の森が活性状態で守りが足らんと言うのに。この状況でそんなものが外まで溢れかえってしまうと王都は壊滅するぞ」
「私達が今やるしか無いってことか⋯」
「もう少し人手が欲しい所だったけどしょうがないわね。急ぎましょう!」
このダンジョン、武甲迷宮は五階層で出来ているらしい。奥に行くほどに小物は減って、亜種とも言える色違いや大きさの違うものが出てくるようになる。恐らくは低階層の雑魚が魔素を集めると奴らになるのだろう。そう考えるとまだ変異をしていない状態で出入り口を確保できたのは運が良かった。だが、三階層に辿り着いた俺達が目にした物は驚愕の一言だった。
「なんでこんな所にワイバーンが居るんだ!?」
「分からん!死の森でしか目撃報告はないと聞いているぞ!」
やっぱりそういうことか。一体どういう進化経路なのかサッパリ分からんが、下層の濃度が高い魔素を取り込み続けた結果がこれなんだろうな。だが、ここが狭い通路なのが幸いだった。普通だと空を飛んで恐るべき速度で急襲してくるんだろうが、この狭さではただの羽が生えたトカゲに過ぎない。少々驚きつつも体がギチギチにつっかえて身動きが取れなくなっていたワイバーンの首を姉が撥ねて一応の安全は確保された。
ついでに装備がドロップしたが⋯⋯なんでこんな物騒なものが出てくるんだ?杭が先に付いた鉄塊の様な物なのだけれど、ロマン武器の類だなこれは。そして、普段は撃破した人に吸収される魔素が一箇所に集まり固形物になってクリスの足元に転がってくる。
「うわ⋯⋯ホントに魔晶石が出やがった。あと、何だこれ?」
「アリスちゃんの言ってた通りねー」
「先を急がねばこの国が危ういか」
「今のワイバーンが食べたからここにはあんまり魔物がいないみたいだし、急ごうよ!」
四層目に着いたが、そこには他の冒険者達が体を休めていた。この状況で良く無事だったな、フロア移動の階段付近で待機していたのが良かったのかも知れない。何故かこの辺りはそこまで魔物が沸かないらしいからな。
「お前ら上から来たのか?」
俺達が階段を降りきった所で話しかけられた。こいつはギルドでよく見るチンピラだな。ここまで降りてこられるということは、それなりに腕が立つらしい。いっつも酔っ払って絡んでくるけど少し見直した。
「ああそうだ。私達が来た道は掃除されてるから再湧きする前に逃げろ」
「逃げろって⋯何が起こってるんだ?それに上にはワイバーンが居るんだぞ?俺達はアレを見てここで立ち往生してたんだ」
一般冒険者ではワイバーンに敵わないらしい。まぁ相手が動けないとは言え一切怯まず殺しにかかるなんて姉くらいのものか。出来る出来ないは別として、だが。たぶんソウルイーターとの一戦の経験で強さを測れるようになったんだろうな。
「通路に詰まってるやつなら始末しといた。だから今なら通れる、早く行きな」
「マジでやったってのか?⋯いや、じゃなきゃお前達がここに居る説明がつかんな。スマン、恩に着る」
帰り支度をして戻ろうとしていた冒険者達をエレノアが引き止めた。
「待て、その前に話しておくことがある。外に出られたら私の名を出してデクタス公爵と王家に救援要請を出して貰いたい」
「ああ、わかったが⋯⋯アンタは?ただのAランクじゃそこまで権限がないだろう」
「私は第二王女エレオノーラだ。今は詳しい説明は出来んが、これを持っていけ」
そう言うとエレノアは、綺麗なストレートの黒髪の先端をナイフで自ら切断し、紙に包んで渡した。
「王女様!?どうしてこんな所に⋯⋯いえ、失礼しました!大切にお預かりします!」
チンピラは丁寧に包まれた紙を懐にしまうと、仲間を連れて上層への階段を上がって戻っていった。
「あいつらがここを確保してくれていたのは助かったな」
「そうだね、少し休む?」
ここまで戦闘しながら突っ走ってきたんだ、疲れはあるだろう。最下層はボスがいるらしいし、もしもこの階層で敵に追われるような事態になると、そこの階段で休むことは出来ないのでそう提案してみる。
「そうすっか。戦闘の直前で補給するわけにもいかないし軽く腹に入れておこう」
軽食の干し肉とタレと俺特製おにぎりを出して、軽く休憩を取ることにした。この先何があるのか分からないので、エレノアにもこの米を食わせておくべきだろうか。そう考えつつ、一時の休息で体を休めるのであった。




