つまり、この部屋は生徒会のせいにちがいない
内出屋君がしこたまいい負かされて恥ずかしい思いをしたあと。
出る方はともかく、空腹と喉の渇きは割と冗談ですまなくなっていた。
少しだけ落ち着いて、お互いの手持ちを確認してみたりしたが、まぁ見事にポケットの中も手の中も、見事に食べ物も飲み物も何一つない。
クラスの中でなら誰より用心深く用意周到であると思っている内出屋君までなぜ、その体たらくなのか。
話はこの部屋に来る少し前を語ることで説明できる。
つまり、これからの話は、閉じ込められる状況のほんの少し前の時間まで、時間は巻き戻る。
「うちの、樟恵世華呼から概要は聞いているとは思う」
「ま…ちょっとは」
生徒会室。
いやその前の部屋である、生徒会が主に使う小会議室の中。
生徒会側が全員揃ってはいなかったが、並んで出迎えて口撃の体制をとっていた。
主に仕掛けるのは、もちろん副会長。
「ここ数日で起きている生徒の急性の意識不明増加事件だが、正直一人出た時点で動いて解決できないのは、生徒会側の落ち度ではある」
「……ならそっちだけで解決してほしいよなぁ」
わざわざ仕掛けに乗るように聞こえるよう返すのは、内出屋君くらいである。
そこまで生徒会に睨まれたくないのが普通である。
「犯人が正体不明である以上、後手に回るのは許すとして、不甲斐ない我々の担当を一度は叱責したうえでの君たちの出番なのは、一応覚えていてくれたまえ」
「恥は晒しました、と言う前置きはいいんですよ……長引くなら帰宅させてもらいますよ探検部はそろって」
早く立ち去りたい。
そこだけを見せつけるような態度に、ことさら生徒会と探検部の空気の境目がギスっとしていく。
「まぁまぁ後輩、そんな楽しそうに噛みつかんでも」
「時間って無限の資源じゃないんです、知ってましたか生徒会」
「そこに関しては私も同意見だが、呼び出した説明くらいは君たちも聞きたかろう探検部」
空気の悪さになんとか制止を試みる先輩、城戸と、気にも留めない副会長。
散々何か言われたのか、割と萎縮気味の生徒会一同。
顧問が逃げたり、そもそも来たくなかったりして、招集に応じた探検部も少数。
総数5人。
今日入ったばかりの新人含めて。
逃げ遅れた負け組と呼んでも差し支えない。
それでなんで、こうもぶつかる気になるのか。
「異歴図書館で司書から預かった本、と言うのを君たちは所有しているね?」
「……してないですね」
「誘拐犯から出てきた初めての、尻尾をつかめそうな情報と要求なのだ」
「つまりまだ犯人像もつかめる気がしないと」
「そうなるな」
「……仕事、おそいんじゃないですか生徒会」
生徒会の副会長以外が、明らかに挑発されてピリッとする。
「脅迫文からわかるのは、連れ去られたのも実行犯も同じ…校内の生徒だ」
そこはわかるのか。
違和感は感じたが、そこで長々探っても、おそらく引き出せる情報も少なかろう…。
そう内出屋くんもそこは流す。
「よって、強硬策でただ追い詰めるのは我々も生徒への配慮で行わないし、大半の生徒への怯えを増長もすべきではない」
「後手後手ですな」
「そういうズケズケした正しい意見をうちでも見習わせたい気持ちは、少しあるな」
負けずに、と言うべきなのか。
副会長の、少しとげを含んだ言い回し。
……が。
それはどちらかというと、生徒会側に向けられているようにも感じる。
そういう教育の場なのか?
それに付き合わされてるだけ?
内出屋くん、時間を取らされている理由をさらに勘繰りだす。
「そこは私が止めてみせるくらいの気持ちですので…」
生徒会側の中で、そんなとき何とか出てくる空気のかき回し役。
独自の空気を持っている会計くんが、何とか、話を進めに来た。
「会計は堅苦しいほうが好きっぽいが、それは君の言うアレにほんとに合致しているのかい?」
「スマートでスムーズは美しいでしょう?」
「ま、それはそうか」
いちゃつきを見せられるために集まってんじゃねえぞ。
そういう怒りがちょっと出たりもするが、そこは紳士でありたい内出屋くん。
「とにかく、犯人の誘導と捕縛等の対処はうちの範疇なので関わる必要がないことと、エサとして初めて出てきた相手の要求に君たちの協力がいる……そこだけははっきり私から伝えなくてはいけなくてご足労願ったわけだ、副会長はね」
それだけ言いたいなら、最初からうちの部室に会計が来いよ!
そう内出屋くん、叫んでみようかと思った。
しかし…まぁ。
隣で、割と悲しそうな目で探検部の先輩がジェスチャーしているのが、さすがに目に入るとそこまではできない。
荒立てたくない勢力がいるというのは、難しいものだ。
「とはいえですよねぇ、協力を頼みたいならこっちに来て頭の一つでも…」
「まぁまぁ、要約されるのは、とてっも!助かります!」
内出屋くんの愚痴をついに口をふさいで止める先輩。
「それにしても…」
そこに。
じっくり聞いていた新入部員、麗が口を開く。
あの態度の連続から、ここではよく黙っていたものである。
「健康被害の拡大、それって外部報告必要なくこんなに狭く行うものですの?」
そうだが。
「校内でひたすらうわさ話に花が咲く、そんな感じも、怖いという不安げな空気も全く感じてないのですが?」
「もちろん、隠せるうちは『急な用事で実家に向かったという届け出を預かっている』などの通知を生徒会から出して表は装ってはいる」
「なにその……」
片手間くらいに、内部の生徒が状況のねつ造をするのは、転入生にとって、そりゃ驚くだろう。
生徒会って何の権限がある組織なのかと。
「当事者に近い友人などにも口止めは行っているので、いつものことで今は収まっているが、まぁ続けばこれもすぐ破綻はするだろう」
「やり口もですけど、そんな必要、生徒がする必要……なんなんですの、ここ」
「確かに外から見ると特殊かもしれないですね、上増名木のご令嬢の通った道からはトラブルなど起こり得もしないでしょうし」
「まあまあ、格式を金で買った家系はいうコトが違います事!」
「おいおいおい」
髪をかき上げて、副会長におもむろにメンチきる新入部員。
しかも初手、家柄と格式でマウント取りに来たような見下しをやってきた。
内出屋くんよりよほど喧嘩売ってる。
「なんか怒ってません? なんで急に臨戦態勢しました?」
周り中が、急にざわっとしてくる。
言葉を何も発していないようで、副会長が地味にイラっとした空気なのを察したようであった。
内出屋くんも、会計からの不意な目の信号でこれを察し、新人のラインを急に超えた行動に慌てる。
なんで?
急に何でこの新人は別方向に空気悪くしに来た?
「まぁまぁ、話は聞いたし、探検部そろそろ退出しましょうかねぇ~」
「……別に怒ってなんていませんが? 誰かのためにつられて不機嫌になったような、都合のいい考えでもして…って…」
何時間でも続きそうな気配と気まずさを感知し、探検部側の先輩が早々にギブ。
「うちとしても、要請がない限りは勝手に捜索依頼を強行しないし数日はもの探ししときますーでいいのよね?」
「助かります探検部」
「つほっちゃんメモしといてねメモ」
「は、はぃぃ」
ドアに向かって押し出すような体制をしながら、横の後輩、津保玲穂に記録係を押し付ける流れるような責任と現状逃れの連鎖。
「樟恵世くん、お手伝いを」
『今日はもう店じまいだよケーレケーレ(゜Д゜)』
書記さんがそんな入力をわざわざした後にドアを開けて退場をスムーズに手助けする。
で、一息つく予定……だった。
「…………え」
…が、瞬間で、内出屋くんの顔が石壁に当たる。
石レンガ。
校内の壁だとして、そんなのどこにあったものか。
ひんやりとして固いそれに、ドアから出て感覚としては2歩程度で遮られた。
正直、意味が分からない。
『おいおいマジかよ、誰もいなくねぇここ(=^・・^=)』
「えっなんの話をして……って、なんだここ」
『転移床仕掛けられたかしらねぇ((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル』
「知らない場所に謎の手段で閉じ込められる異常事態でよくそれ維持できますね生徒会…」
何の予期もせず、そうしてこの部屋の中にいることになったのである。
本当に何もわからず。
カバンのひとつも持っていたら、ペットボトルに飴やおやつ程度は期待出来たろうが、さすがに。
そして。
「……いや、同時に部のみんな出てきたはず…なのになんで……いないのかは………わかります?」
『ランダム転移だったんじゃねえの(=^・・^=)』
「て! 言うよりも! 当たり前みたいに言われる転移床って何!?」
『そりゃおめぇ転移する床だよ( 一一)ダンジョンゲーやFPSでよくあるポータル、知ってんだろう?(;゜Д゜)』
「現実で、当たり前にそこにあるかのように言われたことなんてありませんよ!」
『探検部だったらそんなの普通じゃんねえ(=^・・^=)』
そうかなぁ…。
とにかく、ある……らしい。
『ただ、生徒会の使用エリアは魔法部謹製の対オカルト領域なんだって聞いてるんだが((+_+))』
「……ダメダメじゃないっすか」
その設定から意味が分からないので、無茶苦茶ですね、としかもう返す言葉がない。
「ともあれ、話を現状に絞ってまとめますと」
『どうなるの(*'ω'*)』
「部屋、この狭さで二人っきりは気まずいっす」
『嘘でも、こんな間近で美人と二人っきり!ありがてえ!!って言えよ( ;∀;)』
「……え~……無理」
できれば空気はいいまま使いたいが、内出屋くんは即答した。




