第9話 クレイジー・カップス ②
「さて、まだわからないことばかりだろうから、今回は硬君が守備から始めようか。」
玉木硬は頭を必死に動かしていた。このゲームの勝ち方を考えていた。
~クレイジー・カップス~
・攻撃側は賭け金を提示、その後守備側は倍率の書かれたカップにボールを隠す。
・攻撃側はカップの中を見るチャンスは「チェック」と「アンサー」の二回。
・チェックでボールを当てた場合、攻撃側は守備側から賭け金のみを獲得できる。
・アンサーでボールを当てた場合、攻撃側は守備側から「賭け金×倍率」分の金額を獲得できる。
・アンサーでボールを外した場合、攻撃側は守備側に「指定した倍率」と「正解の倍率」のうち、金額の大きい方を支払わなくてはならない。
「そうだな、手始めに賭ける金額は1万円だ。さ、僕は後ろを向いているからボールをしまっていいよ。」
始まった。このゲーム正直ずっと引っかかっている違和感がある
チェックという要素。この要素の必要性が俺には理解ができない。それならアンサーを2回できるようにすれば良いじゃないか。
何か意味があるのか?
「硬君~?いれた~?」
「あ、まだです!」
いや、今考えても仕方がない。
とりあえずどこにボールをしまうかだ。守備側で一番いいのは攻撃側が外して、3倍を手に入れること。だが、攻撃側もそれを阻止しようとするはず。
となればチェックの際に3倍を選択するのが、最も安心な手だ。
だから、×3にはおけない。となると次にいいのは×2.5か?
「・アンサーでボールを外した場合、攻撃側は守備側に「指定した倍率」と「正解の倍率」のうち、金額の大きい方を支払わなくてはならない。」
というルールの都合上、攻撃側はアンサーしづらいはず。チェックで選ばれず、アンサーでも選ばれにくい。
やる価値はある。ここをアンサーするのには勇気がいる。
ここなら相手を知れる。ミライさんが勇気ある人間か。
「×1」「×1.5」「×2」「×2.5」「×3」
〇
「入れました。」
後ろを向いていたミライが振り返る。
「結構かかったね。さてと、まずはチェックからかな。」
ミライは手を伸ばして、「×3」を手に取った。
「チェックはここだ。」
↓
「×1」「×1.5」「×2」「×2.5」「×3」
〇
開かれたそこにボールは無い。
「あちゃー、外しちゃったか。じゃあ次はアンサー。」
ミライは手を伸ばし、カップの上空で止めた。季節外れのタンクトップから伸びる素肌の手は異様なほど白かった。
「何してるんですか?」
「これ?透視。」
「は?」
「うん。これかな。」
手に取ったカップは「×2.5 」
↓
「×1」「×1.5」「×2」「×2.5」「×3」
〇
呆気なく1ゲーム目は終わった。そのスピード感についていけず一瞬思考を放棄した。
「あ、ボール出てきた。俺の勝ちだね。」
そう言われ始めて我に返る。
透視?イカさまをしてるのか?
どうする?無理やり止めて身体検査とかするか?
いや、証拠がない。ただのハッタリの可能性もある。
「わ、分かりました。」
大丈夫。たかが2万5千円。まだ何とかなる。
硬 残金:46万→43万5千円
それに収穫もあった。イカさまをしていないなら、ミライさんは勇気があるタイプ。
決断の速さからして、あまり考えない、勘で動くタイプだ。なら、勝機はある。
だが、もしイカさまをしているのなら…
「次は硬君が攻撃の番だよ?いくら賭ける?」
今考えていても仕方がない。とりあえず、ミライさんのことはよくわかった。勇気ある人だ。なら、強く張っても高倍率に置く可能性は大いにある。
「…5万円」
「おお!結構行くね。本当にいいの?」
彼の手が前髪を執拗にいじっている。
「はい。大丈夫です。」
「おっけ、じゃあ後ろ向いといてね。見ちゃだめだよ?」
ミライさんはどこに入れるだろうか。×3にはまず入れない。チェックの時点で当てられる可能性が最も高いからだ。
なら、さっきの俺と同じ思考で×2.5か?
あり得る。だが、逆に小さい×2や×1.5の可能性も。
少なくとも×1は無い、と思う…だってそれは臆病者の取る選択肢だ。
「良いよ~。」
ミライの声で振り返る。
並べられた5つのカップはまるで何かの儀式のように見えた。
「さ、まずはチェックだ。」
チェック。ここで当ててしまうと倍率を得ることはできない。
なら、ここはあえて外して、次の高倍率にかける。俺が必要なのは100万だ。5万円を拾うことが目標ではない。高い賭けには高いリスクが伴うんだ。
俺は翠さんから学んだんだ!
俺はラピダリーに入るんだ!
「チェック」
↓
「×1」「×1.5」「×2」「×2.5」「×3」
?
選んだのは×1。本番は次だ。次が大切。
↓
「×1」「×1.5」「×2」「×2.5」「×3」
〇
「え?」
出てきたのはボールだった。
「大正解。やるね、硬君。」
当てた?なんで?
「はい、5万円。」
「あ、ど、どうも。」
なんだ?何が起こったんだ?
…そうか。
俺がアンサーで×3や×2.5を選ぶと読んで、あえて一番安い「×1」にボールを置いた。…のか…?
本当にそうか…?
「じゃあ次は硬君が守備だね。」
そう言ってミライは硬にボールを投げる。
「え。あぁ。はい。」
ボールをキャッチするのに意識がいき、思考は吹っ飛んだ。
構えをできていなかったからか、ボールの重みが手のひらに広がる。
硬 残金:43万5千円→48万5千円。
「さて、次は僕の番だね。金額は2万円だ。」
守備。さっき奴は透視ができると言っていた。
本当か?それを確かめる。
もし本当にイカさまができて、百発百中で当てられるのなら×3や×2の高倍率に入れるのは大損するリスクが高い。
ここは当てられても被害が最小で済む安全策を取り、×1に入れる。これが正解だ。
「入れました。」
「おっけー。じゃあまずはチェックだ。」
↓
「×1」「×1.5」「×2」「×2.5」「×3」
〇
迷いなくミライは×3を開けた。当然空。
「さて、次はアンサー」
カップの上に手をかざす。
「ムムム…ここだ!」
↓
「×1」「×1.5」「×2」「×2.5」「×3」
〇
開かれたのは×2。外した。
「あちゃー4万円支払いかぁ。仕方ないな。はい。」
そう言って4枚の紙幣をミライは硬に手渡す。
「あ、どうも。」
呆気に取られていた。
さっきのは、まぐれ?
硬 残金:48万5千円→52万5千円
「さ、次は硬君の番だよ。」
「じゃあさっきと同じ5万で。」
「お、いくねぇ。じゃあ後ろ向いてて。」
妙だ。さっきからずっと妙なんだ。
「良いよ~」
さっきと同じ考え方で行く。
「チェック。」
開くのは×1。
↓
「×1」「×1.5」「×2」「×2.5」「×3」
×
「×1」は空だった。
「さ、次はアンサーだよ。どんどん行こうか!」
どれがいいんだ?とりあえず「×3」とかで行くか…
手を伸ばし「×3」のカップの前で我に返る。
…いや、ダメだろ。何ボーっとしてんだ。
ゲームの進行速度のせいか、ミライの軽い性格のせいか、いつの間にか思考を止めていた。
結果論だが、チェックの時だって、2連続で1を確認するのは軽率すぎたかもしれない。
考えろ。奴からしたら、俺はどう映っている?
さっきの「×1」に入れていたことを考えると、俺がアンサーで高倍率を選ぶ男だと奴は思っている。なら、本命の「×3」や「×2.5」の高倍率と、チェックで潰されやすい「×1」や「×1.5」は選ばない。
となると残るは、ここだ。
×2に手を伸ばす。
↓
「×1」「×1.5」「×2」「×2.5」「×3」
〇
「残念。正解は1.5でした。というわけで2倍の10万円になりま~す。」
これは、どういうことだ?俺がまた高倍率に行くと予想していたのか?チェックで当てられる可能性のある「×1」を避けただけ?
それとも、ミライは読みなんてしていない?
「…10万です。」
「ありがとう、じゃあ次は、俺が攻撃だね。」
もう少しで、違和感の正体にたどり着けるそんな気がした。
硬 残金:52万5千円→42万5千円
「賭けは2万でいいかな。」
透視の正体が分からない以上高倍率に置くのはリスクが高い。
「×1」にボールを隠す。
チェック「×3」 空
カップの上に手をかざす。
アンサー「×2.5」 空
2×2.5=5万円獲得。
「あちゃー。ハイ、硬君。」
「あ、ありがとうございます。」
硬 残金:42万5千円→47万5千円
「いくら賭ける?」
「…」
変だ。さっきからずっとミライは軽すぎる。
翠さんのような強者故の軽さではない。
翠さんでさえ心理戦ではブツブツと独り言をしながら長考していた。
なのにこの人は早過ぎる。
「おーい?硬君?」
ミライは負けることを何とも思っていない。
「集中しちゃってるなぁ…うぅ、寒。ちょっと上着、着るね。」
そして、多分ミライは勝つことも何とも思っていない。
「このパーテーションって結構隙間あるよね。」
じゃあ何が目的だ?勝敗の先の何かを見ているのか?
「透視能力って結構簡単に身につくんだよ。」
だめだ。俺には物事を冷静に見る目が無い。でも1つ分かることがある。
俺はこの先こいつと戦っていても、あの熱を帯びることは無い。
「お~い!いい加減にしてよ~!硬君?いくら賭けるの?」
顔を上げるとミライは厚手の上着を羽織っていた。
「あ、ごめんなさい。ええと…1万で」
「あれ?どうしたの?急に弱気じゃん?まぁいいよ。後ろ向いてて。」
後ろを向いても考えは頭を巡っていた。
「良いよ~」
今回は5万じゃない。1万だ。
奴はこれで何か変わるのか?それとも、また「×1」と「×1.5」か?
チェック「×1」 空
カップを手に取る。
アンサー「×1.5」 〇
硬 残金:47万5千円→49万円
「あちゃー、当てられちゃったか~。」
「いい加減にしてください。」
「え?」
ミライの思惑なんてわからない。なら聞けばいい。
「何が目的なんですか?なんのつもりですか?」
ミライの目が鋭くなる。彼の手は前髪に触れ、口角は少し上がった気がした。
「今のままじゃ、満足いかないってことかな?」
「ちが、そういうことじゃ――」
「良いよ。」
彼は机の引き出しをごそごそといじりあるものを取り出した。
「これがお望みでしょ?」
彼のその声に今までのような軽さは無く、代わりに確かな温度を感じることが出来た。
机の上に置かれたのは「×3」「×3.5」「×4」「×4.5」「×5」と書かれたカップだった。
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