第6話 high & low ③
「俺にその作戦は通用しないよ?highだ。」
「オープン」
6ターン目:正[3] 翠[6]
賭け金16,000→32,000円
「ど、どうして!どうしてhighで勝てると思ったんですか!?」
訳が分からなかった。確かに5ターン目で使われた6は被り負けが100%ない強いカード。でもhighかlowかまでは流石に分からない。むしろ、789と6以上の数字が多く残っている。なのにhighで勝った。
「簡単な話だよ。硬君。あいつは俺が前のターンに出したカードを出しているだけだからね。そうやって残りの手札を全く一緒にする。そうすれば、被りで俺らが負ける可能性が高くなる。そうでしょ?おじいさん?」
*
わしの作戦が見破られている。
だが、もう関係ない。
正:4789
翠:4789
作戦が通用しないといったが、ここまでくれば半分達成されたも同じ。ここから被らずにhighとlowも的中させるなど不可能だ。
次に奴は何を出す?奴はわしの作戦が通用しないと言った。ならここで出すべきは作戦関係なく、奴の癖を読み解く。
奴は端の極端な数字を好んで出す。実際その考え方はこのゲームにおいて正しい。となると次に奴が出すのは[4]か[9]。奴はこれまでhighとlowを交互に出している。なら、次に出すのはlow。[4]か。
よし、ここで潰す。できれば最後の二択で絶望させてやりたかったが、バレてしまった以上、余計なことをされる前に潰してやる。
正は[4]のカードを伏せた。
翠はカードを手に取り宣言した。
「high」
バカな!?highだと?さっきのターンもhighだったはず、奴の癖は――
「なに驚いた顔してんだよ。そんなに交互に宣言しなかったのが意外だったか?ならあんたはギャンブルに向いてないよ。オープン」
7ターン目:正[4] 翠[7]
賭け金32,000→64,000円
「な、7!?」
「はぁ、ここまで簡単に読めると張り合いがないよ。」
翠のため息とは裏腹に正の息は上がっていた。
「あんたの被らせ作戦は確かに強い。でも明確な弱点も1つある。それは1手目だ。当然これは相手のカードと被せることが出来ないから、あんた自身で選ぶことになる。」
「それが、弱点だと?何を言っている?」
「簡単な話さ、あんたはこの1手目にある癖があった。」
「まさか、翠さん!その癖って。」
「フ。硬君も気が付いたようだね。」
「は、はい。今回のゲームにおいて正さんが1手目で出した場面が二度ありました。1ターン目の5。5ターン目の6。そのどちらも、残り手札の中央の数字を出してました。」
「ビンゴ。流石、硬君だ。」
「で、でも、だとするとなんで今回は4だと?」
「作戦がバレたと考えたあいつは焦った。そうなると次に何をしてくると思う?」
「え?」
「ヒントは硬君も似たようなことをしていたよ。」
「あ、相手の手を読む…?」
翠が指をパチンと鳴らす。
「正解。正は多分、自分の中でルールを使っていた。1手目は中央の数字からってな。実際正しいよ、high lowの宣言で負かせられる可能性も高まるしね。でも今回は違う。やつは俺に見透かされてると思い、中央の数字を避けた。それが意識的かは分からないけどな。」
「で、でもそんなうまく行くんですか?これまでがたまたまだって可能性も」
「だから布石を張った。俺の出し方にもわざとらしく癖をつけた。交互の宣言、極端な数字から出す。この辺があれば、意識はそっちに行く。なおさら中央の数字を避ける。単純でしょ?」
翠はまるで教科書でも読んでいるかのように語っている。
「それより、早くだしてよ、8ターン目のカード。」
翠の目は狩人の目でもない、ゴミを見るのと同様の目だった。
く、やられた。奴を読むことすら読まれていた。落ち着け。いったん整理するんだ。
正:789
翠:489
奴は4を出せば確定で勝てる、本当の意味での最強カードを手に入れた。このターンわしの負けは確定している。
落ち着け、まだ可能性はある。この状況で奴はあえて4を出さずに8や9で勝負に出る可能性もある。ならここは被らせる目的で8か9を出せば良い。
だが、それも読まれていたら?もしかしたら奴はそれすら読んで4を出すかも、いや、逆にそれを読んで、裏の裏の裏を、さらに裏を、さらにさらにさらにさらに…
正は[7]のカードを手に取り、伏せた。
冷静に考えればこれでいいんだ。こうすれば残りは89の2枚。奴が4以外を出すとは思えん。確定で勝てるんだ。ここでリスクを冒す意味がない。勝負は次のターンだ。
「high」
…え?あいつ今highと宣言したか?ということは
「オープン」
8ターン目:正[7] 翠[9]
賭け金64,000→128,000円
「よりにもよって7を出しちゃうか。8ならまだ見込みはあったんだけどな。ここでの7は俺を倒すためのカードじゃない。思考放棄と一緒だ。そんなやつがラピダリーに入れるわけがない。」
翠は完全に正に興味を失っていた。
9ターン目、勝負の分かれ目。8か、9か。もうhighかlowかで奴を負かすことは不可能だ。なら、8を出して被らせる。そうするだけでいい。そうすればわしの勝ちだ。
だが…4が出たら?4に8を出してしまったら?わしの負けが確定する…
違う、その考えはだめだ。ここが勝負どころだ!ここで8を出せば、勝てる。
分かっているのに、分かっているのに…
いや、落ち着け。ここで、8を被らせる必要はない。最後、ラストターンでお互いの手札を8にすればいいだけだ。なら出すべきは[9]だ。
【8ならまだ見込みはあったんだけどな。ここでの7は俺を倒すためのカードじゃない。思考放棄と一緒だ。】
無視しろ、出すのは[9]だ。
【思考放棄と一緒だ。】
[9]だ。
【そんなやつがラピダリーに入れるわけがない。】
…くぅ。
…戦うんだ。
ここでの[9]は思考放棄と一緒だ!!
正は[8]を伏せた。
「low」
その声はあまりにも無慈悲だった。
「オープン」
9ターン目:正[8] 翠[4]
賭け金128,000→256,000円
「はい、勝ち。時間が勿体ないからこのまま10ターン目ね。と言ってもlowを宣言して」
10ターン目:正[9] 翠[8] 賭け金256,000→512,000円
「―――で俺の勝ち」
*
正は机に頭を伏していた。彼にとっての51万円がどれだけ大きいものかは分からない。
でも今の俺らにとっては十分すぎる大金だった。
「ほら、早く頂戴よ、51万今更嫌だなんて言うなよ。」
「…だ。」
「え?」
正は鞄を強く掴み前かがみになるようにして鞄を体で覆った。
「渡さない!!!少なくともお前のラピダリーの情報と交換だ!!」
ゲーム序盤の余裕そうな老人の姿とは思えないほどその姿は幼稚でみっともなかった。
「はぁ、ということは契約不成立で、賭け自体無かったってこと?」
「そうだ!お前にやる金は無い!代わりに買ってやる!情報を寄越せ、金は出してやる!」
「そうなると、亮さんに報告するしかないか。」
「ウッ。」
正の動きがピタリと止まる。
亮さんってあのバーの人か。もしかして凄い怖い人なのか?
「あの人の元にも依頼出したってことは分かってんだろ?今更わがまま言ってもしょうがないって。」
「…くうううぅぅ…。払い…ます…」
さっきまでのうるさかった老人が今度は静かに鞄からお金を出している。
「ありがとう、おじいちゃん。最後に良いこと教えてあげるよ。あんたみたいな雑魚、ラピダリーに行っても食い物にもされないよ。」
その言葉がとどめになったように、正はその場で白目をむいて倒れた。
「さ、いこうか。あと、この金は硬君の500円が元だからね。これはすべて君の物だ。」
そう言って翠さんは俺に札束を押し付けた。
「さ、バーに戻ろう。今度はタクシーでも使ってさ。」
翠さんの顔はさわやかな笑顔だった。
「え、ええと。そうです…ね。」
それなのに俺の顔はあまり、晴れていなかった。
それはマンションを出て道路でタクシーを待っている間もだった。
「どうしたの硬君?せっかく勝ったのに、そんなんじゃ気分良くないじゃん!」
多分これは聞かないほうが良い。聞いたら取り返しがつかなくなる。それに翠さんはこれを知ろうとした正に強く当たっていた。でも、それでも、
「あの!翠さんずっと気になってたんですけど、ラピダリーって何ですか?」
夜風が二人の間を通り過ぎる。月明かりが翠を照らし、口元の歯をきらりと輝かせた気がした。
続きます
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