第51話 東院連合①
物語の終盤に差し掛かりました。
Bar琥珀では御子柴亮が鈴間翠と玉木硬の帰りを待っていた。
あわよくば東院連合の情報が手に入らないか。そんな期待を胸に抱いていた。
過去を思い出し、亮の顔が険しくなる。
眉間にしわを寄せ、ドス黒い目がどこを見るでもなく、ただ空をとらえていた。
『カラーン』
その音でハッとする。
翠「ただいま~。」
硬「お邪魔します。」
亮「翠!硬君!」
大事そうに鞄を抱える硬を見て亮は安心した。
亮「無事勝ったんだな。」
翠「当然。ね、硬ちゃん。」
楽しそうに笑う翠に思わずつられてほおが緩んだ。
硬「はい!何とか勝てました。」
二人はバーカウンターに腰を下ろした。硬の顔はすごく嬉しそうだった。
硬「それに俺、運営の人に気に入られたみたいです。」
翠、亮「!」
照れ臭そうに笑う硬とは対照的に翠と亮の顔が固まる。
二人は目くばせをし、亮がうなずく。
翠「ねぇ、硬ちゃん詳しく教えて。」
翠の声は心臓を鷲掴みにされたかと思うほどに冷たかった。
亮の目から光が消えていた。
硬「え?ええと実は…」
*
~3時間前 十層監獄 賞金獲得時~
簾「さて、玉木君。改めて、折り入って相談があるんだ。」
灰釉簾は硬と握手を済ますと、彼の目をジッと見つめていた。
硬「相談って、なんですか?」
慎重な硬を見て簾はほおを緩めた。
簾「そんなに警戒しないでよ。仕事の依頼だよ。」
硬「え?」
廉は硬が呆気に取られているのを見ると言葉を畳みかけた。
簾「実はね、こういったイベントってラピダリーを通すと賞金の一部を先にラピダリーに払わないといけないんだ。いわゆる仲介料ってやつ。」
硬「そうなんですか。」
簾「うん。今回のギャンブルだって、本当は賞金3000万円なんだよ。でも、ラピダリーを通す以上、賞金の6割近くがラピダリーに吸われちゃうんだ。」
硬「…」
簾「だからこちらとしてはラピダリーを通さず直接依頼したいんだ。こちらもわざわざあの派遣会社もどきにお金を払うのは腹立たしいしね。」
硬「なるほど…で、でも何で自分なんですか?」
簾「なに、簡単な話だよ。カメラから見ていたけど、間違いなく今回のゲームは君が主人公だった。」
硬「え?」
簾「実際君の一挙手一投足で中継先は大盛り上がり、いわばスター選手さ。そんな君に個人的な依頼をしたくなるは至極当然でしょ?」
簾はポケットから名刺を取り出し、硬の札束の帯に挟んだ。
簾「…もし、その気があれば連絡してよ。いつでも歓迎するから。」
『ガチャ』
翠「硬ちゃん。」
*
硬「それで、翠さんが合流して」
亮「まったく同じ手口だ…」
翠「くそ、違和感あったんだ。あの時すれ違いざまの奴の顔はどこか変だった。」
硬「え?」
翠「普通なら1000万勝った参加者を見れば喜ぶなり悔しがるなりする。でもあいつは違った!」
翠の唇が震えていた。
翠「結果なんてどうでもいいみたいな顔をしていた!本番はまだ先だと言わんばかりの顔を!」
翠は見るからに力を込めて手を握りしめていた。
翠「硬ちゃん。貰った名刺見して!」
硬「え、ええと、はい!」
札束から名刺を抜き取る。
【イベント経営会社 サウスカンパニー
代表取締役 灰釉簾
電話番号 ○○○―△△△△―□□□□】
翠「サウスカンパニー…亮ちゃんどう?」
翠は震える手で名刺を亮に渡した。
亮は目の闇をその名刺に向ける。
亮「…硬君。その簾とかいうやつの襟元に何かバッジのようなものはついてなかったか?」
亮の声は暗く、低く、深く、そして恐ろしかった。
硬は思わず息をのんだ。
硬「襟元にはバッジはつけてなかったです。」
亮「…そうか。」
翠「じゃあ、断定はできない…」
二人は悔しそうな声で呟いた。
硬「あ、でも。襟元には付けていなかったですけど、ポケットからバッジのようなものを落としていました。」
【灰釉はポケットに入れた右手を差し出す。その拍子にポケットから何かが転がり落ちた。】
【簾「おっといけない。」
簾は足元のそれを拾い上げる】
亮「!それにはなんて書いてあった!?」
亮が大きな声で硬に詰め寄る。
硬「え、ええと確か「東院」って。」
亮「!!」
翠「本当に!?そう書いてあったの!?」
二人の圧に硬は押し潰されそうだった。
硬「は、はい。そうです…」
その返事を聞き、亮と翠は目くばせをし、お互い頷いた。まるで何かが解決したかのようだった。
硬「あ、あの?さっきから何なんですか?イマイチ状況がつかめていなくて…」
硬は恐る恐るだった。二人が今にも爆発しそうな、そんな雰囲気があった。
翠「…そっか。硬ちゃんは知らないもんね。亮ちゃん。こうなった以上、硬ちゃんには話すべきかもね。」
亮は目を瞑って大きく息を吐いた。
亮「それも、そうか…」
亮はお酒が並べられている棚に飾られていた写真を手に取る。
亮「そうだな…うん」
翠と亮、琥珀、羽の四人が映った写真。
亮「2年前。俺の弟、琥珀が翠と羽についで4人目の王石《crown》ランクになったあの日。」
亮は言葉を紡いだ。その声はどこか優しく、寂しそうだった。
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