第49話 十層監獄③
【10:38】
ドアノブが動かない。
まだ時間はあるはずだ、まずい、どうする。
玉木硬は焦りから冷汗をかいていた。
硬「開けてください!」
『ガチャガチャガチャ』
何度捻ってもドアノブは動かない。すると、
『…ガチャリ』
鍵が開く音がした。
翠「硬ちゃん、そんなガチャガチャやられるとドアが壊れちゃうよ。」
1階にいたのは翠だった。
硬「あ、翠さん…」
安堵の為か息がこぼれるように声が出た。
翠「とりあえず入って。」
翠に促され1階に入る。
翠は後ろ手に内鍵を閉めた。
『ガチャリ』
硬「ちょ、ちょっと翠さん!同じフロアに2人はいる状態で内鍵はペナルティで――」
翠「大丈夫。ペナルティはどれも制限時間が経過した時の話。時間中は問題ないよ。」
そう言って翠はカメラを見つめる。
翠「それより、上の階はどうだった?何かわかった?」
翠は埃っぽい廊下を歩きながら話をつづけた。
硬「はい。上の階は監獄のようでした。窓には鉄板が付けられていて、換気口には有刺鉄線が張られていました。まるで意地でもそのフロアから外に出さないように。そんな気迫さえ感じました。でも、それって変じゃないですか?」
硬は1階のフロアを見回す。
割れた窓ガラスから刺す光が、異様にきれいに見えた。
その気になれば外に出られる。そんな空間が1階には広がっていた。
翠「あぁ、普通は1階の方を厳重にするよね。もし1階が没収だった時、逃げられる道を残すわけにはいかないもんね。」
硬「ええ。つまり、1階は逃げ出される可能性が無いフロア。つまりここが獲得フロアです。」
硬はカメラに向かって指をさした。
硬「このカメラも決定的な理由の1つです。」
翠「え?そうなの?」
硬「はい、カメラの台数は10階の方が明らかに多かった。死角を作らないほどの数がありました。」
翠「なるほど、10階はメインステージってことか。」
硬「そうです。こんなサーカスを見ているような悪趣味な連中が見たいものは何かを考えればすぐに答えにたどり着きます。そもそも変だったんです。1階から順に没収か獲得かわかるシステムなんて。でも、この悪趣味を思えば納得できます。自分が獲得か没収かわからない不安。祈るしかない恐怖。でもカメラの先では結果が分かっている。負けが確定している人間がみじめに祈る様。悪趣味な人間が好みそうな内容です。」
【8:32】
*
??「へぇ~彼…良いね。」
廃ビルの外に止まっているいくつかの車。中央に位置する車の中で眼帯を付けた男は携帯画面を見つめていた。そこには硬と翠が映っていた。
??「大丈夫そうかな?彼の発言でコレを見ているお客さんたちは怒ってない?」
スーツを着た男は運転席に座る別の男に声をかける。
??「いえ、中継先の会場では大いに盛り上がっているようですよ。」
運転席の男の耳にはイヤホンが繋がっていた。
??「そう、ならよかった。さて、そろそろ俺らも出番だし、準備しよっか。」
自分の隣に置いたアタッシュケースを開ける。そこには万札がぎっしりと詰まっていた。
??「ええっといくら用意すればいいんだっけ?」
??「1660万円です。しっかりしてくださいよ。」
運転席の男は呆れた顔でため息をついた。
??「ああ、そうだったそうだった。」
??「それから、代紋は外しておいてくださいよ。カメラが繋がってるんです。下手に情報が洩れて1年前みたいなことになったら――」
??「そうだね、気を付けるよ。」
男は襟元に着いたバッヂを外しポケットに入れた。
??「じゃあ、行ってくるよ。」
男が車から降りる。
??「お気をつけて。」
それを見て追いかけるように、他の車からスーツの男が大勢降りる。
??「いいか~映像が繋がってるんだ。粗相が無いようにしろよ。」
【2:21】
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