第44話 Cupid・Lovers⑥
硬:0pt 猫芽:1pt
「3pt」「恋人」「1pt」
↑
猫芽「私は…臆病者…」
硬「ええ。」
石川猫芽は「1pt」のカードを手に持ちあげた。
玉木硬はその姿を見つめていた。目には熱がこもっていた。
猫芽「違う…今の私は…臆病者じゃない!」
カードが開かれ、力強く机に置かれる。
「3pt」「恋人」「恋人」
↑
そこにあったのは「恋人」のカード。硬の負けが確定する「恋人」のカードだった。
硬「…な!なんで!」
猫芽の目は虚ろだった。まるで何かを思い出しているように焦点が合っていなかった。
猫芽「…私がギャンブラーじゃない?舐めないで…」
*
1年前。私はある男の戦いを見た。
鈴間翠という男の戦いを。
当時のラピダリー王石《crown》クラス最強の男、金剛大門との対決。
友人の御子柴亮を救うために自身の全てをかけて戦うその姿は、戦わず逃げ続けてきた私の脳を焼いた。
私がギャンブラーだったことを思い出させた。
だから私はもう二度と逃げないと決めた。
失うのは怖い。
でも、戦わず停滞するのは大嫌いだった昔の自分と変わらない。
それでも賭ける。
*
硬「ど、どうして…どうして「3pt」に白紙が!?」
猫芽「簡単な話でしょ…私はずっとあなたの前で安全策をとる人間を演じた。あなたはそれに騙された。」
【え?ふつうにいやだけど。】
【なんで私がすべて失うリスクを負わないといけないわけ。】
【私って安全に立ち回るタイプでしょ?】
【安全な私が好きな「1pt」か。】
彼女は虚ろな目のまま話し続けた。
硬「じゃあ、俺は…」
猫芽「それなのにあなたは私を臆病といった。臆病だと、私の本心を見た。でも私は勝った!!!」
虚ろな目は消え、そこには生きた人間の目があった。
硬:-1pt 猫芽:1pt
*
黒服「素晴らしい戦いでした。しかし、まだ後攻猫芽様のターンが残っていますよ。」
わざとらしくニヤニヤとする黒服。そんなものが残っていないことは分かっているはずなのに。
3ターン目 後攻:猫芽
「3pt」「2pt」「1pt」
↑
公開
「3pt」「恋人」「1pt」
↑
変更無し
「 」「恋人」「恋人」
↑
ゲーム終了
硬:-1pt 猫芽:0pt
勝者:猫芽【753万3542円】獲得。
後半の記憶が無い。負けた事実が硬に重たくのしかかる。
もう翠さんと一緒に戦うことが出来なくなった。
「…」
翠さんの横に立つことが出来なくなってしまった。
「…様」
硬の視界は歪み切っていた。
黒服「玉木様!」
硬「っは!」
黒服の大声でようやく意識を取り戻す。
もう部屋に猫芽の姿は無かった。
黒服「玉木様。お疲れさまでした。玉木様は現在全財産を失ってしまったためラピダリー退会となります。」
硬「ま、待ってください!!お願いです!そうだ、俺、持ってる服とか、全部売ります!家具も売ります!だから!」
黒服は目を瞑り、顔を横に振る。
黒服「申し訳ありませんが、それを許すわけにはいきません。どれだけ高価な宝石であろうとも、すぐに買い手がつかないものは所詮ゴミと同じです。残留は認められません。」
硬「そ、そんな…」
黒服は指をぴんと突き立てた。
黒服「ですが、唯一存続する方法がございます。」
硬「え?」
突き立てた指を硬の体に置く。
黒服「あなたの身体です。」
硬「…」
黒服「ラピダリーは医療の未来を考える非常に素晴らしい機関です。あなたの身体の1部を売るというのであれば、今この瞬間にラピダリーが買い手となりましょう。」
硬「つまり、死ぬってことですか?」
黒服「いえいえ、そんな。あくまでも今すぐ回収するのは一部の臓器だけ、片方無くなっても問題ない物などですね。それ以外の部分は予約です。」
硬は冷汗をかいた。
黒服「な~に予約は再び全財産失ったら回収ですから、負けなければいいだけの話ですよ。」
黒服の顔は満面の笑顔だった。
硬「…回答を待ってもらうことって――」
黒服「できません。今すぐ決めてください。」
硬「俺は…」
黒服「どうするんですか?ラピダリーをやめるのか。残るのか。」
硬「…俺は――」
『ブブブ――』
硬の言葉を遮るように硬の携帯端末が震えた。
画面に映っていたのは鈴間翠の名前だった。
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