第3話 数字当てゲーム ③
「さて。始めようか。」
―第3ゲーム―
「…」
考えろ、考えるんだ。
123456789
偶数:2468
奇数:13579
どれだ
素数:2357
どれがいい
24の約数:123468
12の約数:12346
どうするのが正解だ
平方数:149
当てずっぽう:123456789
どれだ
ちがう、縛られるな。
考えろ。なぜ俺はさっき負けた。7だ。無意識下の意識のせいだ。
性格のせいだ。ならあいつは何の数字を選ぶ?
このゲームで大切なのはロジックじゃない。心理だ。
数字を予想し、ロジックで殺す!
翠が選ぶ数字、これまでの2ゲームから予想するんだ。
7?4?4?【考えろ】偶数?24?奇数?【考えろ】579の三択?5は選ばない?【考えろ】9も選ばない?パチンコ?特別な意味?【特別な意味】数字の持つ特別な意味?俺が選ばない数字、選ばないと思っている数字。
一回目のやつの数字は3。3?なぜ?【……ん】3は人が選ぶ可能性は十分にある数字だ。【……】なんでそんなリスキーなことをした?【…ょっ…】俺が選ばないと思ったから?3は選ばないと踏んだから?【…感】それはなぜ?【直感】
直感。俺は直感に頼る、【4562】そしてそれはランダムじゃない。意識的なもの。そうだ。直感で端っこの数字は選ばない。【19】ど真ん中や人が選びがちな3も選ばない。【3】俺だけの理由。【777】俺の7。それを刺してきた。つまり、今あいつの選んだ数字は、俺の直感から最も遠い数字。それはなんだ。今俺は何を最も選ばない。
「その数字は、奇数ですか?」
「はい。」
【直感。削除。】
「その数字は5以上の数ですか?」
「はい。」
【思考を止めるな。回転させ続けろ】
「その数字はこれまでのゲームで話題に上がったモノですか?」
「…その質問は個人の裁量により変化する。ルール上破綻の可能性が――」
「かまいません。間接的でも話題に上がっていれば、はいと答えてください。」
「凄い質問だね。君だから許される、君にしかできない質問だよ。」
「答えてください。」
「…ふぅ、はい。」
出そろった。後は整理して推理するだけだ。
Q1:奇数?→〇
Q2:5以上?→〇
Q3:話題に上がった数字?→〇
Q1が嘘の場合:偶数かつ5以上。つまり68。しかしこの数字はこれまでのゲームで一切話題に上がっていないため除外。対象数字無し。Q1:本当。
奇数、確定:残り 13579
Q2が嘘の場合:5未満かつ奇数。13。3は第1ゲームで翠が選択した数字。1は端っこというワードで間接的に話題に出ている。矛盾なし。
Q3が嘘の場合:奇数かつ5以上。579。この数字は第2ゲームで翠が提示した3択の数字である。よってQ3が嘘である場合、矛盾。対象数字無し。Q3:本当。
この時点でQ2が嘘確定。よって、残り…
1、3。
2択…
違う。そうじゃない。
ここで頼るのは直感じゃない。ロジックでもない。
【俺は7以外ありえないと思ったけどね】
あいつを、あいつの心理を読み、殺す。
【直感という特別な意味にとりつかれるタイプに見える。】
奴は俺の直感を読んでいる。
【7はなじみ深い数字。】
俺の直感を恐れている。
【ちょうど真ん中の5】
どっちが直感から最も遠い。考えろ。
【端っこの9を君が選ぶとは考えられない。】
奴はきっと俺が選ぶ数字をコントロールしている、なら選ばないように仕向けているのは1か3か。
【端っこの9を君が選ぶとは考えられない。】
そうか…
これは端という概念を俺の意識に植え付け、俺が1を避けるための発言。
なら――そこだ。
「答えは、1だ。」
息切れをしていた。あたりは夕陽でオレンジ色に染められていた。子供たちの声はいつの間にか聞こえなくなっていた。
「…お見事。正解だよ。」
彼が見せた紙には「1」が書かれていた。
勝った!でもまだだ!まだ終わりじゃない!
今なら、今の俺ならいける!
勝つ。勝つんだ、500円の為じゃない。今俺は人生で一番熱い。渦巻くこの熱が冷めないために、俺は勝つんだ!
そのために選ぶ数字は間違えてはいけない。どれだ、どの数字が正解だ。奴の盲点を突く数字。これか?違う、こっちか?いや、こっち、はたまたこっち?
落ち着け、いったん冷静になるんだ。
奴がありえないと考える、その数字。
…決めた。これだ。これで行く。
―第4ゲーム―
*
確実に成長している。なめてかかったら痛い目を見そうだな。
このゲームで大切なのはロジックと心理のバランス感覚。どちらかに突出すると片方を見落とす。
彼は、そうしたバランス感覚があるように見えなかったが…まあいい。
「硬君、勝たせてもらうよ。」
「負けませんよ。ここを耐えれば俺が勝ちます。」
ベンチにへたり込むように座る彼の目は初めて会った時のその目と明らかに違い、熱がこもっていた。
さて、どうやって数字を特定しようか。
良くある考え方として、一度選んだ数字は選びにくくなるというものがあるが、こうした考え方を今の彼に当てはめるのは危険だろうな。平然と1を選んでいてもおかしくはない。
そんな現状では間引いた選択肢は逆に固定概念を自身に植え付ける結果になりかねない。こうしたゲームにおいて、思い込み程怖いものはない。
今の彼はきっと俺の裏をかこうと必死なはずだ。つまりそこが隙になる。
今の彼の目は熱い。彼は考えて数字を選んでいる。なら可能性が高いのはさっきのゲームで俺の選んだ1、彼が第2ゲームで選んだ7、彼に植え付けた危険という概念、5と9なんて線もあり得る。これらの選択肢から考えて、彼が裏をかくとしたらきっと奇数になるだろう。
となるとQ1に偶奇を使うのは勿体ないな。奇数の中でさらに半分に絞れる質問がいい。となると、あれか。
「その数字は素数ですか?」
「…いいえ。」
14689…。
奇数は19。両端。大いにありえる。
腕を組み軽く目を瞑る。硬君には申し訳ないが、おにぎりをくれた命の恩人である君への恩返しもかねて、やはりここは勝ちいく。
彼が嘘をつくように仕向ける。
「その数字は7以上ですか?」
「はい」
7以上。つまり789、そこから素数を除いて89。奇数は9。だが、もし9を選んでいたのなら、2択に絞られるこの質問にYESと答える可能性は低い嘘を使うはずだ。しかし解答はYES。つまり、789の3択に絞られることは不都合ではない。
つまり答えは1だ。
…まてよ?そうか、その可能性があるのか…。別に矛盾はしていない。
何より裏をかこうとするなら、やって来る可能性はある。
*
翠は組んでいた腕をほどき口元を手で覆い隠すような形に変えた。
その様はさっきまでのとは明らかに違う雰囲気を醸し出していた。
迷っている。これまでに比べて明らかに質問に係る時間が伸びている。戦えている。俺が。
硬は安堵から笑みが溢れた。
現状は789の三択。そこから素数を抜いた89の2択になっているはずだ。後は最後の質問次第、それによって俺の運命は決まる。
「…あり得る。……その可能性も…だとしたら…」
まるで何かが解決したかのように翠は顔を上げ、口を開いた。
「その数字は、7以下ですか?」
2回戦と同じ作戦。同じ意味の相反する質問をすることで嘘の場所を探っている。助かった。俺はついている。
「はい」
整理しよう、ここまでの流れを、俺の勝ちへの道を。
Q1:素数?→×
Q2:7以上?→〇
Q3:7以下?→〇
Q1が嘘の場合:素数で7以上かつ7以下の数字。つまり7。
Q2が嘘の場合:素数ではない7未満の数。つまり146。
Q3が嘘の場合:素数ではない8以上の数字。つまり89。
今の選択肢は146789だ。今回は絞り切れていない!
怪しい数字は全部残っている。裏を読み、そして深みにハマる。
「うん、やっぱりこれだな。」
「え?」
「君は今回考えた。なら数字に意思が存在している。完全なランダムじゃない。」
「だからそれが何なんですか?」
「うん、だから、簡単に予想できる。大事なのは君の人となりじゃない。性格でも趣味でも特別な数字でもない。大切なのはただ一つ、相手の立場に立って考えることだ。」
「…」
「まず君は考えた。裏をかくためにはあえて、このゲームで印象に残っている数字を選ぼうと。そうなればおのずと選択肢は見えてくる。1579の4択だった。」
「妄想だ。」
「あぁ。そうさ、でもそう考えたんだろ?」
「数字を言ってください。そうやって、反応を見て数字を決めるのはルールに反して――」
「7だ。」
ポケットに握られていた拳に力が入る。つばを飲み込む。
「どうなんだ?」
「…」
翠に向かってメモを投げつける。それを拾い上げた彼はゆっくりと開き、笑った。
「やっぱりな。」
「なんでですか、なんでわかったんですか。」
「最初は7じゃなくて、1だと思っていたよ。同じ数字を2回選ぶと思っていた。そしてそれは裏をかいている。だが、それと同時に思ったんだ。このゲームが裏をかけるのは数字を決める瞬間だけじゃない。君は裏をかいたんだろう?嘘をつくタイミングでも。」
「…」
「どんな質問が飛んでくるかわからないんだ、そりゃ嘘はできるだけ最後まで取っておきたいもの。だが、君はしなかった。初めに嘘をつくことで出し抜こうとしたんだ。」
「…完敗です、運ではなく、ちゃんとした心理戦で負けたんですね。俺。」
ゆっくりと立ち上がり、ポケットに入れた500円玉を取り出し翠の手に握らせる。
「約束ですから、これ差し上げます。たかが500円ですけど俺らの勝負のあかしですから。」
「…」
「俺翠さんのおかげで、変われた気がします。なんというか熱を取り戻せた気がするんです。もしまたどこかで会えたら、その時はまた、戦ってください。」
目には涙が浮かんでいた。たかが数分対決をしただけの相手に感情を込めすぎた。だが、俺にとってこの人はそれほど重要な人生のターニングポイントになっていた。そう信じたい。
「あのさ、」
「お元気で、翠さん。」
翠に背を向けて歩き出す。夕暮れが頬をかすめる。小銭が減ったからだろうか俺の足はとても軽くなって――
「ち、ちょっと待って!」
「は、はい?まだ何か?」
「いや、え?何この500円?」
「はい?」
「俺一回も500円くれなんて言ってないよ…」
「いや、500円の使い道とか言ってたじゃ…」
「「は?」」
*
「いや、その~おにぎりくれたお礼に、その500円を軍資金にして、お金増やしてあげようかなって思いまして。でもそんなこと言っても信用してくれないだろうから、ああいったゲームを通して頭の良さのアピールを…」
「なんですかそれ?頭おかしいんじゃないですか?こっちは必死に頭使って…」
「あぁ、いやまぁ、実際結構強かったよ。硬君。」
「うるさいです!だいたい、ギャンブルで増やすってあなた20億ギャンブルで負けて失ってんでしょ?そんな人がそんなこと、できるわけないでしょ!?」
「あ、それなら心配いらないよ。ってか、その心配を無くすためにあのゲームやったんだけどな…」
「な、どういうことですか?」
「おれ、ギャンブルで負けたのはこの前の1回だけだから。」
さっきのゲームで頭を使いすぎたせいか、あまり理解はできていなかった。
「まぁ、とりあえずついてきてよ。」
俺のギャンブル狂いはまだまだ続きそうだった。
続きます。
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