第17話 ミドル・キングダム⑤
「13ターン目終了。選択したポイントの開示を行います。」
翠:1point
泉:3point
モモ:1point
硬:2point
「よって現在の順位。」
1位、(同率)翠:13point
1位、(同率)泉:13point
3位、モモ:11point
4位、硬:9point
*
盤面は均衡した。
泉はもう1しか押せない。
なら快く通してあげよう。
モモはきっと最下位との距離を離したい。でも1位になりたくない。さっきのターンで1を選んだ彼女に3は選べない。簡単だな。
翠はボタンを押した。
*
もう中間層の二人の選択肢は分かっていた。彼らに3を押す勇気はない。
硬の思考は晴れやかだった。
硬はボタンを押した。
泉とモモの顔には苦しそうな表情だけが浮かんでいた。
*
「14ターン目終了。選択したポイントの開示を行います。」
翠:2point
泉:1point
モモ:2point
硬:3point
「よって現在の順位。」
1位、泉:14point
2位、翠:13point
3位、硬:12point
4位、モモ:11point
*
追い詰められた。どうする。どうすればいい。
泉の視界は歪んでいた。ボタンの数字が幾重にも重なり原形をとどめていない。
…15ポイントになれば、俺は負ける…
ねじ曲がった視界でモニターを見る。そこには1筋の光が見える。
14、13、12、11
1点差…
泉の視界のピントが合う。
15ポイントで負けじゃない…翠が2ポイント以上を選べば、奴が1位になれば、俺は勝てるんだ。
可能性は薄い。だが、そこに賭けるしかない。それでこそギャンブラーだろ!!
泉はボタンを押した。
「自分の生き残る道を他人にゆだねる奴の何処がギャンブラーだよ。」
翠のその声はまるで泉の心を見透かしたようだった。
視界の端で翠がボタンを押す様子が見えた。
*
最下位、とにかく浮上するしかない。でも3位との差は1ポイント差。
並ぶじゃだめ、最下位は問答無用で負け。
なら…2か3…。
3位の硬は3で15に到達する、冷静に考えて、そんなリスクを負う訳がない。
なら、通る。
それに私は3を選んでも14ポイント。まだ安全圏。大丈夫。私は冷静だ。
モモはボタンを押した。
*
硬は頭を回転させていた。
彼女はずっと3位でいた。ずっと1位になることを恐れていた。
きっと今も恐れている。でも最下位でもいられない。
彼女にとっての安全な道、その考えをきっと俺にも重ねている。
リスクを取らないで、勝てるほどきっとこの先は甘くない。
きっと彼女が選んだのは――
硬はボタンを押した。
*
「15ターン目終了。選択したポイントの開示を行います。」
翠:1point
泉:1point
モモ:3point
硬:3point
「pointの加算無し、よって全員に+1ポイント。現在の順位。」
1位、泉:15point
2位、翠:14point
3位、硬:13point
4位、モモ:12point
「ゲーム終了。勝者、翠、硬。」
*
モニターに表示された点数は綺麗だった。
泉とモモは頭を抱え机に突っ伏している。
翠さんにとってどこからどこまでが予想通りだったのかは分からない。
でも、ゲーム中あんなに楽しそうだった翠さんの顔は真顔だった。
「それじゃ、硬ちゃん帰ろうか。」
翠さんが席を立った瞬間エレベーターのドアが開いた。
「翠様、硬様、おめでとうございます。」
そう言ったスーツの男から渡されたのは分厚い封筒と携帯端末だった。
「今後ラピダリーに関する連絡はこちらから行いますので、無くさないようお願いいたします。」
初めて実感した。自分が今、ラピダリーの一員になったのだと。
「はい、どーも。じゃあ帰りの準備してよ。」
「…了解いたしました。」
そう言って車まで案内される。机に突っ伏した二人はまだ席を立てずにいた。
エレベーターを降りると硬と翠は別々の車に乗せられた。
「こちら、装着お願いします。」
そう言われて、つけられたアイマスク。今の時間が何時なのかはわからないが、硬は眠気に襲われ気が付くと眠っていた。
*
外はもう夜だった。
「お疲れさまでした。改めて、翠様おめでとうございます。」
「はい、どうも。」
重い腰を持ち上げる。
「あの、すみませんが1つだけ質問をしてもよろしいでしょうか?」
車から降りようとすると運転をしていた男に声をかけらる。
「ん?何?」
「翠様はどうして、またラピダリーにお戻りになられたんですか?」
翠の顔から表情がなくなる。
「別に、何でもいいでしょ。」
「でも、もし負けたら、今度こそ本当に無事では済まないかもしれない…あなたが凄いギャンブラーであることは全員が知っています。でも、再び危険を冒す必要が――」
「別になんでもいいでしょ?それとも何?俺のいなくなった2ヵ月でそこまで深堀りしないといけない決まりになったの?」
運転席の男は口をつぐんだ。
「まぁ、いいや。もう話は終わり?早く帰って豆食いたいんだけど。」
「…やっぱり、原典《Lapidary》クラスに挑むんですか?」
瞬間車内の空気が凍り付いた。翠の目は塗りつぶされたように真っ黒だった。
「はぁ。」
翠のため息が車内に響く。
「じゃあ、1つだけ質問させてよ。もし答えてくれるのなら、今からでもラピダリーの入会を辞退してあげる。」
「は?」
スーツの男はシートベルトを外さず翠に体を向けていた。
「非張羽は勝ったのか?」
「…申し訳ありません。お答えできません。」
「だよな。なら、俺の目で確かめるだけだよ。」
翠はいつもの調子に戻っていた。車から降りた場所は集合場所と同じ地下鉄の駅だった。
「…帰るか。」
翠は月の輝きから逃げるように地下へと続く階段を下って行った。
羽と書いてつばさと読ませる。若干無理があるかなと思っています。
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