第13話 ミドル・キングダム①
これで本当にいいんだよな…
1位、翠:13point
2位、泉:10point
3位、モモ:8point
4位、硬:5point
本当に、翠さんを信じていいんだよな…
目の前に置かれた3つのボタン。そして、この絶望的な点数差。
誰の目から見ても、俺らは完全に追い詰められていた。
「おい、いつまで悩んでいるんだ、早く押してくれ。」
泉と名乗るサラリーマンのようにスーツを着込んだ七三の男が硬を急かす。
「心理戦だか何だか知らないけど、選択するのが遅すぎ。そんな優柔不断なギャンブラー…いらない。」
モモと名乗るゴスロリ姿で金髪の彼女も小さいが、確かに芯のある声で硬を急かす。
「いや~、硬ちゃん言われちゃってるね~。」
翠はまるで悪びれる様子もなくニコニコ笑っている。追い詰められていることは翠もわかっているはずなのに…
そもそも何でこうなったんだ…
そうだ、あれはたしか…。
*
「ここが亮さんの言っていた集合場所か…」
都内の地下鉄の改札前。集合時間10分前に到着した硬の心臓は驚くほど脈打っていた。入会試験参加者はそれぞれ別々に指定された駅に集合するという決まりらしい。
翠さんとは会場で落ち合う約束になっている、それまでは1人で行動しなければならない。不安感と逃げ出したい気持ちを抑えて、むかえを待った。
それは集合時間の15時ぴったりにやってきた。
「玉木硬様ですね。ご同行お願いいたします。」
紺色のスーツを着込んでマスクをつけた男性に声を掛けられた。
この人が、ラピダリーの運営…
「分かりました。」
そう言って硬はその男の後を追い地下から地上に足を運ぶ。外には黒い大きな車が止まっていた。
「こちらの車に、ご乗車ください。乗車後はアイマスクをつけさせていただきますが悪しからず。」
男の話し方は常に丁寧だった。それが、これから行くラピダリーの持つ力をアピールしているようで恐ろしかった。
車内は無音で、揺れだけを感じることが出来る。
右折、左折、停車。その繰り返し。今自分がどこにいるのか全くと言っていいほど想像ができなかった。
どれほど時間が経っただろうか。緊張のせいもあり体内時計は狂っていた。
無音だった車内に男の声が響いた。
「アイマスクは装着した状態で少々待機していてください。」
その声が目的地への到着を意味していることは何となく分かっていた。
「失礼します。」
そう言ってアイマスクを外される。視界に久しぶりに入る光に目がやられる。
目が慣れようやく今の状況を理解する。
ここは駐車場…?
コンクリートで打ち付けられた窓のない空間に自分の乗っているのを含めて計4台の車が止まっていた。
「ご同行お願いします。」
男はそう言うとひとりでに歩き始めた。
「は、はい。」
男に案内され、エレベーターに乗り込む。ボタンは2つ。
[B2F] [B3F]
男はB3Fのボタンを押した。ゆっくりとエレベーターが降下を始める。硬は緊張のせいか、今置かれている状況の異質さを改めて感じ取った。
『ゴウンッ…』
扉のあいた先は学校の教室ほどの広さの空間だった。壁にかかった大きなスクリーンには
「ゲーム開始まで今しばらくお待ちください。」
の文字。
部屋の中央にはクイズ番組で使われるような机と椅子が4つ。そのうち3つはすでに人が座っていた。
鈴間翠も既にそこに座っていた。
「ご健闘お祈りしております。」
そう言って男はエレベーターの扉を閉じた。
一番端っこの席に座る翠は硬に気が付くと笑顔で手を振っていた。他の席に座ったサラリーマン風の男とゴスロリ系の派手な格好をした女性は暇そうにスクリーンを見つめていた。
いよいよ始まる…
ラピダリー入会試験が…
『ブゥン…』
電子音と共にスクリーンに文字が映し出される。
「入会試験、〈ミドル・キングダム〉を開始します。皆さん席について下さい。」
俺は誰も座っていない翠さんの隣に座った。
「やっほ、硬ちゃん。頑張ろうか。」
その声に少し安心をした。その声が普段と変わりなかったから。
「ルール説明。次に表示する画面をご覧ください。」
~ミドル・キングダム~
4人で行うゲーム。
▶ 各ターン:1 / 2 / 3 pointを選択
▶ 被った者は0ポイント
▶ 全員にpoint加算が無いターン全員に+1point
▶ 合計15point到達者が出た時点でゲーム終了
★ 2位と3位が勝者
★ 1位と4位は敗北
・質問があれば口頭でお願いします。
ミドル・キングダム…タイトルの通り中間地点にいるものが勝者となるゲーム…
「15ポイント達成者が複数人出た場合はどうなるんだ?」
サラリーマンのようにスーツを着込み、七三分けの男が質問をした。
「泉様、質問ありがとうございます。その場合の敗者は1位の2名と最下位1名の計3人。つまり勝者は1人だけになります。」
「じゃあ、質問。」
今度はゴスロリ系の派手な金髪の女が口を開く。
「もし、15ポイント達成者が2人、最下位も同率2人の場合はどうなるの?」
「モモ様。ご質問ありがとうございます。その場合は勝者無しとなります。その程度のギャンブラーはラピダリーには必要ありません。」
画面には淡々と文字が羅列されていく。
「あ、じゃあ質問いい?」
今度は翠が手を挙げた。
「このゲームって個人戦だけど、ゲーム中の私語、それから協力の持ちかけとか、そういった会話ってしてもいいの?」
質問への回答は数秒の間があった。
「翠様。今更あなたがそのような質問を行う必要があるのか分かりませんが、回答いたします。ゲーム中の会話、同盟などは自由にしていただいてかまいません。もちろん裏切りも。」
裏切り…その言葉が深く突き刺さった気がした。
「はーい、了解でーす。」
翠はどこか安心したように椅子に深く腰掛けた。
「他質問はございませんか?」
翠を含めた硬以外の参加者が硬を見つめる。まるで何か質問をしろと言わんばかりに。
「じゃ、じゃあ15ポイントを超えた瞬間に負けなんですか?」
「硬様。ご質問ありがとうございます。あくまで勝者は2位と3位。もし、15ポイント到達しても、2位であるのならそれは勝者扱いとなります。」
全員の視線がモニターに向いていた。
「以上で質問は打ち切らせていただきます。ではただいまより、ラピダリー入会試験〈ミドル・キングダム〉を開始します。お手元のボタンにて好きなポイント数を選択してください。」
始まる…とうとう俺の人生を変える運命のゲームが…
「あ、ねぇねぇ硬ちゃん耳貸して。」
「え?はい。どうかしたんですか?」
翠に言われて耳を傾ける。
「…硬ちゃんは最下位を目指して。俺が合図するまで2位と3位を目指したらダメだよ。」
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