第11話 クレイジー・カップス その後
車の揺れが脳に伝わる。1時間もたっていないのに持っていたお金は100万になった。
「ねぇ。硬ちゃん。」
翠は外の景色を見ながら話している。運転席の亮の顔にあの怖さもうなかった。
「どうしたんですか?翠さん?」
「聞き忘れてたんだけど、どうして最後、×4.5に入れたの?」
「あぁ、それは、なんていうか、ミライさんってあのゲームを通してずっと臆病だったんです。」
外を見ていた翠の体がピクッと動き硬に向く。
「というと?」
「そもそもあのゲーム。ずっと疑問だったんです。なんでチェックを作ったのかって。はじめは守備側が有利すぎるが故の攻撃側への措置だと思ってたんですけど、あいつは、ミライは守備側の際、チェックで当てられるとホッとしたんです。でも、それって変じゃないですか?攻撃側と守備側のパワーバランスを調整するための攻撃側が有利になるルールのはずなのに、守備側がチェックで当てられるとホッとするって。」
翠はその話をただ黙って聞いていた。亮も耳を傾けていた。
「そして奴は基本低い倍率にしかボールを入れなかった。奴は読みとか、心理戦でそうしたんじゃない。ただ、高い倍率で負けるのを恐れていただけだった。チェックというルールに倍率は関係ない。一見攻撃側の特権なようでその実は守備側の保険でしかなかったんです。」
硬はさっきの戦いを思い出しながら言葉をつづけた。
「そうなると後は単純です。そんな保険を掛けるような男です。チェックで×5をあいつは選ぶ。でも、アンサーで×4.5は選べない。なぜなら、臆病だから。自身の選択のせいで高い倍率を払うことになるリスクを奴は背負える人間性じゃありませんから。翠さんの言う通り、相手を知ったからなせた技です。」
翠は驚いたように目を丸くしていた。
「というか、それより!なんで二人は知ってたんですか?あそこでやってたゲームとか、あの時の状況とか。凄いタイミングよく参戦してましたけど!」
「あーそれか…」
そう言って翠は硬の肩に手を当てると、何かをつまんだ。
「これのおかげ~」
指先には小さな機械が付いていた。
「それって…盗聴器?」
【肩に置かれたその手は異様に温かく、なのに無機質に感じた。】
「あ!あの時!」
「アハッ。そう、亮ちゃんから貰ってこっそりつけといたんだ。」
翠は楽しそうに笑っていた。
「硬ちゃんの戦いをここで亮ちゃんとひやひやしながら聞いてたよ。」
「20万って言いだした時は驚いたぞ。頭がおかしくなったかと思って急いで車から降りて乗り込んだんだ。」
ルームミラーに映る亮さんの口元は笑っていた。
「でも、向かう途中硬ちゃんが頑張ってイカさま暴いてて、成長を感じちゃったなぁ。」
「俺から言わせれば、まだまだだけどな。」
さっきまでの冷たい空気はそこには無かった。いつもの暖かなバーの雰囲気に戻っていた。
「あ、あの。さっきのことでまだ話があって。」
「ん?」
翠さんも亮さんも楽しそうに笑っていた。今聞くことではないかもしれないけれど俺も笑うためには解決しておきたかった。
「『殺しの亮』って、なんなんですか?」
一瞬亮さんの目が色を失った気がした。横にいる翠の目も冷たくなっていた。
「…硬ちゃん。人にはいろいろあるってことだよ。いつか本人の口から言って――」
「…安心しろ。別に大した話じゃない。」
「ちょ、亮ちゃんいいの?」
亮は小さく語りだした。
「昔、東院連合の組と衝突しただけだ。深い意味はないさ。」
そう言って亮さんは黙ってしまった。その目は色を失っていた。でも、その中になぜか温かさを感じた。
車はバーのそばに差し掛かっていた。疑問はまだ残っている。
俺は怖い異名を持つ亮さんのことを何も知らない。
でも悪い人では無さそうだ。何となくそんな気がした。
良いと思ったら、感想、ブックマークお願いします。喜びます。




