8話:本格始動
朝食を食べ終え、後片付けを終えたところで、ガーザルさんが口を開いた。
「とりあえず、お前の運動神経を見せてみろ!」
そう言って、ガーザルさんは俺を広い庭へ連れ出した。
昨日は夜だったからよく見えなかったが、改めて見ると庭まで広すぎる。
(この家、どんだけデカいんだよ……)
元ギルドマスターってだけで、こんな豪邸に住めるのか……?
「よし!フユト、早速追いかけっこだ。俺が追いかけるから捕まるなよ?」
「え、ちょっと急じゃないですかーーーー!!」
「ほら、さっさと距離を取れ!」
ガーザルさんに言われ、俺は慌てて走り出した。
準備運動をしているガーザルさんを背に俺はダッシュで距離を取るフユト。
これでも俺は運動部ほどではないが、クラスの中ではそれなりに動ける方だ。
しかし、フユトもそれでフラグを回収するほど馬鹿ではない!
(直線に誘導して一気に曲がってフェイントをかけてやる!)
「スタート!」
ガーザルさんの声が聞こえる。
(よし、作戦通りタイミングを見計らって──)
振り返る。
――もう後ろにいる。
(!?!?!?!?)
「なんだ、老いぼれだから遅いとでも思ったか?」
そうガーザルさんが言うと次の瞬間、身体が浮いた。
「え?」
ガーザルさんはフユトをひょいっと掴み、そのまま草の上へ投げ飛ばした。
「ガッ!?」
「なるほど。受け身は取れる。足もそこそこ速い。だが、追い込まれた時にどう動けばいいかは、まだ分かってないな」
そう言うとあぐらをかいてガーザルさんが草の絨毯の上に座り込む。
(今ので何かわかることあるのか???)
痛む背中をさすりながら起き上がり、俺もあぐらをかいてガーザルさんと向き合った。
「まずお前さんは、いい意味でも悪い意味でも人を信頼しすぎだ。俺が『追いかけっこだ』と言ったから、本当にただの遊びだと思っただろ?それに追いかけっこって言われて俺から逃げきれるわけがないって決まっているのに小細工無しでなんてどうあがいても無理だろ。」
ガーザルさんの言葉にぐうの音も出ない
事実、ただの追いかけっこだと思っていた。
日本ならまだ、言葉や文化が違っても地図や常識はある程度想像できる。
でも、ここは違う。
日本どころか、外国ですらない。
完全に知らない世界だ。
「でもまぁ、受け身は取れる。足もそこそこ速い。なら明日からの練習メニューは組めそうだな」
ガーザルさんがニヤリと俺の方を見てきた。
俺はこのような目を知っている
先生が宿題をたくさん出すときのような目だ。
「今日はとりあえず徹底的にこの世界のことを叩き込んでやる。明日からは身体のほうを鍛えるぞ」
ガーザルさんが手を差し出してくる。
(……どうせこれもフェイントだろ)
恐る恐る手を伸ばす。
スッ。
やっぱり避けられた。
(思ったとおり!)
俺がドヤ顔を浮かべると、ガーザルさんはニヤリと笑った。
「明日が楽しみだな」
(……一旦終わったか、俺)
そう思いつつガーザルさんに言われるがまま着いていくと自分の使わせてもらっている部屋に来た。
(まさか....)
フユトの予想通りガーザルさんがドアを開けるとすでに中でシースーさんが本棚から何冊か取り出し、机の上に並べていた。
本棚から取り出された本は――七冊。
(……七冊?)
思っていたより少ない。
……なのに、なぜか怖い。
ラッキーセブンのはずなのに、今はただただ怖い。
「シースーさんは元ギルド職員なんだ、俺より詳しいこともあるから、その辺はシースーさんに任せる。しかし! 居眠りなんてしてみろ。あの城壁を使って受け身の特訓をしてもらうからな!」
(目がマジだ、冗談とかじゃない目だ...)
素早くコクコクと頷く
「はいはい、そんな物騒なこと言わないの」
「シースーさん、何から教えます?」
「それじゃあまずは世界の地理と歴史からじゃないかしら?」
「それじゃあシースーさんお願いします。フユト、お前が一瞬でも半眼になってみろ。城壁まで飛ばすぞ!」
「はいはいガーザルもそんなに怖がらせないの。」
ガーザルさんは最後まで俺を睨むように見つめたあと、ドアを閉めた。
……正確には、ほんの少しだけ開いている。
(……監視してるじゃん)
フユトは見て見ぬふりをして明後日の方向を向いて
(さてと...負けられない戦いが始まったな。今ここに!!)
「それじゃあ、まずは世界の地理からね」
シースーさんが本を開く。
そこに載っていたのは――この世界の地図だった。




