4話:冒険者(笑)
もう7分ぐらい歩いてるのに、未だに突き当たりが見えない。
……というより、人が多すぎて見えない。
(そういえば俺、こっちに来たときには何も持ってなかったな……)
(スマホとか財布とか、天界で没収されたのか? それとも消えたのか?)
そんなことを考えながら下を向いて歩いていると、開けた場所に出た。
見上げると、そこには大きな建物がそびえ立っていた。
いつの間にか突き当たりに着いていたようだ。
建物はかなり大きく、入口からは冒険者らしき人たちがひっきりなしに出入りしている。
(ここが...ギルド?)
思ってたより綺麗で、なんというか……すごく入りやすそう。
(なんか既視感が...)
そんなことを考えながら、恐る恐る扉を開けてみる。
(なんでギルドの扉がガラス付きの自動ドアみたいなタイプなんだよ! 重厚感は!?)
カランカラン。
(鈴も鳴りやがる……)
すると広がっていた光景は...
右手側にはいわゆる受付嬢とかがいるいわゆる典型的なギルドの受付が広がっている。
(そこは別に良い。)
(だが!!)
(左側は絶対に違う!)
左側にはまさかのフードコートが広がっていた。
近くの席では子供連れの親子が普通に食事もしている。
(あぁ、これあれだ)
(既視感の正体、婆ちゃんの家に行ったときに必ず寄ってた、某大型ショッピングモールのフードコートだ)
(しかも田舎の方のタイプ)
後ろから「早くしろ」と言わんばかりに、他の冒険者らしき人たちに押され、ハッとして中に入る。
天井の高さといい、広さといい、本当に某大型商業ショッピングモールのようだ。
現実逃避をしながら右側の奥にある、「新規登録」と書かれた受付に歩いて行く。
受付に行くとザ・新人のような可憐な女の子が慌てて笑顔を浮かべ、
「こ、こんにちは!新規冒険者登録の方ですか?」
(ぎこちなさがまた可愛い)
(……妹がいたらこんな感じなのかな)
「はい、冒険者登録とぉ...身分証の発行をお願いします...。」
身分証はみんな持っているものだと思っているため、周りから何を言われるかわからず、後半は小声になってしまう。
「はい!わかりました!冒険者登録と身分証の発行ですね!」
そんな俺の気も知らずに元気よくハキハキと言う。
幸い、受付嬢は特に気にした様子を見せなかった。
(……助かった)
どちらかというと俺の背中側にあるフードコートから聞こえる料理の音や、微笑ましい家族の団らん、そこら中から聞こえる話し声に紛れたのだろう。
─数分後─
「お、おまたせしました!それでは今から部屋に案内させていただきます!」
そう言われて着いていくと部屋にはまたもや見覚えのある水晶とそこには、ガッチリとした体格で、俺よりも背の高い男が座っていた。
(うわ。絶対偉い人だ。もしかしてギルドマスターか!?)
ギルドマスターらしき人が椅子から立ち上がり
「俺は副ギルドマスターのオルガだ。君が冒険者志望で身分証をなくしたって言ってたやつか?」
(副かよ!)
だが、その凄い迫力に押され、子どものようにコクコクと頷いてしまう。
「とりあえず水晶でステイタスを見せてくれ。あとは左肩もな。」
(あ、なるほど。逃げ出した奴隷じゃないかってのも確認しないとだよな。)
そう思いつつ水晶を握ってから、女性の前で上半身を晒すのは少し恥ずかしいが上の服を脱ぐ。
チラッと彼女の方を見ると両手で目を覆っていた。
オルガさんが左肩と水晶を見てこう言った、
「特に気になる点はなかったし冒険者登録してやる。身分証に関しては冒険者になるんだったら冒険者プレートで十分だ。」
そう言い机の引き出しから白色のカードを取り出す。
「ほら、そこの丸いとこに紋様を付けてみろ。」
右手の紋様をカードの丸い部分に当てる。またしてもピッタリと。
またしても白い光が今度はカードに写っていく。右手を見たが紋様は消えていない。
カードに目を移すといろいろな文字が浮かび上がっていく。
名:〈記入をお願いします〉
性別:男
力量:D
知能:B
耐久:C
体力:C
魔力:D
運気:S
漢気:C
人情:A
短気:S
魔法:言語統一魔法(この魔法を持っている者同士のみ言語が統一される)
スキル:本との出逢い(本との運命的な出逢いができる♪運気アップ・中)
(さてと、どこからツッコんでいこうか...一旦スキルは置いといてやろう。一旦だ、あくまで一旦...)
「何が本との運命的な出逢いができる♪だよ!クソがーーーーーー!!」
そう言いプレートを投げるとオルガさんがノールックでキャッチしてステータスを見る。
「知力Bなのに……なんだこの性格のステータスは?お前もしかして学園でいじめられてたのか?それに人情Aなら冒険者なんかより他の仕事のほうが……」
哀れそうな目で見てくるオルガさんに俺は
「なんなんですか!?このステータスって!?漢気とか人情までステータスにはいるんですか!?」
「やれやれ、本当に短気はSみたいだな...」
鼻で笑われて余計腹が立つ。
オルガさんがプレートを俺に向かって投げ渡す
「まぁまぁ世間話だ、そうカッカとするな。ところでお前は冒険するために来たんだろう?お前は何で戦うんだ?」
俺は腰を見る。何も持っていない。お金もない。まずい。
「何も持たずで来たのか?しかも無一文!?ハッハッハッハッ!久しぶりに見たな。ちょっと待ってろ。」
オルガさんが何やら部屋を出ていく
(もしかして武器貸してくれるのか?やっぱりこの国は最k)
そう思っているとオルガさんが戻ってきた。
オルガさんが持っていたのは
剣でもない。
槍でもない。
弓でもない。
紙の束だった。
「!?!?!?!?!?」
「せっかくならその人情Aを活かした仕事が手っ取り早いだろ?ほら見ろ。こんなにもたくさんある。」
俺よりも手が大きくて肩幅がデカいオルガさんの手の中にはいっぱいの紙、紙、紙。
「これは全部お爺さん、お婆さんの色んな依頼だ。大抵のやつは、こういう面倒な依頼は報酬が高くてもやりたがらないからな。お前にはぴったりだと思ってな」
(思ってたのと違う……。でも、今の俺じゃこんな依頼くらいしかできないか……)
嫌そうな顔で依頼を見ていく。
掃除、掃除、掃除、配達、掃除、整理、おしゃべり相手、掃除――
……一日孫?
掃除、整理。
ほとんど掃除か...一回変なの混ざったけど確かに報酬だけを見れば全部5000円以上で書かれている。
実際、この「円」が日本円と同じ価値なのかは分からないが……
そんな俺を見てオルガさんがニヤリと笑いある一枚の依頼書をだす
「そういえばお前さん。泊まるところがないならこの依頼なんてどうだ?俺が受けたいぐらいだぞ?」
ニヤつきながら見せてきた依頼には
依頼:5日間の整理・掃除・喋り相手
内容:5日間家の整理整頓、掃除、おしゃべり
報酬:4泊5日、朝昼晩3食付き、最終日に45000円
(おっと最高じゃないか。)
「受けます!」
即断即決した。
実際、お金がない以上、宿の心配はしていた。
ここでしばらく働いて、お金が貯まるまで過ごせばいい。
オルガさんに受けるというと
「しっかりと頼んだぞ、最後に名前をプレートに刻んでくれ。」
(冬目剛、と書き込みたい。けれど異世界ではカタカナに名前はなる。それに向こうとこっちはなんとなくだが名前を分けておきたい)(……母さん、父さん、ごめん)
そんなことを思いながら、俺は偽名をカードに書き込んだ。
冬目剛――
「フユメ・ツヨシ」。
そこから適当に名前を組み替えた。
(「フユト」でいいだろう。)
プレートに名前を刻むのを見ていたオルガは書き終わったのを見て
「よし、冒険者として今後の幸運を祈っているぞ。フユト」
こうして俺はフユトという名の冒険者が異世界に誕生した。
「お~!!」
パチパチパチ。
部屋の隅から拍手が聞こえた。
「……」
俺はゆっくり振り返る。
(……そういえば受付の人、ずっといたのか)




