3話:テンポよく
正門に着いた俺は一時間ぶりに地に足をつけた。
正直きつかった。
今も少しフラフラする。
そんな俺を見て、正門の門番さんがコップに入った、恐らく水であろう透明な液体を渡してきてくれた。
(正直怖いけど信じている!門番さん達!)
ぐいっと全部飲み干す。
少しだけ味がした。
(終わった)
(そうだよな、こんな不審なやつに水やら服やらポイポイ渡してくれるはずないもんな...)
(知らない世界の液体を一気飲みする高校生がどこにいるんだよ俺!!)
走馬灯が流れることを覚悟して目をつぶった、その時――
「おい、言葉通じるか?もしかして魔力酔いか?いやこの薬で魔力酔いなんてするはずないんだがな...」
突如、門番の言葉が日本語として頭に入ってきた。
「あ、あの……この飲み物って一体……?」
恐る恐る顔を上げて連れてきてくれた門番さんに聞いてみる。
「これは一時的に意思疎通を可能にする魔法を込めたポーションだ。効果は140分。これで一旦、会話はできる」
そう言うと、二人の門番に両腕を掴まれ、引きずられるように奥の薄暗い尋問室らしき部屋に連れて行かれる。
(今まで優しくしてくれてありがとう!裏門の門番さん!...だけどさ、そんなニコニコで手を振らないでくれよ...どっちにしろ手は触れないんだからさ!!)
部屋は薄暗く、簡素な机と椅子が二つ置かれていた。
その向こうには、一人の女性が座っている。
黒髪のロングヘアに眼鏡。
いかにも真面目そうな雰囲気だ。
(うわ、美人さんだ)
そんなことを思っていると、彼女が口を開いた。
「薬は140分しか効果がないから迅速に対処させてもらうよ。さて、君は南門から荷物無しで意思疎通もできない状態でこの国に来たって聞いたけど。君の身分を教えてくれない?」
(さーて俺はどう説明すればいいんだが、正直に言うか向こうから出してくれる選択肢をまつかどうしようか...)
「その様子からして、この国について何も知らないようですね。この国は大きく五つの区域に分かれています。」
「南は癒しと生産」
「北は死と財宝」
「東は武と食事」
「西は魔法と教育」
「そして中央は集団と団結」
「そんな中で、あなたは南から来たということです。」
「身分証を持っていないということは、南の孤児院から抜け出してきた孤児か、奴隷ということになります。普通の市民なら身分証を持っていますからね」
「この国では、12歳になると身分を示すためにもステイタスが刻まれます。それがないのは孤児の証ですよ」
(あーなるほどね。つまり今俺は孤児か奴隷ってことかぁ...やばくね)
「まぁでも話によると左肩に奴隷紋もないって言ってましたし孤児ってことにしといてあげます。私も面倒事は嫌ですし入国して構いません。異論はありませんよね?」
「いいんですか!?そんなあっさりと!?」
「逆に入りたくないんですか?あなたは。」
(ぐうの音も出ない...)
そう思い黙って頷く。
「南のどこの孤児院かわかりませんし、そもそも数え切れないんで調べません。一旦ステイタスを刻んじゃいましょう」
そう言って、お姉さんを先頭に、俺と門番さん二人で別の部屋へ向かった。
たどり着いた部屋の中央には、片手で覆えるくらいの大きさの水晶が置かれていた。
「じゃあ、利き手でこの水晶を掴んでください」
言われるがまま、水晶を掴む。
水晶に触れた瞬間、冷たい何かが手のひらから身体へ流れ込んできた。
「ぐっ……!?」
思わず手を離そうとする。
しかし――
バチンッ!
水晶に弾き飛ばされた。
「いってぇ……!」
右手が痛い。
手のひらを見てみると、何やら紋様が刻まれていた。
俺の手のひらにぴったり収まる大きさだ
「成功ですねー、おめでとうございまーす。ステイタス見ましょうか、もう一回水晶掴んでください。」
お姉さんの左手にも紋様が見えた。指の付け根にまで刻まれている。だが、大きさは同じに見える。
そんな事を考えながら水晶を掴むと今度は弾かれなかった。
手を恐る恐るあげてみると水晶に何やら浮かんでいる。
お姉さんが門番さんをチラっとみると門番さんがなにやら紋様が書き込まれた紙を持ってくる。
「本当に言語統一魔法持ってないみたいなんで早速取得してもらいますね。」
「魔法!? 取得!?」
(言語統一魔法……?)
(待て。今、さらっと「取得」って言った?)
(魔法ってそんなコンビニ感覚で取得するものなの!?)
そんな困惑している俺に一人の門番が早く右手を出せと言わんばかりに手を出せとジェスチャーされる。
門番さんが一枚の紙を出した。
そこには魔方陣が描かれているがドーナツのように真ん中だけ何も書かれていない欠陥品のようなものだ。
右手の紋様と魔法陣の中心が、まるでパズルのピースのようにぴたりと重なった。
すると魔法陣が白く光った。
欠けていた魔法陣が完成し、そのまま俺の右手の紋様へ吸い込まれていった。
「ぐはっ……何が起きたんだ!?」
すると先ほどまであった違和感のある喋り方からいつも話しているような喋り方に変わり、聞こえる。
「よーしこれで終わり。それじゃあこの後ギルドっていう役所に身分証を作りに行ってください。
場所はまぁでて目の前の大通りをまっすぐ進んだ突き当りです。夕方頃なので人が多いんでスリにだけ気をつけてください。」
そうお姉さんが言いながら歩いていると出口らしき場所にたどり着く。
「それではまたいつの日か〜」
そう言うと、お姉さんは俺を部屋の外へ押し出した。
バァン!
ドアが閉まる。
「こんなノリで入れるもんなのかぁ...。」
こうして俺は、なんともあっさり異世界への入国を果たした。
……本当にこれでいいのか?




