第8章:香水と腐敗
#犬神家 #腐った愛の解剖学 #サイコスリラー #医学サスペンス #なろう小説 #創作
「ファンタジー小説では、死の臭いは大抵、名誉ある戦場から漂ってくるものだ。しかし犬神家において、地下室から這い上がってきた腐敗臭は、忌々しい霧のように母の鋭い嗅覚を突き刺した。銀座で最も高価な香水でさえ、僕たちの足元で腐り始めた解剖学的現実を隠すことはできなかったのだ」
キッチンでアルカリイオン水を注いでいたとき、階段から急ぎ足の足音が聞こえた。犬神蓮華がシルクのネグリジェを翻して降りてきたが、その顔――先週僕がボトックスを打ったばかりの顔――は嫌悪感で歪んでいた。
「江戸ちゃん、あなた感じないの?」彼女はレースのハンカチで鼻を覆った。「この匂い……生臭くて、甘ったるい。鼻をつくような匂いが、お父様の個人用エレベーターの隙間から漏れてきているわ」
僕は手を止めた。臨床的に、それが何であるかは分かっている。プトレシンとカダベリン。壊死し始めた組織のアミノ酸分解によって生じる化合物だ。地下室の換気システムは最大限に稼働していたが、昨夜の海斗への処置で出た大量の生物学的廃棄物を、まだホルムアルデヒドで十分に消毒しきれていなかった。
「ただの排水溝のトラブルでしょう、母さん。このような古い屋敷では、地下の配管が滞留することがよくありますから」僕は説得力のあるフラットな声を保って答えた。
「いいえ! 私は知っているわ、この匂いを」蓮華は僕に詰め寄った。美に執着する彼女の瞳には今、恐怖が宿っている。「十年前、お父様が古い蔵で『個人教授』をしていた時と同じ匂いよ。血の通わなくなった肉の匂いだわ」
蓮華はエレベーターのドアへ向かって歩き出した。震える手がコントロールパネルに伸びる。もし今彼女が降りれば、視力を失った海斗を見つけるだけでなく、検体の内臓で無邪気に遊ぶ朱里の姿を目にすることになる。
「母さん、いけません」僕は長身を活かして彼女の行く手を遮り、心理的な圧迫を加えた。「父さんが下で滅菌作業中です。防護服なしで入れば、高濃度の化学蒸気でお肌が取り返しのつかないダメージを受けますよ」
『お肌を痛める』という言葉を聞いた瞬間、蓮華は凍り付いた。彼女の弱点は常にその身体的ナルシシズムにある。
「でも、この匂いは吐き気がするわ、江戸ちゃん。社交界の友人たちがこれを嗅いだら、犬神の評判は地に落ちてしまう!」彼女は僕のシャツの袖を掴んで嘆いた。
突然、エレベーターのドアが開いた。出てきたのは朱里ではなく、父だった。貞人はそこに立ち、バイオハザードのラベルが貼られた黄色の医療用廃棄物バッグを手にしていた。
「蓮華」父の声が、メスのように母のヒステリーを切り裂いた。「部屋に戻りなさい。ジョー・マローンの香水でも好きなだけ振りまくがいい。下の標本保管庫の冷却システムに不具合が出ただけだ。江戸が片付けを手伝ってくれる」
蓮華は黙り込み、父が持つ黄色いバッグを虚ろな目で見つめると、力なく頷いて一言も発せずに立ち去った。父の支配力は、この家で最も強力な麻酔剤だ。
母が去った後、父は僕に視線を向けた。その眼差しに誇らしさはなく、冷徹な技術的警告に満ちていた。
「江戸、廃棄物管理が疎かだ。視神経に執着するあまり血管の無菌状態を忘れたせいで、海斗の切開部位に壊疽が始まっている。母が完全に正気を失う前に、自分の不始末を清掃しろ。さもなくば、私がお前たち三人をまとめて『処理』することになるぞ」
僕は深く頭を下げた。「承知いたしました、父さん」
地下に戻ると、声もなく喘ぐ海斗の傍らに座る朱里が見えた。彼女は、まるで新しい人形に装飾を施すように、感覚の失われた海斗の耳にピアスを付けようとしていた。
「江戸くん」朱里は振り向き、口角が裂けんばかりの広いヤンデレの微笑みを浮かべた。「お義母様に見つかるところだったわね。ゾクゾクするじゃない?」
僕は一つの事実に気づいた。この家において、最大の脅威は死にゆく海斗ではない。疑い始めた母と、制御を失った婚約者だ。
隠しきれない腐敗の臭い。犬神家の完璧な仮面の下から、真実が漏れ出し始めています。
次回、第9章。江戸は海斗を「保存」するために、より過激な処置を決行します。
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