第9章:保存と排除
#犬神家 #腐った愛の解剖学 #サイコスリラー #医学サスペンス #なろう小説 #創作
「異世界の英雄なら死者を蘇らせることもできるだろうが、僕は腐敗を止める芸術の方を好む。この地下室で、僕は過激な防腐処置を強いられていた。僕の最初の『作品』が、母の口うるさい嗅覚に捕まらないように。僕が海斗の肉体の保存に没頭している間、朱里は別の処置を企てていた。この屋敷の障害を『排除』するための計画を。彼女にとって真実の愛とは、親の許可など必要としないものなのだ」
その腐臭は、反論の余地のない法医学的証拠となる前に、速やかに封じ込められなければならなかった。僕は、今や機械的な人工呼吸器を通じてのみ呼吸を続けている海斗の身体の前に立った。末梢循環の深刻な不全により、彼の心臓はまだ鼓動しているものの、皮膚には死斑が現れ始めていた。
僕は太いカニューレを取り出し、ポンプマシンに接続した。ガラス瓶の中には、ホルマリン、グルタルアルデヒド、そしてエオシン染料の混合液が準備されている。
「江戸くん、彼を像にするつもり?」部屋の隅で小さなメスを研ぎながら、朱里が尋ねた。彼女の瞳は化学薬品の瓶を見つめてギラついていた。
「生体防腐処置を行うんだ」僕は感情を排して答えた。「心臓がポンプ機能を果たしているうちに、血液を保存液に入れ替える。そうすれば、すべての組織が最小の毛細血管に至るまで完璧に固定される。彼は腐ることはない。永遠になるんだ」
僕は海斗の大腿動脈にカニューレを挿入した。マシンのスイッチを入れると、不自然なピンク色の液体が流れ込み、静脈カテーテルを通じて海斗の本物の血液を押し出していくのが見えた。海斗の身体が激しく震えた。化学薬品が細胞内のタンパク質を硬化させる前の、最後の交感神経反射だ。
「美しい芸術だ」海斗の顔の蒼白な色が、硬質で人工的な桃色へと変化していく様を観察しながら、僕は呟いた。
「江戸くん」朱里が近づき、鋭い爪先で僕の首筋をなぞりながら耳元で囁いた。「お義母様……最近、少し喋りすぎじゃないかしら。さっきも、下の配管を壊して業者を呼ぶなんて言っていたわ。それはとても困ることでしょう?」
僕は黙り込んだ。意識はポンプの圧力監視と、朱里の言葉の間で分割されていた。
「彼女のために、新しい『お薬』を用意したの」朱里は甘い失笑を漏らして続けた。「蓮華さんは、江戸くんからのビタミン剤の注射が大好きよね。明日、特別な投与をしてあげたらどうかしら? インスリンとスキサメトニウム(サクシニルコリン)の混合液よ。彼女はとても美しく眠るわ。顔にシワ一つ作らずに……永遠にね」
僕は朱里の方を向いた。彼女の計画は、完璧な医療過誤だった。スキサメトニウムは筋弛緩剤だ。意識があるまま呼吸ができなくなり、適切な用量であれば通常の検死では痕跡を残さない。
「彼女は僕の母親だぞ、朱里」僕は淡々と言った。
「僕たちの邪魔者よ、江戸くん」朱里が言い返す。彼女のヤンデレな瞳が、僕の魂に穴を開けるような強烈な意志で射抜いてくる。「このラボを安全に保ちたいでしょう? 二階で誰の悲鳴も聞こえないまま、こうして僕たちだけで続けていきたいでしょう?」
僕は、今や完全に固定され、無臭で硬質な肉のモニュメントとなった海斗を見た。それから朱里を見た。彼女の狂気が、僕の病んだ解剖学的ロジックの中で正当性を持ち始めていた。
犬神家において、愛情は常に注射針の先を通じて表現される。そしておそらく、明日は母にとって最後の「トリートメント」の予定日になるだろう。




