第4章:望まぬ診断
#犬神家 #腐った愛の解剖学 #サイコスリラー #医学サスペンス #なろう小説 #創作
「東大の教授はいつも言っていた。正確な診断は鋭い観察から始まると。不運なことに、僕の友人の一人がその教えを僕に実践し始めた――爪の間の汚れや僕の目の下の隈を観察し、まるで僕を解剖待ちの標本のように見つめている。ファンタジーの世界なら秘密は魔法で永遠に葬り去れるかもしれないが、僕が歩む医学の現実では、夜の『趣味』を守るための小さなミス一つが、心不全の患者の鼓動よりも早く僕のキャリアを終わらせてしまう」
僕は医学部図書館で末梢組織移植のジャーナルに没頭していた。その時、一つの影が僕の机を覆った。
「江戸くん、顔色が悪いね。貧血かな? それとも慢性的な不眠症かい?」
顔を上げると、そこにいたのは海斗だった。常に僕の次点に甘んじている学問上のライバルだ。彼はあまりに目ざとい。検査結果に異常を見つけるまで決して手を止めないタイプの学生だ。
「ただの勉強疲れだよ、海斗」僕は平然と答え、急いでいるように見えないよう計算された動作でジャーナルを閉じた。
「勉強疲れで、毎朝九時に白衣の繊維からホルマリンやクロルヘキシジンの臭いが漂うことはないよ」海斗は僕の前に座り、腕を組んだ。「それにその爪の間の汚れ……万年筆のインクじゃないよね? 色が酸化しすぎている。まるで乾燥したヘモグロビンだ」
心臓が跳ねた。完全には制御しきれない頻脈。僕はすぐに手を机の下に隠した。忌々しい。昨夜の母への処置のせいで、除染が少し疎かになっていた。
「幻覚でも見ているんじゃないか、海斗。休養が必要なのは君の方だ」声は冷徹さを保っていたが、頭の中では彼を黙らせるための様々なシナリオを解剖していた。
「二日前の深夜三時、東大の解剖実習室から出てくる君を見たよ。実習のスケジュールなんてなかったはずなのに」海斗は顔を近づけ、その声は危険な囁きへと変わった。「あそこで何をしていたんだ? 標本の窃盗か? それとも、自宅に自分用の『練習台』でも持ち込んでいるのかい?」
細部に対する海斗の執着は、臨床的な脅威になり始めていた。もし彼がこの観察を続ければ、犬神家の地下室で起きていることについて、正しい診断に辿り着いてしまう。
「憶測でものを言わない方がいい、海斗。名誉毀損はこの病院での君の将来を台無しにするぞ」僕は静かに脅した。
「憶測じゃないさ、江戸。僕はただ……臨床観察をしているだけだよ」彼は立ち上がり、勝ち誇ったような笑みを浮かべて立ち去った。
僕は沈黙した。手が僅かに震えている。外科医の卵にあるまじき微細な振戦。制御を失いつつある感覚。医学の世界では、一度でも『行動異常』を疑われれば、キャリアは埋葬を待つだけの死体と同じだ。
スマートフォンが震えた。朱里からのメッセージだ。
『江戸くん、今朝帰ってきた時、あなたの白衣から知らない誰かの匂いがしたわ。嫌いな匂い。その「邪魔者」を消すのを手伝ってあげようか?』
僕はそのメッセージを、戦慄と暗い安堵が混ざり合った気持ちで見つめた。朱里は、そのヤンデレとしての本能で、キャンパスにいなくとも海斗からの脅威を感じ取っていたのだ。
状況は危機的だ。選択肢は二つ。朱里に任せて海斗を無残なやり方で処理させるか、あるいは彼が父や警察に報告する前に、僕自身の手で同級生に『清掃手術』を執刀するか。




