第1章:東大の模範生
#犬神家 #腐った愛の解剖学 #サイコスリラー #医学サスペンス #なろう小説 #創作
「転生なんて忘れるがいい。東京大学では、人間の存在とは組織と器官の精密な配列に過ぎないと教えられる。君に人体の解剖学を教えてあげよう。教科書からではなく、僕が手術台の上で見てきた真実を」
文京区に降り注ぐ春の日差しは、あまりに眩しすぎる。僕は完璧に計算された歩調で、象徴的な赤門をくぐり抜けた。一点の曇りもない白シャツに、肩に完璧に馴染んだダークブルーのジャケット。腕にはタブレットと医学雑誌の入った革のバッグを提げている。
「江戸くん! おはよう!」
僕は立ち止まり、わずかな微笑みを浮かべた。鏡の前で数千回練習した、大頬骨筋の収縮。それが他人には誠実な笑顔に見えるように。
「おはよう、佐藤さん」僕は穏やかに答えた。
佐藤は快活な医学部最終学年の学生だ。彼女の目に映る僕は、国家試験で最高得点を叩き出し、将来多くの命を救うであろう若き天才外科医候補、犬神江戸だ。彼女は、僕が彼女を見つめる時、単なる外見を見ているのではないことを知らない。僕はその内側にある解剖学的な構造を分析し、完璧な切開のラインを無意識にシミュレーションしているのだ。
「さっき田中教授が君の組織再生に関する研究レポートについて聞いてきたよ。天才的だって言ってた!」豪華な医学部棟へ向かう道中、佐藤は喋り続けている。
「僕はただ、なすべきことをしただけだよ」僕は謙虚に答えた。
講義室では、僕は最前列に座る。模範生として。神経生物学の詳細を記録する。しかし、僕のiPadに記された医学的メモには、別の目的がある。細胞の図解の裏側で、僕は今夜の特別なケアのために必要な手順を緻密に計算しているのだ。
スマートフォンが震えた。カスタマイズしたホームセキュリティ・アプリから通知が届く。
【動体検知:地下室】
タブレットの隅で、隠しカメラの映像を確認する。そこには、医療機器の光に照らされた暗闇の中、手術台の端に座る朱里の姿があった。彼女は昨夜僕が施した処置の痕を確認している。彼女は僕とのこの奇妙な繋がりを受け入れているようだった。
彼女はカメラの方を向き、僕が監視していることを見透かしているかのように微笑んだ。彼女の唇が音もなく動く。「早く帰ってきて、先生」
「犬神くん? 統合失調症患者におけるシナプス・メカニズムについて説明してくれるかな?」田中教授の声が僕の思考を遮った。
僕は静かに立ち上がった。動揺も、震えもない。きわめて臨床的でエレガントな言葉を選び、医学的な詳細を解説する。講義室全体が静まり返り、僕の知性に圧倒されていた。
彼らが見ているのは、救世主としての天使。日本の医療界の輝ける未来。
彼らは、僕の指先に残るわずかな違和感に気づかない。この世界では、十分に聡明で、十分に完璧な仮面を被っていれば、人々は疑うことなく自分の運命を君に委ねるのだ。




