第13章:信頼の解剖
#犬神家 #腐った愛の解剖学 #サイコスリラー #医学サスペンス #なろう小説 #創作
「ファンタジーの世界には真実を暴く魔法の探知機があるかもしれないが、この現実世界にあるのは、佐藤刑事という男と彼の忌々しい鑑識機材だ。彼が地下室の壁を叩き始めたとき——東大生の精密さで隠したはずの空洞を探り当てようとする姿を見て——僕は確信した。科学はどんな預言よりも執拗だということを。だが、佐藤のUVライトよりも危険なのは朱里だった。彼女はメスの柄を握りしめ、僕たちの秘密が解剖されるくらいなら、この家を屠殺場に変えた方がマシだと言わんばかりの視線を放っていた」
地下室の天井にある蛍光灯が点滅し、部屋の隅で屈み込む佐藤刑事の影を揺らした。彼は超音波壁構造スキャナーを取り出し、僕が磨き上げたばかりのセラミックタイルの上に滑らせ始めた。
「ここの壁の音……少し変だね、江戸くん」佐藤は振り向きもせずに呟いた。「この14番目のタイルの裏側に不連続性がある。空気層があるようだ」
指先に血管収縮が起きるのを感じた。そのタイルの裏には、海斗の保管タンクのロックメカニズムが隠されている。もし彼がそこをもう少し強く押せば、僕の医学キャリアも犬神家の命運も、すべて公衆の面前に晒されることになる。
「それは予備の換気ダクトですよ、刑事さん。化学ガスの蓄積を防ぐために、この家は二重の空気循環システムを採用しているんです」僕は臨床的な声を保って答えたが、頭の中では佐藤ほどの体重の男の心臓を止めるのに必要な塩化カリウムの致死量を計算していた。
しかし、真の脅威は佐藤からではなかった。
横に目をやると、朱里が佐藤の背後に立っていた。顔は影に覆われている。エプロンの下に隠された小さな手には、僕が病理学ラボから盗み出したステンレス製のスカルペルが握られていた。彼女の咬筋が強張っているのが見える。彼女は歯を食いしばっていた。
ヤンデレとしての本能が限界点に達している。彼女はもう戦略などどうでもよかった。ただ僕たちの「巣」を守りたがっているのだ。
「江戸くん……」朱里が囁いた。その声は金属が擦れ合う音のように聞こえた。「この人……あなたの愛した壁に触れてる。私たちの世界を壊そうとしてる」
「朱里、落ち着け」僕は視線で彼女を制そうと囁いた。
佐藤の手が止まった。彼は部屋の空気が変わったのを察知したようだ。彼は立ち上がり、腰の銃へ手を伸ばした。「君たち、様子がおかしいな。やはり署まで同行して——」
佐藤が言い終わる前に、朱里が跳ねた。
その動きに医学的な洗練さはなかったが、マニックな(躁的な)凶暴性に満ちていた。彼女は佐藤の背中に飛び乗り、右手のスカルペルを刑事の頸動脈めがけて振り下ろした。
「江戸くんに触らないで! 私たちの家に触らないで!」朱里が叫んだ。その声はヒステリックな悲鳴となって弾けた。
佐藤は呻き声を上げ、朱里を床に叩きつけようとしたが、朱里はすでに刑事の首の側面を引き裂くことに成功していた。鮮やかな赤い血が、僕が清掃したばかりのタイルの壁にしぶきを上げた——僕の全除染プロトコルを台無しにする生物学的汚染だ。
僕は立ち尽くした。目の前で佐藤刑事が膝をつき、収縮期のリズムで噴き出す血を止めようと首を抑えている。朱里はその前に立ち、手に付着した血を恍惚とした表情で見つめていた。
「見て、江戸くん」朱里は僕を振り返った。その瞳は純粋な狂気に満ちて見開かれている。「もう、この人は喋れないわ。海斗くんの隣に、新しいコレクションとして並べられるわね?」
僕は開いたままのエレベーターの扉を見た。「東大の模範生」であり続けるチャンスは、佐藤の血管が破れた瞬間に死んだのだ。今の僕には、自分の婚約者が作り出した凄惨な混沌を執刀する外科医になる以外、道は残されていなかった。




