第12章:除染プロトコル
#犬神家 #腐った愛の解剖学 #サイコスリラー #医学サスペンス #なろう小説 #創作
「異世界小説において、戦闘の痕跡を消し去ることは高位の浄化魔法を唱えるのと同じくらい容易なことだ。しかし、刑事たちが階上で茶を啜っている間、僕が最も必要としていた魔法は、血痕を擦り洗いし、ホルマリンを撒き散らす手の速さだった。これは時間との戦いだ。地下室の床の隙間に残された一滴の体液は、いかなるドラゴンの呪いよりも致命的となるのだから」
頭上のすぐ上にある応接間から、磁器のカップが触れ合う音が聞こえる。佐藤刑事の重い足音が微かに響き、それに続いて、朱里の柔らかく、そして欺瞞に満ちた声が聞こえてきた。
「どうぞ、刑事さん。静岡の特別なお茶ですわ。江戸くんは今着替えておりますの。先ほどまで個人実習をしておりましたから」
インターホンのモニター越しに聞こえる朱里の声は、この上なく甘い。彼女は完璧な婚約者という役割を演じながら、同時に、人間たちが個人用エレベーターに近づかないよう防波堤の役割を果たしている。
ここ階下では、意図的に10度まで下げた室温の中、僕は生物学的な現実と格闘していた。
完全に防腐処置を施された海斗を、防音壁の裏に隠された保管タンクへ移動させなければならない。硬直した彼の体は異様に重かった。今や物理的な実体となった罪の重みだ。僕は彼を中へ引きずり込み、油圧式の扉をロックした。
一分が経過。
僕は高濃度の次亜塩素酸ナトリウムのボトルを掴んだ。混乱しながらも正確な動作で、ステンレス製の手術台にその液体を浴びせる。台のボルトの隙間にこびりついた血清とタンパク質の残渣を擦り落とす。刺激的な塩素の臭いが肺を満たすが、刑事に海斗の髪の毛一本でも見つけられるくらいなら、肺水腫で死ぬ方がマシだ。
「江戸くん、刑事がこの強い洗剤の匂いについて尋ねているわ」
イヤホンから再び朱里の声が届く。そこには警告のニュアンスが含まれていた。
「階下のラボで消毒液のボトルを割ってしまったと伝えてくれ」
高圧水で床を流しながら、僕は低く囁いた。
部屋の隅に視線をやる。白のリネンに覆われ、安置された母の遺体は、使われなくなったマネキンのように見えた。滅菌器の外に手術器具が一つも残っていないことを確認しなければならない。血に染まったガーゼをすべて壁の小型焼却炉に投げ込み、火をつけた。煙は外部に漏れないよう、カーボンフィルターを通して排気される。
三分が経過。
「江戸くん、彼らがラボを見たがっているわ。もうこれ以上は引き止められない」
朱里の声が鋭くなった。彼女がスカートのひだに隠し持っているであろう小さなナイフに手をかけている光景が目に浮かぶ。
僕は汚れた白衣を脱ぎ捨てて全自動洗濯機に放り込み、新しい清潔な白衣を羽織った。鼻を突く化学薬品の臭いを打ち消すため、シトラスの香水を振りかける。
エレベーターのボタンを押す。心臓は機能的な頻脈のままだ。毎分120回。
階上でエレベーターの扉が開いたとき、僕は退屈な病理学の研究を終えたばかりのような、平然とした顔で外に出た。佐藤刑事は扉のすぐ前に立ち、僕を見て目を細めた。
「お待たせして申し訳ありません、刑事さん」
白衣の襟を整えながら僕は言った。
「先ほど滅菌用のボトルを割る不手際がありまして。よろしければ、僕の個人ラボをご覧になりますか? 教科書と、行政的に認可されたいくつかの組織標本があるだけですが」
朱里は刑事の傍らに立ち、抑え込まれた狂気で瞳をぎらつかせていた。彼女は僕に微笑む。僕が合図さえすれば、誰であろうと殺す準備ができているヤンデレの微笑みだ。
ゲームは始まったばかりだ。書類上、僕の地下室は清潔だ。しかし鑑識の世界において、真実はしばしば最も予期せぬ場所に潜んでいる。




