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キンセンカ  作者: 櫻美
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13/14

十三

今日は珍しく公園に人がいなかった。

静まった公園はまるで今の私を表すかのように

どこか寂しげに思えた。

溢れる涙を手で拭って自分の足を見つめ

また溢れれば拭ってを繰り返していると

足元に違う誰かの足が見えた。

顔を上げ、目が合うと相手は哀れむような眼差しで

私を見下ろしそっと伸ばした手で私の頭を撫でた。

その優しさに戸惑う私を無視して横に座り

こっちも見ずに静かにしていた。

膝の上に置いた手をもじもじさせてみたり

足で地面を引っ掻く様にしてみたりと

とにかく落ち着かないのでじっと出来なかった。


「俺さ、誰にも言わないから。」


こちらも見ないで真っ直ぐ向いたまま

けれど、言葉はちゃんと私の方を向いていた。

気が済むまで泣いた私は男に


「ごめんなさい」

「何が?なんで謝んの?」

「だって、」

「謝る必要なんてないから、謝らなくていいよ」


続けて男は


「いつも泣いてんの?」

「たまに。」

「へぇ、」

「どうして来たの?」

「いや、別に。なんとなく」


一度も目を合わせずに、淡々と会話が流れる。


「俺の事、どう思ってんの?」

「どうって、別に。」

「ははは、なんだよそれ。

怖がられて、避けられてるんだろうなと思ってさ」


初めて見せた笑った顔。

爽やかだけど、何処か子供の様な無邪気さ。

「あぁ、こんな顔するんだ。」と心で思った。


「家に来ても、やっぱり寂しいのか?」

「うん。」

「そっか、仕方ないか。親父は?」

「お父さんは仕事だよ。忙しいの」

「そっか。」

「うん」

「じゃ、俺が、お兄ちゃんが居てやるから。

いっぱい遊んでやるよ。それで寂しくないだろ?」

「お兄ちゃん?」

「そう、お前の兄貴。兄弟だったらさ

こう言う、なんて言うか

妹が寂しい時とかさ、泣いてたら

一緒に居るもんだろう?だからさ、俺には

甘えてもいいから。」


頼もしくて、素直に嬉しかった。

真っ直ぐな言葉に私の方が照れ臭くて

どんな顔をしていいのか分からず

ちらりと茂兄さんの方を見ると

茂兄さんも何処か照れくさそうに見えた。


「そろそろ帰るか?」

「うん、」


この日の事がきっかけで

私と茂兄さんの距離は明らかに縮まった。

二人で近所に遊びに行ったり

お留守番だってへっちゃらだった。

小学生から中学生になっても暫くは

ずっと一緒だった。

茂兄さんに懐いた私は一緒に居たくて

勉強だって、解ける問題もわざわざ聞いて

学校で過ごしている時も早く家に帰りたくて

茂兄さんに会いに行きたくてチャイムが鳴ると

急いで家に帰る日々だった。


そして、私が中学生の頃母は亡くなった。


私は何日も何日も引きずって

辛くてどうしようもなかった。

支えが、誰かの優しさが必要だった。けれど

そんな時に茂兄さんは側にいてくれなかった。

高校生でバイトをし始めた茂兄さんは

家に帰ってくるのも深夜十二時を過ぎてからで

その頃からお酒を飲んだり煙草も吸うようになった。

朝帰りが目立つので叔父さんから注意を受けたが

特に反省している様子もなかった。

どこか私を避けているような、

冷たい空気を纏って私を近づけさせないように

しているようだった。

「今日は予定があってさ、」何十回、何百回も

言われ続けた。

明らかな違和感を覚えてから

その理由を悟るまでにそう時間はかからなかった。

中学校からすぐ近くにある交差点で

帰りに信号待ちをしていたところ、反対側で

茂兄さんの存在を認めた。

私は気まずいような、けれど向こうにも

気づいてほしいような、信号と茂兄さんを

交互に見て青になって渡り出してから

すぐに茂兄さんが誰かと一緒だとわかった。


「あぁ、そう言う事か。」と納得した私は

無論、声をかける事も目線を配る事もなく

他人。としてすれ違った。

信号を渡り終えて一度だけ振り返り


「隣が私だったらよかったのに」


そう思ったのは確かだった。




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