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場面7 ターミネーター

 玄関から外に出た誠司は姉の芽衣子がどこにいるのか見渡した。


 藤田家から教会への途中に人影が無かったので、庭の方に回ると、そこに芽衣子は居た。


 10フィートコンテナと一緒に。


「これなんだろねー。昨日までこんなの庭になかったけど。」


「10フィートコンテナだろ。たまに職場でも使うよ。」


「ホームセンターで?売ってるの見たことないけど?」


「いや、売り物じゃなく搬入用。横幅は固定で8フィート。長さは色々あるけど、これは10フィートだと思う。だからメートルにすると、えーっと――」


「1フィートが約30センチだから、10倍で300センチ、約3メートルねー」


 アメリカ暮らしをしていた芽衣子にとっては身近なインチとフィートを利用するヤードポンド法だったが、靴とテレビくらいでしか馴染みの誠司にとっては、仕入れ担当の同僚を苦しめる存在でしかなかった。


「ノックノック、コンコン!誰か入ってますかー?」


 扉にノックする芽衣子だったが、何も反応は無かった。


「ねぇこれどうやって開けるの?」


 縦に伸びる鉄製の2本の棒が扉の上下に備え付けられた金具でガッチリと固定されており、それぞれの棒からはドアノブのような持ち手が伸びているが、持ち手部分も金具に挟まれてガチャガチャと音を出すだけだった。


「ああ、これはノブの金具をズラしてから上に持ち上げて――」


 コンテナの扉に手を掛けようとした誠司だったが、気掛かりが有った。



――中はどうなっているんだ?――



 次の瞬間、誠司の脳裏にトラウマが蘇った。


 誠司の職場である『ケインズホームセンター』では種芋も扱っており、中間業者の手違いで真夏の港にコンテナに入れっぱなしで、更に、数か月放置された種芋が納品された事が有ったが、そうとは知らない誠司がトラックの荷台に積まれたコンテナの扉を開けた時、胸の辺りから滝で打たれたように汚水まみれになり、体に染みついた臭いは10日間は取れなかったのだった。


 今にして思えば微妙に変な臭いがしてたし、扉の下から変な汁も垂れてたよなぁと辛い記憶を反芻しながら、目の前のコンテナを調べる誠司だが、特に変わった様子も無かった。


 そのまま耳を押し当てたが何も音がしないので、観音開きになる扉の片方だけロックを解除し、ゆっくりと少しだけ扉を開けた。


「――――」


 誠司の緊張感が芽衣子にも伝わり、固唾を飲んで見守ったが

特に何も起きない。


 沈黙に耐えかねた芽衣子が開きかけの扉に近づくと、一気に開け放った。


「なーんだ。何も無いじゃない。つまんなーい」


中は空っぽだった。


「ほんとだ。何も無いな。それどころか新品そのものじゃないかコレ」


 雨風に晒されながら再利用前提で作られたコンテナは手荒に扱っても壊れないよう頑丈に作られているが、その頑丈さ故に雑な扱いをされる事も多く、実際に誠司が普段から目にしていたのも地面との設置部分が削れているモノが殆どだった。


 しかし藤田家の庭に出現したのは、まるで今日この場所で製造されたように足の角も立っていて、塗装にも一切の剥げが無かった。


「ふーん。でも中に入ると3メートルも有ると思えないなー」


「ああ、内寸で言うなら2メートルちょいだな。ほら、壁材に使われてる鉄板が波打ってるだろ?これで強度を上げてるらしい――って、勝手に一人で中に入るなよ!閉まったら中から開けられないんだ!窒息とか餓死したり、事故も多いんだぞ!」


 コンテナの状態に気を取られてスルリと中に侵入していた芽衣子に注意する誠司だったが、未だに好奇心が旺盛な芽衣子にとっては逆効果だった。


「そうなの?!じゃあ閉めて閉めて!」


 目をキラキラさせて頼む姉に、こうなったメイ姉はどうにもならないと注意するのを諦めた誠司はそっと扉を閉めた。


 閉めると同時に金具はガチャリと音を立てて扉をロックした。

 誠司がロックした訳ではない。構造上そうなっているからだ。



 外から扉を閉められてしまうと、扉の上下に空いた僅かな隙間から漏れる明かりだけが頼りで、広くない空間だが芽衣子には奥の方も見えなくなってしまった。



――何これツマンナイ――



 2秒と経たずに飽きた芽衣子は扉を押し開こうとしたが全く動かなかった。

 めげずに2度、3度とチカラを込める芽衣子だったが、全く変化ナシだった。


「ちょっと開けなさいよー!何ロックしてんのよー!なめんじゃないわよー!」


 やさぐれ口調で抗議するように扉を叩き始めた芽衣子に(だから中から開けられなくなるって言ったじゃん)と心の中で突っ込む誠司の誠司のもとに、父である新之助が飽きれ顔でやって来た。


「何やってるんだ、お前たちは」


「そうだなぁ『話を聞かない"お子様"に躾なう』って感じかなぁ」


 やれやれだぜといった顔とポーズをする誠司だったが、(本当の子供相手にこんな事したのが世間にバレたら即炎上だなぁ)などと考えていた。


「遊んでないで、これからどうするか考えるぞ。家族会議だ」


 兄弟のじゃれ合いにしか見えなかった新之助は二人を放置して玄関に戻っていった。


「へーい。」


 おざなりな返事をする誠司だったが、コンテナの中に居るはずの芽衣子の声が聞こえず、静かになっている事に気付いた。


 まさか窒息か?!と焦った誠司が扉を開けると、かがんだ体勢の姉が居た。


それも全裸で。









「――何やってんの?」


 状況が掴めず、そう聞くしかない誠司に芽衣子は何も答えない。


「もしもーし?」


 再度問いかける誠司へ応えるように芽衣子はゆっくりと立ち上がった。

凛々しく胸を張って。


しかし全裸だった。









「………」


 体は微動だにせず、しかし首から上だけを水平に動かして周りを観察するような動きから、(なんか何処かで見た事あるんだよなぁ)と、デジャブを感じた誠司に、ようやく芽衣子は言葉を発した。



「お前の服をよこせ」


「?!」


「バイクとブーツもだ」


「――えっと、『"お願いします"が抜けてるぜ』だっけか?」


 もしやと思った誠司だが、二言目で(ああ、これ州知事になった人だ)と分かり、心配した自分がバカだったと後悔した。






「何やってんだよバカ姉が!」


「知らないって!気付いてたら裸だったんだもん!だったらコレを言うしかないでしょーよ!!」


 言われてコンテナの中を覗く誠司だったが、芽衣子が着ていたジャージもサンダルも無く、隠せる場所も無かった。


 芽衣子の足元を見れば素足で(なるほど完全に全裸だな)と確認した誠司の視線に、女としてではなく、ただ人としての恥ずかしさに耐えられなかった芽衣子は茶化し始めた。


「もう、いゃーん♪」


 今更ネコナデ声で恥ずかしがる素振りを演じる芽衣子を無視し、誠司は着ていたTシャツを投げつけて、縁側に置きっぱなしのビーチサンダルを思い出して取りに行くと、芽衣子の足元に転がすと、雨が降ってきた。


「とりあえずそれ履いて。一旦戻ろう」


「そうねー」


 どうして全裸になったのか。

 どうして庭にコンテナがあるのか。


 気になる事は有ったが、雨の中でTシャツにビーチサンダルという痴女スタイルのままでは、まともな話も出来ないと思った二人は大人しく玄関に向かった。

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