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場面41 博史の失敗

 博史は会社の会議室で打ち合わせをしていた。相手は世界で様々な建築やインフラを請け負う、いわゆるスーパーゼネコンの幹部が数人。


「では鋼材の調達先は国外へ切り替えですね。勉強したというから、わざわざ来てみれば…結局値引きだけで炭素税の問題をクリア出来ていませんよね。」


 取引先幹部は呆れ返り、博史に冷たく文句を言い放っていた。


「現在は研究が進んでいます!数年で二酸化炭素の排出量は激減する見込みです!その間は値下げによって御社の利益を損なわないようにさせて頂きました!」


「とはいえ、いつまでに実現出来るか確約出来ませんよね?あのね、藤田さん。分かると思うけど大事なのはイメージなの。分かるでしょ?」


「…わかります。しかしトップ企業の御社が国外に切り替えれば右へ倣えで他社も一気に国外鉄鋼会社に流れてしまう!そうなれば日本の鉄鋼業はおしまいだ!日本の鉄鋼業が終われば日本の終わりだ!」


「産業の米ってやつですか?いつの時代の話をしているんだ。時代は半導体でしょ?うちだってただ鉄材を組み立てるだけじゃない。建築ロボットやインフラ制御に伴うソフトとセットで価値を生み出しているんだ。ソフトを蔑ろにしてきたあんたらに、日本がどうこう言われる筋合いはない!これで失礼する!」


 激昂した幹部は椅子を蹴って会議室を出ていった。残されたのは頭を抱える博史と、その後輩だった。


「先輩やばいですって。コストカットもゴリ押しで約束を取り付けたのに、取引がパーになったら先輩の責任問題に…。」


「そんな事は分かってる!くそっ!あいつ昔の事をまだ根に持ってやがるんだ!」


「昔からの知り合いで?」


「ああ、奴とは大学の同期だ。」


「同期なら普通は友達ですよね?仲が悪いように見えましたけど…。」


「最初は友人だったさ。ただ、奴とは千秋を――いや、なんでもない。もう少し話せる人間だと思ってた俺がバカだった。それより今度は自動車関連で対抗策を考えないとまずいぞ。…駄目だ。ちょっと頭冷やしてくる。お前はもう帰っていいぞ。議事録は俺が作るから。」


「それは…わかりました。お先に失礼します。」


 後輩は博史以外の飲み物をトレーに乗せると、会議室を出ていった。残された博史は一人ですっかり温くなったお茶を飲み干した。


「少し気張りすぎたかな…。」


 異世界に行ってしまった家族に対し、何も出来なかった自分。そして異世界の子供の為に薬を求めて無事に解決した芽衣子を思って、博史は更に不甲斐ない存在に思えていた。


「俺に出来る事…か。」


 妻と子供の写真を見ようとした博史はプライベートのスマホを取り出したが、そこには父の新之助からのメッセージが来ていた。


「親父からか。今度はどんな用事かね。」


 メッセージには植物の売却先を探している旨と、その条件と理由が書かれていた。


「なるほど。変わった植物に金を出す人間も居る…か。誠司の差し金か?」


 博史は誠司達の動向を芽衣子が使っている『つぶやく系SNS』でチェックしており、まさか父の得た方針とは思わなかったので、誠司に電話をかけた。


「メッセージ見たぞ。あれは誠司のアイディアだろ?…何?親父が?――ああ、掲示板か。なるほど。うん?ああ、心当たりは有るぞ。新規素材の調達関連で相談に乗って貰った変わり者の元学者が居る。顔も広いから、そこから更に紹介してもらう事も可能だろうな。ただし売るにしても売れないにしても、商談するならサンプルは必要だぞ?提案はこちら側になるからな。まぁ商談と言っても恐らく向こうの言い値になると思うが…。」


 その後、博史はサンプルの連携時期や受け渡し方法などを話し合った。


「ところで芽衣子は元気なのか?SNSを見る限りでは元気そうだけど、あいつは帰国してから暫く別人みたいだったらしいじゃないか。今回は国どころか世界すら違うからな…何?!そうか、足が治ったのか。なら良かった。いや、別に話す事もないからな。それじゃサンプルが集まったら連絡をくれ。」


 電話を切ると、芽衣子が帰国したと聞いて暫くしてから父から連絡を貰った日の事を思い出していた。


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